Three Marlenas by The Wallflowers（1996）楽曲解説

楽曲レビュー

2025.05.22

1. 歌詞の概要
2. 歌詞のバックグラウンド
3. 歌詞の抜粋と和訳
4. 歌詞の考察
5. この曲が好きな人におすすめの曲
6. “選びきれなかった未来の声を聴く”

1. 歌詞の概要

「Three Marlenas（スリー・マルレーナズ）」は、The Wallflowers（ザ・ウォールフラワーズ）が1996年にリリースしたセカンド・アルバム『Bringing Down the Horse』に収録された楽曲で、アルバム後半の静謐な美しさと、寓話的な深みを象徴する一曲である。
この曲は、繊細なピアノのイントロから始まり、物語的な歌詞が進行するバラードであり、聴き手を静かな感情の流れへと導いていく。

タイトルの「Three Marlenas（3人のマルレーナ）」は、実在する人物ではなく、“ひとりの女性の異なる面”や“異なる選択肢を持った人生の分身”を象徴する比喩的存在として描かれる。
歌詞では、マルレーナという名前の女性が3人登場するが、彼女たちはそれぞれ別の風景の中で生きており、それは人生の岐路、自己像、あるいは過去・現在・未来のメタファーとして読み解くことができる。

語り手は、この3人のマルレーナを通して、「なぜ人は変わるのか？」「どれが本当の自分なのか？」「どこに帰ればいいのか？」といった根源的な問いに向き合っていく。

2. 歌詞のバックグラウンド

The Wallflowersの『Bringing Down the Horse』は、全米で400万枚以上のセールスを記録した90年代を代表するロック・アルバムであり、ボブ・ディランの息子ヤコブ・ディランが中心となって制作された作品としても注目された。
「Three Marlenas」はシングルとしてもリリースされ、派手さはないものの、ファンの間では長らく支持されてきた“隠れた名曲”である。

この曲の持つ幻想的で文学的な語り口、そして内省的なムードは、ヤコブ・ディランがただのロックンロールの後継者ではなく、詩的な視座を持つソングライターであることを証明している。
彼はインタビューの中で、この曲について多くを語ることを避けているが、それもまた、“解釈の余白”が用意された意図的な構造の一部と考えられる。

3. 歌詞の抜粋と和訳

以下に、「Three Marlenas」の印象的なフレーズを抜粋し、日本語訳を併記する。

“Alone in a world with millions of souls”
「何百万もの魂がひしめくこの世界で、彼女はひとり」

“Each one searching for what’s beyond their nose”
「誰もが、自分の鼻先の先にある何かを探している」

“Three Marlenas came to town / One stayed, one left, and one went underground”
「3人のマルレーナが街にやってきた / ひとりはとどまり、ひとりは去り、ひとりは地下に潜った」

“She says, ‘This place, it’s so bare / It ain’t anywhere’”
「彼女は言う、“この場所は空っぽ / どこでもないみたい”と」

歌詞全文はこちらで確認可能：
The Wallflowers – Three Marlenas Lyrics | Genius

4. 歌詞の考察

「Three Marlenas」は、自己認識や選択、そして“逃避と再生”をテーマにした哲学的バラードである。
3人のマルレーナは、それぞれ異なる選択をし、異なる場所で生きている。
この設定は、人生の岐路に立つすべての人間の内面を象徴しており、“私たちの中には、常に複数の選択肢と人格が存在している”という真理を浮かび上がらせる。

歌詞の冒頭にある「何百万の魂の中でひとりでいる」というラインは、都市に生きる人間の孤独と、集団の中でなお個であるというアイデンティティの切実さを映している。
そして「ひとりは残り、ひとりは去り、ひとりは地下に潜った」という詩的な描写は、明確な説明を避けながらも、「生き延びる」「逃げる」「身を隠す」という人生の3つの選択肢を象徴しているようにも読める。

また、「この場所はどこでもない」というフレーズには、空虚感と同時に“どこにでもなれる可能性”という逆説的な希望も含まれている。
つまりこの曲は、喪失と自己探求の狭間に揺れる人間の姿を、柔らかく、しかし鋭い筆致で描いているのだ。