発売日: 2018年9月21日
ジャンル: オルタナティブロック、アートロック、ポストパンク
黄昏の幻想――Suedeが描く耽美と恐怖の物語
2018年にリリースされた『The Blue Hour』は、Suedeの8作目のスタジオアルバムであり、2010年代のバンドの復活を象徴する三部作（『Bloodsports』[2013]、『Night Thoughts』[2016]、本作）の締めくくりとなる作品である。
『The Blue Hour』は、「青の時間」（日没直後、光と闇が交錯する薄暮の時間）をテーマにした、幻想的かつ不穏な雰囲気を持つアルバムであり、ストリングス、コーラス、環境音、ダークなギターサウンドを融合させた壮大なアートロックとなっている。
ブレット・アンダーソンの独特なボーカルと、リチャード・オークスのエモーショナルなギターが交錯し、アルバム全体が映画的なストーリーテリングのような構成を持っているのも特徴だ。Suedeが過去のグラムロック的な輝きを完全に捨て去り、よりアート性の高い、実験的な方向へと進化した作品となっている。
全曲レビュー
1. As One
オーケストラと不穏なコーラスで幕を開ける、アルバムの序章とも言える楽曲。映画のサウンドトラックのような壮大さと、詠唱のようなコーラスが神秘的な雰囲気を演出している。
2. Wastelands
キャッチーなギターリフが印象的な楽曲。『Coming Up』時代のポップなメロディーを想起させつつも、よりダークで陰影のあるサウンドになっている。
3. Mistress
シンプルながらも張り詰めた緊張感が漂うナンバー。退廃的な雰囲気とミステリアスな歌詞が、アルバムの持つ耽美的な世界観を強調する。
4. Beyond the Outskirts
リバーブの効いたギターと、メロディアスなボーカルが特徴の楽曲。タイトルが示すように、都市の外れに広がる荒涼とした風景を連想させる。
5. Chalk Circles
わずか2分弱のインストゥルメンタルだが、不穏なストリングスと環境音が交錯し、アルバムの狂気を暗示する重要なピースとなっている。
6. Cold Hands
疾走感のあるロックナンバー。ダークでエネルギッシュなギターが、アルバムの中でも特に際立っている。
7. Life Is Golden
アルバムの中でも最も美しい楽曲。希望とノスタルジアが交錯するメロディが、Suedeの持つ叙情的な魅力を最大限に引き出している。ブレット・アンダーソンが息子に向けた楽曲とも言われており、愛情に満ちたリリックが印象的。
8. Roadkill
環境音を取り入れた実験的な楽曲。タイトルが示す通り、自然の中で死と向き合うシーンを描いたような、詩的で不気味なサウンドが展開される。
9. Tides
波の音とともに始まるメランコリックな楽曲。幻想的なストリングスと、ブレット・アンダーソンの繊細な歌声が心に残る。
10. Don’t Be Afraid If Nobody Loves You
シングルとしてリリースされた、力強いロックナンバー。オルタナティブロック的なアプローチが光る楽曲で、Suedeの持つダークな魅力を存分に味わえる。
11. Dead Bird
不穏なピアノの旋律が際立つ、短くも印象的な楽曲。ロードムービーのワンシーンのような雰囲気を持ち、アルバムのストーリーテリングを補完する。
12. All the Wild Places
ピアノとストリングスをメインにしたバラード。優雅でありながらも、どこか悲しげな雰囲気が漂う。
13. The Invisibles
アルバムの最も壮大な楽曲のひとつ。ストリングスとコーラスが荘厳な雰囲気を作り出し、映画のエンディングのような感動的なフィナーレを演出する。
総評
『The Blue Hour』は、Suedeが音楽的に最も成熟した段階に到達したアルバムのひとつであり、単なるロックアルバムではなく、サウンドスケープやストーリーテリングを重視した芸術的な作品となっている。
『Coming Up』や『Head Music』のようなキャッチーなブリットポップの要素はほとんどなく、『Dog Man Star』のようなドラマチックな作風に近いが、より実験的でシネマティックなアプローチが際立っている。特に、「Life Is Golden」「The Invisibles」「Wastelands」 などの楽曲は、バンドの新たな代表曲としての地位を確立した。
2010年代以降のSuedeは、単なる再結成バンドではなく、現在進行形で音楽的な進化を続けるバンドであることを証明しており、本作はその最も明確な証拠となる作品だ。
映画のような音楽体験を求めるリスナー、耽美的でドラマチックな音楽が好きな人には、ぜひおすすめのアルバムである。
おすすめアルバム
- Suede – Dog Man Star (1994)
- 『The Blue Hour』のような壮大で芸術的なサウンドを求めるなら必聴。
- Radiohead – A Moon Shaped Pool (2016)
- オーケストラと環境音を取り入れた、シネマティックなアルバムとして共通点が多い。
- David Bowie – Blackstar (2016)
- ダークで芸術的な雰囲気を持ち、Suedeの影響源としても知られる作品。
- The Cure – Disintegration (1989)
- ダークで幻想的な音楽を求めるなら、このポストパンクの名盤もおすすめ。
- Pulp – This Is Hardcore (1998)
- 退廃的な美学を持ち、Suedeの音楽と共鳴する部分が多い。
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- 退廃的な美学を持ち、Suedeの音楽と共鳴する部分が多い。
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