アルバムレビュー:There’s a Riot Going On by Yo La Tengo

※本記事は生成AIを活用して作成されています。

発売日:2018年3月16日

ジャンル:インディー・ロック、ドリーム・ポップ、アンビエント、サイケデリック・フォーク、エクスペリメンタル・ロック、ローファイ・ポップ

概要

Yo La Tengoの『There’s a Riot Going On』は、バンドの長いキャリアの中でも特に静謐で、内省的で、音響的な余白を重視した作品である。タイトルは、Sly & the Family Stoneの1971年作『There’s a Riot Goin’ On』を想起させるが、Yo La Tengoの本作は、その歴史的名盤を直接なぞるものではない。むしろ、社会の不穏さ、時代のざわめき、政治的・心理的な疲労を、声高な抗議や激しいロックではなく、非常に小さな音、揺らぐメロディ、曖昧なテクスチャーの中に沈めている。

Yo La Tengoは、Ira Kaplan、Georgia Hubley、James McNewを中心に、1980年代からアメリカン・インディー・ロックの歴史を静かに更新し続けてきたバンドである。『Painful』ではノイズとドローンの新しい感触を獲得し、『Electr-O-Pura』ではギター・ロックの柔軟性を広げ、『I Can Hear the Heart Beating as One』ではフォーク、ノイズ、ボサノヴァ、電子音楽、ドリーム・ポップを横断する決定的な多様性を示した。『And Then Nothing Turned Itself Inside-Out』では夜の静けさと親密さを極め、『Fade』では成熟したメロディと温かい音響を提示した。

『There’s a Riot Going On』は、そうした長い歩みを踏まえながら、Yo La Tengoが「静けさ」をさらに深く掘り下げた作品である。ここでの静けさは、単なる穏やかさや癒やしではない。むしろ、外の世界が騒がしく、不安定で、情報に満ちているからこそ、バンドは音を小さくし、言葉を減らし、リズムを薄くし、微細な響きの中に耳を澄ませる。アルバム全体は、時代の騒乱に対する直接的な回答というより、その騒乱の中でいかに自分たちの感覚を保つかを探る音楽である。

本作の制作面で特徴的なのは、従来のロック・バンド的な一発録りや明確なアレンジよりも、録音の断片、即興、スタジオ内での重ね合わせ、音の質感が重視されている点である。楽曲はしばしば、完成されたポップ・ソングというより、記憶の中でぼんやり鳴るメロディ、夜明け前の部屋の空気、窓越しに聞こえる街のざわめきのように響く。ヴォーカルは前面に押し出されず、楽器と同じ音響の一部として扱われることが多い。

タイトルに「Riot」という言葉があるにもかかわらず、アルバムの音は騒々しくない。これは大きな逆説である。Sly & the Family Stoneの『There’s a Riot Goin’ On』が、ファンクの肉体性を持ちながらも暗く沈んだ時代感覚を刻んだ作品だったように、Yo La Tengoの『There’s a Riot Going On』もまた、表面的な激しさではなく、時代の疲労や不安を音の密度、沈黙、微細な揺れによって表現する。ここでの暴動は、街頭の爆発ではなく、心の奥や社会の背景に広がる低いざわめきである。

歌詞は、明確な政治的スローガンを掲げるものではない。Yo La Tengoらしく、言葉は断片的で、日常的で、曖昧である。だが、その曖昧さの中に、喪失、疲労、希望、記憶、眠り、移動、他者との距離が漂う。Georgia Hubleyの柔らかな声、Ira Kaplanの控えめな歌、James McNewの低く温かな存在感が、激しい主張ではなく、弱さを保ちながら鳴る音楽を作り出している。

『There’s a Riot Going On』は、Yo La Tengoの中でも即効性のある作品ではない。代表曲のような強いフックや、轟音ギターによるカタルシスを期待すると、つかみどころがないと感じられるかもしれない。しかし、聴き込むほどに、音の細部、声の距離、リズムの揺れ、曲と曲の間にある沈黙が立ち上がってくる。これは、派手な出来事ではなく、日々の感覚の変化を聴くためのアルバムである。

全曲レビュー

1. You Are Here

「You Are Here」は、アルバムの冒頭に置かれたインストゥルメンタル的な楽曲であり、本作の音響世界へ静かに聴き手を導く役割を持つ。タイトルは、地図や案内板に書かれる「現在地」を意味する。これは非常に象徴的である。アルバムはまず、聴き手に「あなたはここにいる」と告げる。しかし、その「ここ」がどこなのかは明確ではない。現実の世界なのか、夢の中なのか、記憶の中なのか、音の中なのか。曲はその曖昧な場所感覚を音として提示する。

音楽的には、柔らかなドローン、淡いギター、かすかなリズム、浮遊する音の層が中心である。明確な歌はなく、楽曲はメロディよりも空気を作ることに重点を置く。Yo La Tengoは長年、ロック・バンドでありながらアンビエント的な音響感覚を持ってきたが、この曲ではその側面が前面に出ている。

冒頭曲としての「You Are Here」は、アルバムが通常のロック作品のように始まらないことを示す。強いリフやドラムの入りではなく、音の霧の中へ入っていくように始まる。現在地を示されながら、むしろ自分がどこにいるのか分からなくなる。この感覚が、『There’s a Riot Going On』全体の聴き方を決定づけている。

2. Shades of Blue

「Shades of Blue」は、本作の中でも比較的歌ものとしての輪郭がはっきりした楽曲である。タイトルの「blue」は、色彩であると同時に、憂鬱や哀感を示す言葉でもある。「Shades」と複数形で示されることで、ここでの悲しみは一色ではなく、さまざまな濃淡を持つものとして描かれる。

Georgia Hubleyの柔らかなヴォーカルが中心となり、曲全体には穏やかで、少し夢見心地の雰囲気が漂う。サウンドは薄く、過度に装飾されていない。ドラムは控えめで、ギターや鍵盤の響きは曲に淡い光を与える。Yo La Tengoの静かなポップ・ソングの伝統に連なる一曲である。

歌詞のテーマは、感情の微細な揺れに関わる。明確な絶望ではなく、日々の中に染み込むような青さ、説明しにくい沈み込み、記憶の中に残る淡い痛みが描かれている。Georgiaの声は、その曖昧な感情を過度に劇的にせず、自然に浮かび上がらせる。

「Shades of Blue」は、本作の静かな核のひとつである。大きな展開はないが、聴き手の感情を少しずつ包み込む。タイトル通り、青の濃淡を眺めるような曲である。

3. She May, She Might

「She May, She Might」は、Ira Kaplanのヴォーカルを中心にした、ゆるやかで親密な楽曲である。タイトルには「彼女はそうするかもしれない、そうかもしれない」という曖昧な可能性が含まれている。決定ではなく、予感、ためらい、不確かさが曲の中心にある。

音楽的には、穏やかなテンポ、控えめなギター、柔らかなリズムが印象的である。メロディはシンプルだが、Yo La Tengoらしい曖昧な温度がある。曲は聴き手に強く迫るのではなく、隣で小さく鳴るように存在する。

歌詞では、他者の行動や感情を完全には理解できないという感覚がある。「彼女」は何かをするかもしれないが、しないかもしれない。その不確かさは、恋愛や人間関係における距離そのものを表している。Yo La Tengoの歌詞は、関係を明確な物語にするより、その間にある曖昧な空気を描くことが多い。この曲もその典型である。

サウンドの余白も重要である。音が少ないからこそ、言葉の小さな揺れがよく聴こえる。これは、バンドが長年培ってきた「小さく鳴ること」の美学である。「She May, She Might」は、決定できない感情をそのまま保つ楽曲といえる。

4. For You Too

「For You Too」は、本作の中でも比較的明るいメロディを持つ楽曲であり、Yo La Tengoの優しいポップ・センスが表れた一曲である。タイトルは「あなたのためにも」という意味を持ち、相手への配慮、共有、ささやかな贈り物のような感覚を示す。

音楽的には、柔らかなギター・ポップとして成立している。テンポは穏やかだが、曲には前向きな流れがあり、アルバムの中に温かな光を差し込む。ヴォーカルは控えめで、メロディは自然に耳に残る。派手ではないが、非常にYo La Tengoらしいポップ・ソングである。

歌詞には、他者のために何かをしたいという気持ちと、それが十分に届くか分からない不安が共存している。Yo La Tengoの優しさは、単純な肯定ではない。相手を思うことには、しばしば迷いや不完全さが伴う。「For You Too」という言葉には、その不完全な優しさが込められている。

この曲は、アルバム全体の中で聴き手の足場になる。曖昧でアンビエントな曲が多い本作において、比較的明確なメロディを持つ「For You Too」は、静かな安心感を与える。だが、その安心感もまた、壊れやすく、控えめなものである。

5. Ashes

「Ashes」は、タイトルからして喪失、燃え尽きた後に残るもの、過去の痕跡を連想させる楽曲である。灰は、かつて存在した何かの残骸であり、同時に新しいものが生まれる前の静かな状態でもある。本作の内省的な雰囲気に深く合ったタイトルである。

音楽的には、非常に静かで、音数も少ない。ヴォーカルは近く、しかし遠くから聞こえるようでもある。ギターや鍵盤の響きは薄く、楽曲はほとんど消えそうなバランスで成り立っている。Yo La Tengoが得意とする、音の小ささによって感情を強めるタイプの曲である。

歌詞では、何かが終わった後の状態が描かれる。終わりそのものではなく、終わった後に残された静けさ、灰のような記憶が中心にある。感情はまだ熱を持っているが、炎として燃えてはいない。そのくすぶるような感覚が、曲全体に漂う。

「Ashes」は、アルバムの中でも特に繊細な楽曲である。大きな悲しみではなく、静かな残響を聴く曲であり、本作の音響的な美しさを象徴する一曲といえる。

6. Polynesia #1

「Polynesia #1」は、タイトルから南太平洋的なイメージを連想させるインストゥルメンタル調の楽曲である。ただし、ここでの「Polynesia」は観光的な明るさやエキゾチックな装飾として明確に描かれるわけではない。むしろ、どこか遠くにある場所、現実から少しずれた音の島のように扱われる。

音楽的には、ゆるやかなリズムと淡い音色が中心となり、アルバムに浮遊感を与える。Yo La Tengoはしばしば、明確な歌詞の意味よりも、タイトルと音の質感によって小さな風景を作る。この曲も、具体的な物語ではなく、音響による場所の感覚を提示している。

リズムは穏やかで、少し揺れるような感触がある。聴き手は曲の中でどこかへ移動するというより、柔らかな波の上に浮かぶような感覚を得る。アルバム全体の静かな流れの中で、この曲は小さな夢の場面として機能する。

「Polynesia #1」は、本作の中でYo La Tengoの実験的・音響的な側面を示す楽曲である。歌ではなく、場所や空気を作る音楽として重要である。

7. Dream Dream Away

「Dream Dream Away」は、タイトル通り夢と逃避の感覚を強く持つ楽曲である。繰り返される「Dream」という言葉には、眠り、願望、現実からの距離、意識の曖昧な状態が重なる。本作全体に漂う半覚醒の空気を代表する一曲である。

サウンドは非常に柔らかく、輪郭がぼやけている。歌は明確に前へ出るというより、音の中に漂う。ギターや鍵盤は、夢の中で聞こえる音のように不確かで、曲全体はゆっくりと流れる。Yo La Tengoが『And Then Nothing Turned Itself Inside-Out』で見せた夜の静けさにも通じる。

歌詞のテーマは、現実から離れたいという願望だけでなく、夢の中にいることの危うさにも関わる。夢は逃避であると同時に、現実を別の形で見る場所でもある。タイトルの「away」は、どこかへ遠ざかる動きを示すが、その行き先ははっきりしない。

「Dream Dream Away」は、アルバムの中で時間感覚をさらに薄める楽曲である。聴き手は曲の構造を追うよりも、その中に漂うことを求められる。これは本作の聴き方を象徴する曲である。

8. Shortwave

「Shortwave」は、短波放送を意味するタイトルを持つ。短波は遠くへ届く電波であり、見えない場所からの通信、ノイズ混じりの声、遠距離のつながりを連想させる。Yo La Tengoの音楽における距離感や微かな音の美学と非常によく合うタイトルである。

音楽的には、インストゥルメンタル的で、ノイズや環境音に近い感触がある。明確なメロディよりも、音の粒子や揺らぎが重視される。まるでラジオの周波数を合わせる途中で、遠くの音楽が一瞬だけ聞こえてくるような印象を与える。

この曲は、アルバムに通信と断絶のイメージを加える。誰かの声が届いているようで、完全には届かない。音はあるが、意味はぼやけている。この感覚は、現代の情報環境にも通じる。情報はあふれているのに、本当に必要な声は遠く、ノイズに紛れている。

「Shortwave」は短い曲ながら、本作のタイトルにある「riot」の裏側にあるざわめきを音響化している。暴動は直接聞こえないが、遠くの電波のように背景で揺れている。

9. Above the Sound

「Above the Sound」は、「音の上に」というタイトルを持つ楽曲である。ここでの「sound」は、音楽そのものでもあり、外界の騒音でもあり、時代のざわめきでもある。その上へ浮かび上がるというイメージは、現実から少し距離を取る感覚を示す。

音楽的には、ゆっくりとした展開と淡い音の重なりが特徴である。ヴォーカルは静かで、楽器は低く広がる。曲は強く前へ進まず、空中に留まるように響く。Yo La Tengoのアンビエント寄りの側面が前面に出た楽曲である。

歌詞の主題は、外の音に巻き込まれず、自分の感覚を保とうとすることに関わるように聴こえる。社会のざわめき、日常の騒音、内面の不安。そのすべての「上」に一瞬だけ浮かぶことができるのか。この曲はその問いを静かに提示している。

「Above the Sound」は、アルバムの中で精神的な浮遊を担う曲である。騒乱の中で音を小さくし、その上に浮かぶ。Yo La Tengoの本作における姿勢を象徴する一曲である。

10. Let’s Do It Wrong

「Let’s Do It Wrong」は、タイトルだけを見ると軽いユーモアや反抗の感覚がある。「間違ってやろう」という言葉は、正しい方法に従わないこと、失敗を受け入れること、完璧さから離れることを示している。Yo La Tengoの音楽美学とも深く関わるタイトルである。

サウンドは穏やかで、曲は大きな主張をしない。しかしタイトルの精神は、アルバム全体の制作姿勢にも通じる。本作は、ロック・アルバムとして正しい形、強いシングル、明確な構成、派手な展開をあえて避けている。間違うこと、不完全であること、曖昧であることをそのまま音楽にしている。

歌詞のテーマは、失敗や不器用さを否定せず、むしろ受け入れることにある。人間関係も、音楽も、生活も、正しく行おうとするほど窮屈になることがある。Yo La Tengoは、その窮屈さから少し外れるように、静かに「間違ってやろう」と歌う。

この曲は、本作の中で小さな解放感を持つ。大きな反抗ではなく、静かな脱線である。Yo La Tengoらしい、控えめなユーモアと優しさが感じられる楽曲である。

11. What Chance Have I Got

「What Chance Have I Got」は、「自分にどんな可能性があるのか」という問いを含んだ楽曲である。タイトルには、希望を求める気持ちと、すでに諦めに近い感覚が同居している。Yo La Tengoの歌詞にしばしば現れる、弱さをそのまま提示する姿勢がよく表れている。

音楽的には、控えめで、少し影を帯びたメロディが中心となる。ヴォーカルは近い距離で響き、楽器はその周囲を柔らかく支える。曲は大きく盛り上がらず、問いのまま進んでいく。

歌詞では、自分の立場や可能性への不安が描かれる。何かを変える力があるのか、誰かに届く可能性があるのか、未来へ進む余地があるのか。その問いは明確に答えられない。Yo La Tengoは、答えのない問いを曲の中心に置くことに長けている。

「What Chance Have I Got」は、アルバムの中でも特に脆さを感じさせる楽曲である。だが、その脆さは弱点ではない。むしろ、本作における誠実さの核心である。

12. Esportes Casual

「Esportes Casual」は、タイトルからして少し奇妙で、Yo La Tengoらしい脱力したユーモアがある。ポルトガル語やスポーツ的な響きを連想させるが、曲自体は明確な意味よりも、音の軽さやリズムの感触を重視している。

音楽的には、インストゥルメンタル的で、短いスケッチのように機能する。アルバムの流れの中で、重い感情を少し横へずらす役割を持つ。Yo La Tengoは、深い内省の中にも、こうした小さな遊びを挟むバンドである。

この曲では、メロディや歌詞よりも、バンドの気配が重要である。音が軽く置かれ、曲は長く居座らずに通り過ぎる。だが、その短さがアルバム全体の呼吸を整えている。静かな作品において、こうした小品は非常に重要な役割を果たす。

「Esportes Casual」は、Yo La Tengoの作品にしばしば見られる、意味を固定しないインタールード的な魅力を持つ曲である。

13. Forever

「Forever」は、本作の中でも美しいタイトルを持つ楽曲である。「永遠」という大きな言葉を、Yo La Tengoは決して大仰に扱わない。むしろ、非常に小さく、壊れやすい音の中に置くことで、永遠という概念の脆さを浮かび上がらせる。

サウンドは穏やかで、ヴォーカルは近く、メロディには静かな温かさがある。曲は大きなドラマを作らず、ゆっくりと進む。永遠を歌いながら、音はむしろ一瞬で消えてしまいそうである。その対比がこの曲の魅力である。

歌詞では、持続するものへの願いと、それが本当に続くのかという不安が同居している。愛、記憶、関係、音楽、時間。永遠に続いてほしいものほど、実際には壊れやすい。Yo La Tengoは、その矛盾を静かに歌う。

「Forever」は、本作の中で最も親密な感情を持つ曲のひとつである。大きな言葉を小さな音で歌うことで、逆に深い余韻を残している。

14. Out of the Pool

「Out of the Pool」は、タイトルから水の中から出る、浸っていた状態から抜け出すというイメージを持つ楽曲である。プールは、閉じられた水域であり、現実から少し隔てられた場所でもある。その外へ出ることは、夢や停滞から現実へ戻ることにも読める。

音楽的には、淡い揺れを持つ曲であり、水面の反射のような音の質感がある。リズムは強くなく、音は柔らかく漂う。アルバム後半において、この曲は流れをさらに夢幻的にする役割を持つ。

歌詞の主題は、閉じた場所から出ること、あるいは出られないことに関わるように聴こえる。プールの中は安全だが、外へ出なければ現実に戻れない。Yo La Tengoの本作では、夢や内面へ沈む曲が多いが、この曲はその沈み込みから抜け出す可能性を示している。

「Out of the Pool」は、穏やかな小品でありながら、アルバム全体の内面性に小さな動きを加える楽曲である。

15. Here You Are

「Here You Are」は、「ここにあなたがいる」というタイトルを持ち、冒頭の「You Are Here」と呼応している。アルバムは「あなたはここにいる」と始まり、終盤で「ここにあなたがいる」と再び場所と存在を確認する。この構造は、本作の重要な主題である「現在地」「存在」「他者との距離」を静かに示している。

音楽的には、非常に穏やかで、終盤にふさわしい余韻を持つ。ヴォーカルは控えめで、楽器は柔らかく広がる。大きな結論ではなく、静かな確認のような曲である。

歌詞の中では、相手の存在を認めること、自分と他者が同じ空間にいることの不思議さが感じられる。Yo La Tengoの音楽において、他者との関係はしばしば曖昧で、不確かで、壊れやすい。しかし、この曲には、その壊れやすさを受け入れたうえで「ここにいる」と言うような温かさがある。

「Here You Are」は、アルバムの終盤に静かな着地点を与える楽曲である。冒頭曲との呼応によって、本作が単なる曲集ではなく、現在地を探す音の旅であったことが明らかになる。

総評

『There’s a Riot Going On』は、Yo La Tengoのキャリアの中でも特に静かで、曖昧で、音響的な余白に満ちたアルバムである。タイトルに含まれる「Riot」という言葉から激しい政治的ロックやノイズの爆発を期待すると、本作は意外なほど穏やかに聴こえる。しかし、その穏やかさは無関心や逃避ではない。むしろ、騒がしい時代に対して、Yo La Tengoが選んだ最も誠実な応答が、この小さな音の集積だったといえる。

本作の最大の特徴は、音を小さくすることで、外の騒乱を逆に浮かび上がらせている点である。社会が騒がしく、情報が過剰で、政治的な不安が増す時代に、バンドは叫ぶのではなく、耳を澄ませる。これは消極的な姿勢ではなく、非常にYo La Tengoらしい抵抗の形である。大声の言葉に対して、小さな音で対抗する。混乱に対して、曖昧な静けさを差し出す。その態度が本作の核心である。

音楽的には、ロック・バンドとしての輪郭はかなり薄められている。ギター、ベース、ドラムは存在するが、それらは明確なリフや強いビートを作るというより、音の層として機能する。アンビエント、ドリーム・ポップ、サイケデリック・フォーク、ローファイな実験性が混ざり、曲はしばしば完成された構造よりも、状態として存在する。これはYo La Tengoが長年続けてきた音響探求のひとつの到達点である。

ヴォーカルの扱いも重要である。Ira Kaplan、Georgia Hubley、James McNewの声は、どれも強烈に前へ出るタイプではない。本作では特に、声が楽器の一部のように扱われる。歌詞が聞き取れる場面でも、それは明確なメッセージというより、音の中に浮かぶ断片として響く。この曖昧さが、本作に夢のような質感を与えている。

歌詞のテーマは、現在地、他者との距離、夢、失敗、喪失、可能性、永遠、回復に関わる。だが、どの曲も明確な結論を出さない。「She May, She Might」「What Chance Have I Got」「Let’s Do It Wrong」といったタイトルに表れているように、本作は断定よりも不確かさを重視する。正しい答えを示すのではなく、不確かなままそこにいることを受け入れる。その姿勢が、アルバム全体に静かな強さを与えている。

過去のYo La Tengo作品と比較すると、『There’s a Riot Going On』は『And Then Nothing Turned Itself Inside-Out』の夜の静けさや、『Summer Sun』の柔らかさ、さらに『The Sounds of the Sounds of Science』の実験性に近い側面を持つ。一方で、『I Can Hear the Heart Beating as One』のような多彩なポップ感覚や、『Electr-O-Pura』のギター・ロック的な勢いは控えめである。つまり本作は、Yo La Tengoの中でも最も「音の状態」を聴かせるアルバムのひとつである。

日本のリスナーにとって本作は、Yo La Tengoの入門としてはやや静かすぎるかもしれない。しかし、彼らの長いキャリアを知ったうえで聴くと、非常に豊かな作品であることが分かる。代表曲の強さではなく、アルバム全体に流れる空気、曲間のつながり、音の距離感を味わう作品である。夜、早朝、移動中、あるいは騒がしい情報環境から距離を置きたいときに、特に深く響く。

総じて『There’s a Riot Going On』は、Yo La Tengoが騒乱の時代に作り上げた、静かな抵抗のアルバムである。暴動は直接鳴らされない。だが、世界のざわめきは、音の奥で確かに揺れている。Yo La Tengoはそのざわめきを、叫びではなく、囁き、ドローン、夢のようなメロディ、微かなビートへ変換する。派手さはないが、深く、長く残る作品である。

おすすめアルバム

1. Yo La Tengo『And Then Nothing Turned Itself Inside-Out』(2000年)

Yo La Tengoの静かな側面を代表する名盤。夜の空気、親密なヴォーカル、長く穏やかな音響が特徴で、『There’s a Riot Going On』の内省的な静けさを理解するうえで非常に重要である。

2. Yo La Tengo『I Can Hear the Heart Beating as One』(1997年)

Yo La Tengoの多様性が最も分かりやすく表れた代表作。ノイズ・ロック、フォーク、ドリーム・ポップ、電子音楽的な要素が混ざり、本作よりも広い振れ幅を持つ。バンド全体像を理解するために欠かせない。

3. Yo La Tengo『Painful』(1993年)

ノイズ、ドローン、静かなメロディが結びついた転換点。『There’s a Riot Going On』における音響的な曖昧さや、ギターを空間として扱う感覚の原点を確認できる。

4. Yo La Tengo『Fade』(2013年)

成熟したソングライティングと温かい音響が特徴の作品。『There’s a Riot Going On』よりも曲の輪郭は明確だが、穏やかなメロディと大人びた内省が共通している。

5. Sly & the Family Stone『There’s a Riot Goin’ On』(1971年)

本作のタイトルが想起させる歴史的名盤。音楽性は大きく異なるが、社会的な騒乱や時代の疲労を、表面的な激しさではなく沈んだ音像によって表現する点で重要な参照作である。

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