発売日: 2017年6月23日
ジャンル: ポストパンク、インダストリアル・ロック、ソウル、エクスペリメンタル・ロック
怒りと希望のカタルシス——Algiersの政治的かつ革新的な2ndアルバム
2015年のセルフタイトル・デビュー作Algiersで、ゴスペルとポストパンク、インダストリアル・ロックを融合させた独創的なサウンドを確立したAlgiers。その流れを受け継ぎながら、よりダイナミックで攻撃的な音楽性を打ち出したのが2ndアルバムThe Underside of Powerである。
本作は、社会的不満や政治的混乱、抑圧に対する怒りがテーマとなっており、リリース当時のアメリカの政治状況（トランプ政権の誕生、ブラック・ライヴズ・マター運動など）と強く結びついている。
サウンド面では、ポストパンクやインダストリアル・ロックの鋭さをより強調しつつ、ソウルやゴスペルの影響をさらに深化させ、バンドのアイデンティティをより明確にしている。プロデューサーには、PortisheadのAdrian UtleyとRandall Dunn（Sunn O))), Earth）を迎え、ダークで深みのある音響を作り上げている。
全曲レビュー
1. Walk Like a Panther
インダストリアルなビートと、ディストーションのかかったギターが絡み合うオープニング・トラック。タイトルはブラックパンサー党を思わせるが、抑圧に対する怒りと抵抗をテーマにしている。フランクリン・ジェームズ・フィッシャー（Vo）のシャウトと、機械的なリズムが緊張感を高める。
2. Cry of the Martyrs
レトロなソウルの雰囲気を持ちながらも、荒々しいギターとポストパンク的な冷たさが共存する楽曲。「殉教者の叫び」というタイトルの通り、社会的な苦しみや抑圧に対する悲痛な叫びが込められている。
3. The Underside of Power
アルバムのリードシングルであり、代表曲のひとつ。ノーザン・ソウル的なリズムとポストパンクの冷徹さが融合した、怒りと希望が共存するアンセム的な楽曲。フィッシャーのソウルフルな歌声が圧倒的なエネルギーを放ち、歌詞では「権力の裏側（The Underside of Power）」を暴き出している。
4. Death March
ダークなシンセとミニマルなビートが印象的なトラック。マーチングのようなリズムが、タイトル通りの不吉なムードを醸し出している。
5. A Murmur. A Sign.
呪術的なコーラスと重厚なビートが絡み合う、Algiersらしい楽曲。ポストパンクとゴスペルの融合がここでも際立ち、まるでプロテストソングのような力強いメッセージ性を持つ。
6. Mme Rieux
静かで美しいバラード。タイトルはアルベール・カミュの小説『ペスト』の登場人物に由来し、社会的危機と人間の道徳をテーマにしている。フィッシャーの繊細な歌唱が際立つ楽曲。
7. Cleveland
ブラック・ライヴズ・マター運動に関連し、アメリカの警察暴力を告発する楽曲。タイトルは、警察に射殺された12歳の黒人少年タミル・ライスが亡くなったクリーブランドに由来。怒りと悲しみが交錯する、政治的なメッセージが込められたトラック。
8. Animals
攻撃的なパンク的アプローチを持つ楽曲。フィッシャーのヴォーカルは、ここではシャウトに近いスタイルを取り、圧倒的な熱量を生み出している。
9. Plague Years
ノイズとインダストリアルなビートを活かした、ミニマルで実験的なインストゥルメンタル・トラック。アルバム全体の雰囲気を補強する役割を果たす。
10. Hymn for an Average Man
ソウルバラードのような楽曲で、フィッシャーのボーカルが際立つ。シンプルなアレンジながらも、社会の中で埋もれる「普通の人々」への賛歌として機能している。
11. Bury Me Standing
神秘的なコーラスとシンセが印象的な楽曲。ゴスペルとポストパンクの実験的な融合が感じられる。
12. The Cycle/The Spiral: Time to Go Down Slowly
アルバムの締めくくりにふさわしい、静かで荘厳な楽曲。ピアノとボーカルがシンプルに絡み合い、最後に向かって徐々にテンションを高めていく。
総評
The Underside of Powerは、ポストパンク、ゴスペル、インダストリアル・ロック、ソウルを融合させ、Algiersが独自の音楽スタイルをさらに発展させた重要な作品である。
前作よりも政治的なメッセージがさらに明確になり、「Cleveland」や「The Underside of Power」など、社会的な不満や怒りを直接的に表現した楽曲が増えている。同時に、サウンド面では、インダストリアルなノイズとポストパンクのアグレッシブさを強化しつつ、ソウルやゴスペルのエネルギーを取り入れ、独自の音楽性を確立した。
このアルバムは、単なる政治的メッセージの発信にとどまらず、怒りと希望を両方内包しながら、リスナーに強いカタルシスを与える作品となっている。
おすすめアルバム
- TV on the Radio – Dear Science (2008)
ソウルとポストパンクの融合という点で、本作と共通点が多い。 - Nick Cave & The Bad Seeds – Skeleton Tree (2016)
暗くエモーショナルなサウンドが、本作のダークな要素とリンク。 - Nine Inch Nails – The Downward Spiral (1994)
インダストリアルなビートと社会批判的なテーマが似ている。 - Savages – Adore Life (2016)
ポストパンクの鋭いギターと緊張感のあるサウンドが共通。 - Public Enemy – Fear of a Black Planet (1990)
政治的なメッセージと音楽の融合という点で、本作とシンクロする。
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