発売日: 2020年10月9日
ジャンル: ハードロック、クラシックロック、ヘヴィメタル
時を超えて蘇る“象徴”——神秘と叙情が響き合う、カルトの帰還
『The Symbol Remains』は、Blue Öyster Cult(以下BOC)が2020年にリリースした19年ぶりのスタジオ・アルバムであり、70年代から続く“知と幻想のロック”を現代に蘇らせた驚異的カムバック作品である。
タイトルの「象徴は残る」は、まさにBOCの本質——メンバーや時代が変わろうとも、音楽の奥に宿る思想と魔術的美学は決して失われないというメッセージだ。
このアルバムには、ブルース・ルーカサー(g, vo)とリッチー・カステラーノ(g, vo)という新世代の血を得た“2020年代型BOC”のバンド力が遺憾なく発揮されており、
ベテランらしい風格と、現代的なエネルギーが絶妙なバランスで共存している。
リリース当時、多くのファンと批評家が「これは単なる懐古ではなく、新たな創造だ」と評したのも頷ける内容である。
全曲レビュー
1. That Was Me
重厚なギターリフと語りのようなボーカルで始まる、自己神話化ソング。
“それは俺だった”という反復が、過去と現在を架橋するような構造になっている。
バンドの復活宣言としても機能するパワフルな一撃。
2. Box in My Head
エリック・ブルームの浮遊感あるボーカルと、軽やかなメロディが印象的なサイケポップ調楽曲。
“記憶の箱”をめぐる内省的テーマと、幻想的アレンジがマッチしている。
3. Tainted Blood
新加入のジュールズ・ラディーノがリードボーカルを務めるドラマティックなバラード。
吸血鬼的イメージとゴシックな世界観が、メロディックな構成と美しく融合。
近年のBOC楽曲の中でも特に叙情性が際立つ。
4. Nightmare Epiphany
リッチー・カステラーノによるアップテンポなハードポップ。
悪夢の啓示を軽やかに描きつつ、ギターソロではしっかりとヘヴィネスも感じさせる。
70年代のBOCファンにも馴染むスタイル。
5. Edge of the World
ミディアムテンポで展開される、終末世界と再生の物語。
スケールの大きなサビと繊細な歌詞が調和し、アルバム中盤の“魂の重力圏”となっている。
6. The Machine
タイトル通り、機械的ビートと人間性の対比を描いたコンセプチュアルな一曲。
ニューウェーブ風の冷たさと、ギターの熱さが交差する。
7. Train True (Lennie’s Song)
ブルース色の強いナンバー。
バンド初期を思わせる荒削りなエネルギーと語り調のボーカルが、懐かしさと新しさを同時に感じさせる。
8. The Return of St. Cecilia
1970年代の未発表曲を現代風に再構築した、ファン垂涎のレアリティ。
サイケロックとメタルが入り混じる構成に、BOCらしい“神秘性”が戻ってきた実感がある。
9. Stand and Fight
エリック・ブルームらしい、戦士のようなメタリック・アンセム。
勇ましさと悲壮感が交錯するサウンドは、80年代BOCの延長線上にある。
10. Florida Man
アメリカ社会の奇矯な現象=“フロリダ・マン”をテーマにした皮肉たっぷりの一曲。
コミカルな語りと、鋭い社会観察がBOCの知性を感じさせる。
不協和とポップさの絶妙な配合。
11. The Alchemist
神秘思想と錬金術を主題にした、クラシカルかつ荘厳なハードロック。
BOCが得意とする“歴史的幻想と魔術的語り”が完全復活したような内容で、アルバム中もっともBOCらしい名曲。
12. Secret Road
メロディアスでしっとりとしたバラード。
人生の“秘密の道”を歩むような比喩が、成熟した歌詞と演奏に重なる。
13. There’s a Crime
疾走感のあるギターロックで、社会的なテーマを扱いつつもキャッチーな構成。
新世代メンバーのエネルギーが前面に出ている。
14. Fight
ラストを飾るのは、“戦え”という単純な言葉の裏に人生の苦難と連帯の意味を重ねた感動的フィナーレ。
決して諦めない精神、そしてBOCという存在そのものの再定義として響く一曲。
総評
『The Symbol Remains』は、Blue Öyster Cultが21世紀にもなお創造的であり続けることを証明した、堂々たる復活作である。
単なる過去の再演ではなく、新たな才能と古参の叡智が融合した“進化するクラシックロック”の姿がここにはある。
叙情と神秘、科学と詩、都市と神話——BOCのあらゆるテーマが、現代のサウンドスケープにふさわしい形で再構成されている本作は、
まさに“象徴は残る”という言葉にふさわしいアルバムだ。
おすすめアルバム
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Kansas『The Absence of Presence』
ベテランバンドによる現代型プログレ/クラシックロックの成功例。 -
Deep Purple『Whoosh!』
古き良きサウンドとモダンな感性が交差する同時代作。 -
Ghost『Prequelle』
BOCの神秘主義とポップさを現代風に継承したバンドの傑作。 -
Blue Öyster Cult『Agents of Fortune』
本作と響き合う、BOCのポップ性と神秘性が交錯する代表作。 -
The Alan Parsons Project『The Secret』
錬金術、神秘思想などBOCと共通テーマを扱うアートロック。
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