
1. 楽曲の概要
「The Underside of Power」は、Algiersが2017年に発表した楽曲である。収録作品は、同年6月23日にMatador Recordsからリリースされたセカンド・アルバム『The Underside of Power』で、同作の表題曲にあたる。アルバムでは4曲目に配置され、先行シングルとしても発表された。
Algiersは、Franklin James Fisher、Ryan Mahan、Lee Tescheを中心に結成されたバンドで、のちにBloc Partyのドラマーとして知られるMatt Tongが加わった。アメリカ南部のゴスペル、ソウル、ポストパンク、インダストリアル、ノイズ、ダブ、政治的プロテスト音楽を混ぜ合わせたサウンドを特徴とする。バンド名のAlgiersは、アルジェリア独立闘争や反植民地主義の文脈を想起させる名前であり、彼らの音楽の政治性とも深く関係している。
「The Underside of Power」は、Algiersの音楽性を最も分かりやすく示す曲のひとつである。ゴスペル的な高揚、ノーザン・ソウルを思わせるビート、ポストパンク的な硬さ、電子的なノイズ、反権力の歌詞が、短いポップ・ソングの形式に凝縮されている。アルバム全体は暗く重いテーマを扱うが、この曲には強い推進力と踊れる感覚がある。
タイトルの「underside of power」は、「権力の裏側」「権力の下側」と訳せる。権力を持つ側の視点ではなく、権力によって押しつぶされる側、支配される側、監視される側から世界を見るという意味がある。Algiersの音楽は、単に政治的な言葉を掲げるだけではなく、その視点をサウンドの緊張と身体性に変換している。
2. 歌詞の概要
歌詞の主題は、権力の構造と、それに対する抵抗である。語り手は、権力の表向きの姿ではなく、その下側にある暴力、抑圧、恐怖を見ている。タイトル・フレーズは、権力を外から眺める言葉ではない。すでにその重圧を受けている側の経験として響く。
この曲では、政治的な状況が個人の身体や感情に入り込んでいる。権力は抽象的な制度ではなく、人々の生活、記憶、恐怖、怒りを形作るものとして歌われる。Algiersの歌詞は、ニュースの見出しをそのまま並べるタイプではない。歴史的な暴力、警察権力、人種差別、資本主義、宗教的なイメージが重なり、圧迫された側の視点が作られる。
ただし、「The Underside of Power」は絶望だけの曲ではない。サウンドが強く前へ進むため、歌詞の怒りは停滞しない。曲は、抑圧を告発するだけでなく、その下側から声を上げることを示している。ゴスペル的なボーカルは、苦しみの表現であると同時に、共同体的な力の表現でもある。
歌詞における「見た」という感覚も重要である。権力の裏側を見てしまった者は、もう中立ではいられない。表面的な秩序や正義を信じることができなくなる。その認識の変化が、曲の緊張につながっている。Algiersは、権力に対する怒りを、知識ではなく身体的な経験として鳴らしている。
3. 制作背景・時代背景
『The Underside of Power』は、Algiersの2015年のデビュー・アルバム『Algiers』に続く作品である。デビュー作では、ゴスペル、ブルース、ポストパンク、インダストリアルを混ぜた独自の音がすでに提示されていた。セカンド・アルバムでは、Matt Tongの参加によってリズム面が強化され、バンドとしての推進力が増した。
制作には、PortisheadのAdrian Utley、Ali Chant、Randall Dunn、Ben Greenbergらが関わっている。Adrian Utleyの関与は、暗く緊張した音響、ノイズの配置、楽曲の重い空間性に影響していると考えられる。Algiersは生演奏のバンドでありながら、単なるロック・バンドではなく、スタジオで加工された電子的な圧力も重要な要素として使っている。
2017年という時代背景も重要である。アルバムは、Brexit、ドナルド・トランプ政権の誕生、白人ナショナリズムの可視化、警察暴力への抗議、世界的な右傾化への不安が強まる中で発表された。Algiersの政治性はその時代に急に生まれたものではないが、『The Underside of Power』では、その緊張が非常に直接的に表れている。
同時に、この曲は過去のプロテスト・ミュージックともつながっている。The Clash、Public Enemy、Bad Brains、Rage Against the Machine、Nina Simone、ゴスペル、スピリチュアル、ソウルの伝統など、政治と音楽を結びつけた多くの流れが背景にある。ただし、Algiersはそれらを懐古的に引用するのではなく、現代の不穏な音として再構成している。
「The Underside of Power」は、アルバムの中でも比較的ポップな入口を持つ曲である。だが、そのポップさは軽さではない。踊れるビートと覚えやすいフックを持ちながら、歌詞と音響は常に不穏である。この矛盾が、Algiersの独自性をよく示している。
4. 歌詞の抜粋と和訳
We’ve seen the underside of power
和訳:
私たちは権力の裏側を見てきた
この一節は、曲全体の中心である。「権力」を遠くから批判しているのではなく、その下側を実際に見た者の言葉として提示される。ここでの「we」は個人ではなく、抑圧を共有する集団の声として響く。
They don’t care about us
和訳:
彼らは私たちのことなど気にかけていない
この言葉は、支配される側が抱く根本的な不信を表している。権力者は秩序や安全を語るが、その言葉がすべての人に向けられているわけではない。Algiersは、その断絶を短いフレーズで示している。
歌詞の引用は、批評・解説に必要な短い範囲に限定している。全文の確認には、権利者が管理する公式の歌詞掲載サービスまたは正規配信サービスを参照する必要がある。
5. サウンドと歌詞の考察
「The Underside of Power」のサウンドで最初に印象的なのは、推進力のあるビートである。曲は暗いテーマを扱っているが、テンポは前向きで、身体を動かす力がある。NPRの記事では、Lee TescheとRyan MahanがそれぞれThe Clash風、ノーザン・ソウル風のスケッチを作っていたことが語られている。この背景は、曲の独特な踊れる緊張感を理解する手がかりになる。
リズムは、単なるロックのビートではない。ノーザン・ソウルのような疾走感と、ポストパンクの硬い直線性が混ざっている。ドラムは軽快に進むが、全体の音像は明るく開けすぎない。踊れるのに、どこか追い詰められている。この感覚が、歌詞の「権力の下側」という主題と結びついている。
Franklin James Fisherのボーカルは、曲の中心である。彼の声にはゴスペルとソウルの強い影響があるが、ここでは伝統的な救済の歌としてだけ機能しない。声は叫び、訴え、祈り、告発を同時に行う。高く伸びるフレーズは、聴き手を高揚させる一方で、歌詞の内容によって不安も生む。
コーラスの使い方も重要である。Algiersの音楽では、個人の声がしばしば集団の声へ変わる。「The Underside of Power」でも、ボーカルの重なりは、ゴスペルの共同体性を思わせる。ただし、それは教会的な安らぎだけではなく、抗議の群衆の声にも近い。個人が見た権力の裏側が、集団の記憶として響く。
ギターは、一般的なロックのリフとして前に出るより、ノイズや緊張の発生源として機能する。Lee Tescheのギターは、ブルース的な表情を持つ場面もあるが、多くの場合、ポストパンクやノーウェーブに近い鋭さを持つ。メロディを飾るのではなく、曲の圧力を増す役割を担っている。
ベースと電子音は、曲の暗い重心を作っている。Ryan Mahanの低音は、ビートの推進力を支えながら、曲に地下から押し上げるような感覚を与える。電子的なノイズや加工された音は、現代の監視社会や機械的な権力を想起させる。ゴスペル的な人間の声と、冷たい電子音の対比が、Algiersの重要な特徴である。
歌詞とサウンドの関係を見ると、この曲は「抵抗」を静的なスローガンではなく、運動として表している。政治的な言葉を持つ曲は、時に説明的になりやすい。しかし「The Underside of Power」は、ビートと声が先に身体へ届く。聴き手は、歌詞の意味をすべて読む前に、曲の切迫感を感じる。
同じアルバムの「Walk Like a Panther」と比較すると、「The Underside of Power」はより明確なポップ・ソングの形を持っている。「Walk Like a Panther」は、重く威圧的な導入曲として、アルバムの政治的緊張を提示する。一方「The Underside of Power」は、より短く、フックが明快で、踊れる。その分、メッセージが広い聴き手へ届きやすい。
「Cleveland」と比べると、曲の役割の違いが分かる。「Cleveland」は、Tamir Riceをはじめ、制度的暴力の中で命を奪われた人々への言及を含む重い楽曲である。そこでの怒りは追悼と告発に近い。「The Underside of Power」は、それよりも運動性が強く、集団的な抵抗のエネルギーを前面に出している。
デビュー作の「Black Eunuch」と比較すると、Algiersの音楽的進化も見える。「Black Eunuch」は、ゴスペル的な声とインダストリアルな音の衝突が強く、バンドの異質さをはっきり示した曲だった。「The Underside of Power」では、その衝突がよりポップで鋭い構成に整理されている。実験性を保ちながら、曲としてのフックも強い。
Algiersの政治性は、単に歌詞の内容だけではない。サウンドそのものが、既存ジャンルの境界に従わない。黒人教会音楽、白人中心に語られがちなポストパンク、電子ノイズ、パンク、ソウルを同時に鳴らすことで、音楽史の権力関係そのものにも揺さぶりをかけている。「The Underside of Power」は、その姿勢を非常に分かりやすく提示している。
この曲の聴きどころは、怒りと踊りが分離していない点である。悲惨な現実を歌う曲であっても、身体を動かすリズムがある。これは逃避ではない。むしろ、抑圧の下側にいる人々が、ただ沈黙するのではなく、声と身体を使って存在を示すことにつながっている。Algiersは、抵抗の音楽を説教ではなく、身体的な経験として作っている。
6. この曲が好きな人におすすめの曲 5曲
- Cleveland by Algiers
『The Underside of Power』収録曲で、制度的暴力と追悼の主題がより直接的に表れる楽曲である。「The Underside of Power」の政治性をさらに重い形で理解できる。Algiersの怒りと祈りが強く結びついた曲である。
- Black Eunuch by Algiers
2015年のデビュー・アルバム収録曲で、ゴスペル、インダストリアル、ポストパンクの衝突が強く出ている。「The Underside of Power」よりも荒く、バンドの初期の異質さが分かりやすい。
- Walk Like a Panther by Algiers
セカンド・アルバムの冒頭曲で、重いビートと威圧的なムードが特徴である。「The Underside of Power」が踊れる抵抗の曲だとすれば、この曲はアルバム全体の暗い緊張を提示する入口である。
- Know Your Rights by The Clash
政治的なロックの文脈で重要な楽曲である。Algiersが持つパンク的な告発性を理解する比較対象になる。The Clashの直接的なプロテスト精神と、Algiersのジャンル混交的な方法を対比して聴ける。
- Fight the Power by Public Enemy
権力批判と音楽的革新を結びつけた重要曲である。Algiersとはジャンルが異なるが、サウンドの密度と政治的メッセージを一体化させる姿勢に共通点がある。「The Underside of Power」の背景にあるプロテスト音楽の系譜を理解するうえで有効である。
7. まとめ
「The Underside of Power」は、Algiersの2017年作『The Underside of Power』の表題曲であり、バンドの音楽的・政治的な核心を示す楽曲である。ゴスペルの声、ノーザン・ソウル的なビート、ポストパンクの硬さ、インダストリアルな音響が結びつき、踊れるが不穏なプロテスト・ソングとして成立している。
歌詞は、権力を持つ側ではなく、その下側に置かれた者の視点を中心にしている。権力の裏側を見た者は、社会の表向きの言葉をそのまま信じることができない。曲はその認識を、怒り、祈り、集団的な声として表現している。
キャリア上では、この曲はAlgiersがデビュー作の実験性を保ちながら、より明確なフックとバンドとしての推進力を獲得したことを示す重要曲である。2017年の政治的緊張の中で発表されたこの曲は、時代への反応であると同時に、長いプロテスト音楽の系譜に連なる作品でもある。Algiersというバンドの特異性を知る入口として、非常に重要な1曲である。
参照元
- Algiers Bandcamp “The Underside of Power”
- Algiers Bandcamp “The Underside of Power track”
- Matador Records “Algiers – The Underside of Power”
- Apple Music “The Underside of Power – Algiers”
- NPR “Algiers Shows Us ‘The Underside Of Power’”
- Pitchfork “Algiers: The Underside of Power Album Review”
- Under the Radar “Algiers on The Underside of Power”
- Saved by Old Times “A Conversation with Algiers”

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