アルバムレビュー:The Blue Hour by Suede

※本記事は生成AIを活用して作成されています。

発売日:2018年9月21日

ジャンル:オルタナティヴ・ロック、アート・ロック、ブリットポップ、バロック・ポップ、グラム・ロック

概要

Suedeの8作目となるスタジオ・アルバム『The Blue Hour』は、再結成後のバンドが到達した最も重厚で、最も映画的な作品の一つである。2013年の『Bloodsports』で復活を印象づけ、2016年の『Night Thoughts』で家族、喪失、死、海、悪夢をテーマにしたコンセプチュアルな作品へ進んだSuedeは、『The Blue Hour』でさらに暗く、さらに物語性の強い世界へ踏み込んだ。本作は単なるロック・アルバムというより、郊外、森、子どもの声、消えた人々、薄暮、老い、記憶をめぐるゴシック的な音楽劇に近い。

タイトルの「The Blue Hour」は、日没後または夜明け前の、空が青く沈む短い時間帯を指す言葉である。昼でも夜でもない、境界の時間。見えるものと見えないもの、生と死、子どもと大人、記憶と現実、都市と自然の境界が曖昧になる時間である。このタイトルは、アルバム全体の世界観を非常によく表している。『The Blue Hour』では、Suedeが初期から描いてきた郊外の孤独や性的な不安が、より年齢を重ねた視点、親の視点、子どもの視点、死者の記憶と結びついている。

初期Suedeの世界は、安いドラッグ、壊れた家庭、汚れたベッドルーム、都市の片隅にいる若者たちの欲望を、グラム・ロック的な光で照らすものだった。『Dog Man Star』ではその美学が壮大な退廃へ発展し、『Coming Up』ではよりカラフルなグラム・ポップへと変換された。一方、『The Blue Hour』のSuedeは、若さの破滅を外側から眺めるような位置にいる。ここで描かれるのは、若者自身の陶酔というより、過ぎ去った若さの痕跡、子どもたちが迷い込む郊外の闇、大人になった者が振り返る不気味な記憶である。

音楽的には、本作は非常に重厚である。Richard Oakesのギターは、初期の鋭いグラム・ロック的な閃きよりも、厚く、ドラマティックで、オーケストラと一体化するような響きを持つ。Neil Codlingのキーボード、ストリングス、コーラス、環境音、子どもの声、断片的なインタールードが組み合わされ、アルバム全体が一つの映像作品のように構成されている。プロデューサーEd Bullerの復帰も重要であり、Suedeのクラシックな美学と後期の重厚なサウンドを結びつけている。

『The Blue Hour』は、単純なシングル集ではない。全体を通して聴くことで、森や郊外を舞台にした暗い物語のように感じられる。楽曲の間には短い断片が挿入され、子どもの声や不穏な音響が、通常のロック・アルバムとは異なる連続性を作っている。これは『Night Thoughts』で試みられた映画的なアルバム構成をさらに進めたものといえる。

歌詞面では、Brett Andersonの表現が初期とは大きく変化している。若い頃の彼は、性的曖昧さ、ドラッグ、郊外の貧しさ、スター性への憧れを、鋭い言葉で歌っていた。『The Blue Hour』では、その視点はより成熟し、抽象的で、詩的で、時に民話や悪夢のような響きを持つ。子ども、母親、父親、失踪、自然、死、記憶が繰り返し登場し、個人的な歌詞でありながら、共同体の暗い伝承のようにも聞こえる。

本作は、Suedeの後期作品の中でも最も「英国的な闇」を感じさせるアルバムである。ここでの英国性は、ブリットポップ的な明るい国民性ではない。郊外の外れ、鉄道の向こう、古い住宅地、湿った森、消えた子ども、家庭の沈黙、午後が夜へ変わる瞬間。そうした暗い風景が、本作の核心にある。『The Blue Hour』は、Suedeが若さのグラム・ロックから始まり、最終的に英国郊外のゴシック的な記憶へ到達した作品である。

全曲レビュー

1. As One

オープニング曲「As One」は、『The Blue Hour』の幕開けとして非常に壮大で、儀式的な楽曲である。タイトルは「一つとして」「一体となって」という意味を持つが、曲の響きは単純な連帯の歌ではない。むしろ、個人が大きな闇や共同体の記憶の中へ飲み込まれていくような感覚がある。

サウンドは、重厚なギター、オーケストラ的な広がり、Brett Andersonの劇的なヴォーカルによって構成される。初期Suedeの鋭いギター・ロックとは異なり、ここでは音が大きな塊として押し寄せる。アルバム冒頭から、リスナーは薄暗い劇場へ連れていかれるような感覚を受ける。

歌詞では、個人と他者、身体と自然、孤独と集合性の境界が曖昧になる。Suedeがかつて描いた若者の孤独は、ここではより大きな世界の中に溶けていく。オープニングとして、本作が単なる復活後のロック・アルバムではなく、暗い叙事詩的な作品であることを宣言している。

2. Wastelands

「Wastelands」は、本作の中心的な楽曲の一つであり、Suede後期の代表曲といえる。タイトルは「荒地」を意味し、都市と自然の境界、郊外の空白地帯、心の荒廃を同時に示している。Suedeが初期から描いてきた「郊外の外れ」のイメージが、成熟した形で戻ってきた曲である。

サウンドは、力強いギターと大きなメロディを持つロック曲であり、アルバムの中では比較的シングル向きの輪郭を持つ。だが、明るいアンセムではなく、荒涼とした空気がある。Brettのヴォーカルは、過去を振り返るようでありながら、まだその場所に取り残されているようにも響く。

歌詞では、荒地を歩く人物たち、失われた時間、社会の外側にある場所が描かれる。ここでの荒地は、単なる地理的な場所ではない。人間関係の壊れた跡、成長の途中で置き去りにされた感情、英国郊外の空虚さが重ねられている。「Wastelands」は、『The Blue Hour』の世界を最も分かりやすく提示する楽曲である。

3. Mistress

「Mistress」は、短い断片的な楽曲であり、アルバムの物語的な流れを作るインタールードのように機能する。タイトルの「Mistress」は、愛人、女主人、支配する女性など複数の意味を持つ。Suedeの世界では、女性像はしばしば欲望、支配、記憶、喪失の象徴として現れる。

サウンドは短く、不穏で、完全なポップ・ソングというより、物語の一場面のように響く。『The Blue Hour』にはこうした断片が多く配置され、通常の曲と曲の間に、霧のような意味を与えている。

歌詞や音の断片は、誰かの記憶や囁きのように感じられる。ここでは明確な物語が語られるのではなく、アルバムの暗い空間に新たな影が落とされる。Suedeは本作で、曲単体の完成度だけでなく、アルバム全体の空気を重視している。

4. Beyond the Outskirts

「Beyond the Outskirts」は、タイトル通り「郊外の外側」を意味する楽曲である。Suedeのキャリア全体を考えると、このタイトルは極めて象徴的である。彼らはデビュー当初から、都市の中心ではなく、郊外、境界、外れにいる人々を描いてきた。本作では、その外れのさらに向こう側へと進んでいく。

サウンドは、壮大で、やや重く、アルバムの物語性を強める。ギターとストリングスが重なり、Brettのヴォーカルは何かに導かれるように進む。曲には、物理的な移動と精神的な下降が同時にある。

歌詞では、郊外のさらに外へ出ていく感覚が描かれる。そこは安全な場所ではない。子どもたちが迷い込み、大人たちが記憶を失い、昼と夜の境界が崩れるような場所である。Suedeにおける郊外は、単なる退屈な住宅地ではなく、無意識や恐怖の入口でもある。この曲は、その入口を越える楽曲である。

5. Chalk Circles

「Chalk Circles」は、タイトルから、地面にチョークで描かれた円、子どもの遊び、儀式、境界線を連想させる。チョークは簡単に消える素材であり、子どもの一時的な遊びと、死者を囲む線のような不穏な意味を同時に持つ。本作の子どもと死のモチーフに深く結びつく曲である。

サウンドは短く、ミステリアスで、アルバムの不気味な雰囲気を補強する。完全なロック曲ではなく、場面転換のような役割を持つ。子どもの声や環境音を想起させる音響が、聴き手を物語の中へさらに引き込む。

歌詞では、円、遊び、境界、消えていく記憶が暗示される。子どもの遊びは無邪気なものに見えるが、Suedeの手にかかると、それはどこか呪術的で、不安なものになる。「Chalk Circles」は、『The Blue Hour』が子どもの視点を単なる純粋さとしてではなく、恐怖と幻想の入口として扱っていることを示している。

6. Cold Hands

「Cold Hands」は、タイトルが示す通り、冷たい手をモチーフにした楽曲である。冷たさは、死、距離、感情の喪失、触れられない他者を連想させる。『The Blue Hour』全体に漂う死者の気配や、失われた親密さとよく結びついている。

サウンドは、重く、切迫したロック曲であり、アルバムの中では比較的力強い。ギターの質感は硬く、Brettの声にも緊張がある。初期Suedeの性的な熱とは異なり、ここでの身体性は冷たく、不気味である。

歌詞では、冷たい手を通じて、誰かとの距離や死の気配が描かれる。手は触れるための器官だが、冷たい手は触れ合いの失敗や終わりを示す。Suedeはかつて身体を欲望の場所として描いたが、ここでは身体が死や記憶の証拠として現れる。「Cold Hands」は、後期Suedeらしいゴシック的な身体表現が際立つ曲である。

7. Life Is Golden

「Life Is Golden」は、本作の中でも特に大きな感情を持つ楽曲であり、アルバムの中心的なメッセージの一つを担っている。タイトルは「人生は黄金だ」という意味で、暗いアルバムの中では珍しく、肯定的な言葉が前面に出る。だが、この肯定は軽い楽観ではない。闇や喪失を知ったうえで、それでも人生には価値があると告げる曲である。

サウンドは、広がりのあるロック・バラードで、ストリングスとギターが壮大に重なる。Brettのヴォーカルは、親から子へ語りかけるような温かさと切実さを持つ。Suedeの過去作品に多かった自己破壊的な若者像とは異なり、ここでは誰かを守りたいという感情が中心にある。

歌詞では、暗い世界の中でも生きる価値があること、孤独の中でも光があることが語られる。子どもに向けたメッセージとして読むこともできる。Brett Andersonが年齢を重ね、父親としての視点を持つようになったことが強く感じられる楽曲である。

「Life Is Golden」は、『The Blue Hour』の中で希望を担う曲である。ただし、その希望は青空のように明るいものではなく、薄暮の中でかすかに光る金色である。

8. Roadkill

「Roadkill」は、道路上で車に轢かれた動物を意味するタイトルであり、本作の不穏な自然観を象徴する短い楽曲である。自然は美しいだけではなく、死と暴力を含んでいる。郊外の道路、森、動物の死骸というイメージは、非常に英国的でありながら、普遍的な不気味さを持つ。

サウンドは断片的で、アルバムの暗い映像性を高める。短い曲でありながら、強い印象を残す。ここではメロディよりも、風景そのものが重要である。

歌詞やタイトルが示すように、命は日常の中で簡単に失われる。道路脇の死骸は、誰にも弔われない死を象徴している。『The Blue Hour』では、人間の死だけでなく、動物や自然の死も、世界の不穏さを示す要素として現れる。「Roadkill」は、その冷たい断片である。

9. Tides

「Tides」は、潮の満ち引きをテーマにした楽曲である。潮は時間、記憶、感情の変化、避けられない自然の力を象徴する。Suedeは前作『Night Thoughts』でも海や水のイメージを重要なモチーフとして使っていたが、本作でも水は記憶と不安に深く関わっている。

サウンドは、重く、広がりがあり、波のように押し寄せる構成を持つ。ギターとストリングスは、潮の満ち引きのように曲を動かす。Brettの声は、抗えない力に流される人物のように響く。

歌詞では、感情や時間が潮のように動くことが描かれる。人間はその流れを止めることができない。過去は引いていったように見えて、再び戻ってくる。『The Blue Hour』全体にある記憶の反復や、喪失の回帰と深く関わる楽曲である。

10. Don’t Be Afraid If Nobody Loves You

「Don’t Be Afraid If Nobody Loves You」は、本作の中でも最も強いタイトルを持つ楽曲の一つである。「誰にも愛されなくても恐れるな」という言葉は、慰めであると同時に、非常に残酷な現実認識でもある。愛されることを当然としない世界の中で、それでも生きることを促す曲である。

サウンドは、切迫感のあるロック曲で、ギターとリズムが前へ押し出す。Brettのヴォーカルは、励ましというよりも、闇の中で叫ぶように響く。アルバム中盤における大きな感情の爆発である。

歌詞では、孤独、拒絶、愛されないことへの恐怖が扱われる。Suedeは初期から孤独な若者たちを歌ってきたが、ここではその孤独がより普遍的で、年齢を超えたものとして提示される。誰にも愛されないかもしれない。それでも恐れるな。このメッセージは厳しく、同時に力強い。

「Life Is Golden」と並んで、本作の希望の側面を担う曲である。ただし、その希望は甘いものではなく、孤独を前提にした強さである。

11. Dead Bird

「Dead Bird」は、死んだ鳥をタイトルにした短い断片的な楽曲である。鳥はしばしば自由や魂の象徴だが、それが死んでいるというイメージは、自由の喪失、子どもの発見する死、自然の不気味さを示している。

サウンドは短く、静かで、アルバムの暗い物語をさらに深める。『The Blue Hour』では、こうした小さな死のイメージが繰り返し現れ、全体のゴシック的な空気を作っている。

死んだ鳥は、劇的な死ではなく、日常の片隅にある小さな死である。子どもが初めて死を認識する瞬間のようにも読める。この曲は、アルバムにおける無垢と死の接触を象徴する断片である。

12. All the Wild Places

「All the Wild Places」は、野生の場所、管理されていない場所、文明の外側にある空間をテーマにした楽曲である。Suedeの『The Blue Hour』において、自然は癒やしの場ではなく、恐怖と解放が同時に存在する場所である。

サウンドは、広がりのあるロック曲で、アルバムの大きな流れの中で重要な役割を持つ。ギターとストリングスが重なり、野生の場所の広さと不安を表現する。Brettの声は、失われたものを探すように響く。

歌詞では、野生の場所にいる人々、またはそこへ逃げ込む人々が描かれる。ここでの野生は自由の象徴であると同時に、社会から外れる危険も意味する。子どもたちはそこへ惹かれ、大人はそこに過去の記憶を見る。「All the Wild Places」は、本作の風景を大きく広げる楽曲である。

13. The Invisibles

「The Invisibles」は、「見えない者たち」を意味するタイトルを持つ楽曲である。社会から見えない人々、記憶の中で薄れていく人々、死者、または自分自身が消えていく感覚がテーマとして浮かび上がる。Suede後期の中でも特に重要なバラードである。

サウンドは、静かで、メランコリックで、Brett Andersonのヴォーカルを中心に展開する。派手なロック曲ではないが、非常に深い余韻を残す。メロディには成熟した哀しみがあり、初期Suedeの若い焦燥とは異なる重みがある。

歌詞では、誰にも見られなくなった存在、関係の中で透明になっていく感覚が描かれる。これは老いの歌としても読める。若い頃に視線を浴びていた者が、時間とともに見えない存在になっていく。Suedeはかつてスター性や見られることを歌ったバンドだったが、ここではその反対にある「見えなくなること」を歌っている。

「The Invisibles」は、『The Blue Hour』の成熟を象徴する楽曲である。若さの輝きではなく、消えていくことの悲しみを美しく描いている。

14. Flytipping

「Flytipping」は、不法投棄を意味する言葉をタイトルにした楽曲である。これは非常にSuedeらしい題材である。郊外の外れ、荒地、道路脇に捨てられた家具やゴミ。そうした風景は、英国の社会的な荒廃と、個人の記憶の廃棄物を象徴する。

サウンドは、アルバム終盤にふさわしい壮大さと陰影を持つ。曲はゆっくりと展開し、捨てられたものたちの風景を音で描く。Brettのヴォーカルには、寂しさと諦念がある。

歌詞では、不法投棄されたもの、忘れられたもの、社会の外側に捨てられた記憶が描かれる。これは物理的なゴミだけでなく、人間関係、人生の断片、過去の自分自身を指しているようにも聞こえる。Suedeは初期から、きれいな中心ではなく、捨てられた場所に美を見出してきた。「Flytipping」は、その美学が後期の成熟した視点で表れた楽曲である。

15. The Blue Hour

タイトル曲「The Blue Hour」は、アルバムの核心を静かに示す楽曲である。青い時間、昼と夜の境界、現実と幻想のあわい。ここでSuedeは、アルバム全体を包む時間帯そのものを音楽化する。

サウンドは、短く、幻想的で、アルバムの終盤に青い光を落とすような役割を持つ。大きなロック・アンセムではなく、空気を変える楽曲である。これまでに現れた子ども、森、死、郊外、記憶のイメージが、この青い時間の中で一つに溶けていく。

歌詞や音響は、明確な物語よりも雰囲気を重視している。青い時間は、何かが見えるようで見えない時間であり、失われたものが戻ってくるように感じられる時間でもある。タイトル曲として、本作の精神を象徴する重要な断片である。

16. Roadkill Reprise

「Roadkill Reprise」は、先に登場した「Roadkill」のイメージを再び呼び戻す短い楽曲である。死んだ動物、道路、郊外の冷たさというイメージが、アルバム終盤で再確認される。

リプライズとしての役割は、物語の中で一度見た光景が、記憶の中でもう一度現れるようなものだ。『The Blue Hour』では、死や不在のイメージが直線的に進むのではなく、反復する。忘れたと思ったものが、また戻ってくる。このリプライズは、その記憶の反復を音楽的に示している。

17. Tides Reprise

「Tides Reprise」は、「Tides」の潮のイメージを短く再提示する楽曲である。潮は繰り返し満ち引きし、過去は何度も戻ってくる。本作の時間感覚を象徴するリプライズである。

アルバム全体が、過去と現在、生と死、子どもと大人の間を揺れ動く構造を持っているため、このリプライズは単なる繰り返しではない。むしろ、記憶や感情が波のように戻ってくることを示す。『The Blue Hour』は、一直線に進む物語ではなく、断片が何度も現れる夢のような構造を持っている。

18. Wastelands Reprise

「Wastelands Reprise」は、アルバム序盤の重要曲「Wastelands」を再び呼び戻す断片である。荒地のイメージが、ここで再び浮かび上がることで、本作全体が円環的な構造を持つことが明確になる。

最初に提示された荒地は、ただの場所ではなく、アルバム全体の精神的な舞台だった。このリプライズによって、聴き手は再びその場所へ戻される。だが、アルバムを通過した後では、その荒地は最初よりも多くの記憶、死、子どもの声、過去の影を含んでいるように感じられる。

19. Beyond the Outskirts Reprise

「Beyond the Outskirts Reprise」は、本作の物語を最終的に郊外の外側へ戻す楽曲である。通常のアルバムであれば、明確なクライマックスや救済で終わることが多いが、『The Blue Hour』は、境界の外側にいる感覚を残したまま終わる。

このリプライズは、アルバム全体が一つの夢、あるいは記憶の旅であったことを示す。郊外の外側へ出た者は、完全には戻ってこない。そこには野生の場所、死んだ動物、青い時間、見えない人々の気配がある。終幕として、この曲は解決ではなく余韻を残す。

総評

『The Blue Hour』は、Suedeの後期キャリアにおける最も完成度の高いコンセプチュアルな作品の一つである。『Bloodsports』で復活したバンドは、『Night Thoughts』で映画的な連続性を持つアルバムへ進み、『The Blue Hour』でさらに暗く、重厚で、英国郊外のゴシック的な物語へ到達した。本作は単なる楽曲集ではなく、青い時間帯に見える悪夢と記憶をまとめた音楽作品である。

初期Suedeとの大きな違いは、視点の変化である。『Suede』や『Dog Man Star』では、若者たち自身が欲望や孤独の中を生きていた。そこには性的な緊張、ドラッグ、都市の汚れ、スター性への憧れがあった。『The Blue Hour』では、その若さは直接の現在ではなく、記憶や風景の中にある。Brett Andersonは、若者として破滅を歌うのではなく、大人として、親として、過去と子どもの未来を見つめている。

そのため、本作には子どもの存在が非常に重要な意味を持つ。子どもは純粋さの象徴であると同時に、世界の闇へ最初に触れる存在でもある。チョークの円、死んだ鳥、道路脇の死骸、郊外の外れ、森の奥。これらは、子どもが世界の不気味さを知る場所である。Suedeは本作で、無垢を守るのではなく、無垢が闇に触れる瞬間を描いている。

音楽的には、オーケストラ的な重厚さとロック・バンドとしての力が非常に高い水準で融合している。Richard Oakesのギターは、かつてのBernard Butlerのような派手な華麗さとは異なるが、後期Suedeのドラマを支える重要な役割を果たしている。ストリングス、コーラス、キーボード、環境音も含め、アルバム全体が一つの映画音楽のように作られている。

Brett Andersonのヴォーカルも成熟している。若い頃の中性的で挑発的な声とは異なり、ここでは年齢を重ねた深みと、なお失われない劇的な表現力がある。「Life Is Golden」では守るべき者への切実な愛が、「The Invisibles」では消えていく存在への哀しみが、「Don’t Be Afraid If Nobody Loves You」では孤独に向けた厳しい励ましが歌われる。かつての退廃的なロマンティシズムは、ここでは死と記憶を見つめる成熟したロマンティシズムへ変化している。

アルバムとしては、非常に濃密であり、気軽に聴ける作品ではない。シングル曲だけを抜き出して楽しむより、最初から最後まで通して聴くことで本来の力を発揮する。短い断片やリプライズが多いため、通常のポップ・アルバムの感覚で聴くと散漫に感じる可能性もある。しかし、それらの断片は、夢や記憶のような構造を作るために重要である。『The Blue Hour』は、物語が直線的に進むアルバムではなく、同じ風景やイメージが繰り返し戻ってくるアルバムである。

本作の英国性も重要である。Suedeはブリットポップの出発点にいたバンドだが、『The Blue Hour』の英国性は、1990年代の「クール・ブリタニア」的な明るさとはまったく異なる。ここにあるのは、郊外の暗い道、荒地、不法投棄、湿った森、古い住宅地、夕暮れの青い光である。これは、英国の表のポップ文化ではなく、裏側にある民話的でゴシックな風景である。

『The Blue Hour』は、Suedeが自分たちの歴史を単に繰り返すのではなく、年齢を重ねたからこそ歌えるテーマへ進んだ作品である。若さの破滅を歌ったバンドが、子どもと死、親の視点、記憶と老いを歌うようになった。その変化は自然であり、同時に非常に勇敢である。かつての栄光をなぞるだけの再結成ではなく、現在のSuedeとして新しい闇を見つけている。

日本のリスナーにとって本作は、『Beautiful Ones』や『Trash』のような華やかなSuedeを期待すると重く感じられるかもしれない。しかし、『Dog Man Star』の壮大な暗さや、『Night Thoughts』の映画的な構成に惹かれるリスナーには、非常に深く響く作品である。単曲では「Wastelands」「Life Is Golden」「The Invisibles」が入口になりやすいが、本作の本質はアルバム全体を通した体験にある。

『The Blue Hour』は、Suedeが青い時間の中で、過去の亡霊と未来の子どもたちを見つめたアルバムである。若さの欲望から始まったバンドが、老い、記憶、死、郊外の闇へ到達した。その変化を、重厚なロックとオーケストラ的な音響で描いた本作は、後期Suedeを代表する重要な一枚である。

おすすめアルバム

1. Suede – Night Thoughts(2016)

『The Blue Hour』の直接的な前作であり、家族、死、海、悪夢をテーマにしたコンセプチュアルな作品。映画的な構成、暗いストリングス、連続したアルバム体験という点で本作と強くつながっている。後期Suedeの成熟を理解するために重要である。

2. Suede – Bloodsports(2013)

再結成後のSuedeが本格的に復活を示したアルバム。初期のグラム・ロック的な緊張感と、成熟したソングライティングがバランスよく共存している。『The Blue Hour』へ向かう後期三部作の出発点として聴くべき作品である。

3. Suede – Dog Man Star(1994)

Suedeの最も壮大で暗い初期傑作。『The Blue Hour』の重厚なドラマ性や退廃的な空気は、この作品と深くつながっている。若きSuedeの破滅的なロマンティシズムと、後期Suedeの成熟したゴシック性を比較するうえで重要である。

4. Brett Anderson – Black Rainbows(2011)

Brett Andersonのソロ作で、再結成Suedeへ向かう前の内省とロック的な緊張感を確認できる作品。ソロ活動を経たことで、後期Suedeの歌詞やヴォーカルにどのような成熟が加わったかを理解しやすい。

5. Nick Cave & The Bad Seeds – Push the Sky Away(2013)

直接的な音楽性は異なるが、成熟したロック・アーティストが、静かな不穏さ、記憶、現代的な幽霊性を描いた作品として関連性が高い。『The Blue Hour』のような、年齢を重ねたロックの暗い詩情を理解するうえで参考になる。

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