イントロダクション
The National(ザ・ナショナル)は、アメリカのオハイオ州シンシナティ出身で、2000年代のインディーロックシーンを代表するバンドです。彼らの音楽は、メランコリックで内省的な歌詞、マット・バーニンガー(Matt Berninger)の重厚なバリトンボイス、そしてシネマティックなアレンジが特徴です。ダークで感情的な雰囲気が漂う楽曲が多く、大人のためのインディーロックとも称される彼らのサウンドは、リスナーに深い感情的共鳴を引き起こします。特に2010年のアルバム『High Violet』は、彼らを世界的な成功に導き、現代ロックシーンにおける重要な存在となりました。
アーティストの背景と歴史
The Nationalは1999年に結成され、メンバーはバーニンガー兄弟(ボーカルのマット・バーニンガー)と、デスナー兄弟(ギターのアーロン・デスナー、ベースのブライス・デスナー)を中心に構成されています。彼らは、シンシナティでの結成後、ニューヨークへ拠点を移し、2001年にセルフタイトルのデビューアルバム『The National』をリリースしました。
初期の頃は大きな注目を集めることはなかったものの、徐々にその存在が認知され、2005年のアルバム『Alligator』で一躍脚光を浴びました。さらに、2007年のアルバム『Boxer』での成功を皮切りに、The Nationalはインディーロックシーンの中心的存在となり、2010年の『High Violet』で商業的にも批評的にも大成功を収めました。彼らの音楽は、複雑で多層的なアレンジと、マット・バーニンガーの深く感情的な歌詞が特徴で、常に進化を遂げています。
音楽スタイルと影響
The Nationalの音楽スタイルは、ダークで内省的な歌詞と、リッチでシネマティックなサウンドスケープが特徴です。マット・バーニンガーの独特なバリトンボイスが曲に深みを与え、感情的な歌詞がリスナーの心を揺さぶります。ギターとピアノを中心に、ストリングスやホーンなどの多様な楽器を取り入れた豊かなアレンジが、彼らの音楽をシネマティックかつ壮大に感じさせます。
The Nationalは、ジョイ・ディヴィジョンやレナード・コーエン、トム・ウェイツ、そしてウィルコといったアーティストから影響を受けています。彼らの音楽は、ポストパンクやフォークロックの要素を取り入れつつも、独自のエモーショナルで洗練されたスタイルを確立しており、リスナーに深い感動を与え続けています。
代表曲の解説
Bloodbuzz Ohio
「Bloodbuzz Ohio」は、2010年のアルバム『High Violet』に収録されたシングルで、The Nationalの代表曲の一つです。この曲は、激しいドラムとドラマティックなストリングスが特徴的で、懐郷感と喪失感をテーマにしています。バーニンガーのバリトンボイスが、過去と向き合いながらも前に進む苦悩を歌い上げており、エモーショナルなメロディとともに深い印象を残します。
特に「I still owe money to the money to the money I owe」という繰り返されるフレーズが象徴的で、現代の不安や重圧を表現したこの曲は、バンドの中でも最も広く知られた楽曲の一つです。
Fake Empire
「Fake Empire」は、2007年のアルバム『Boxer』のオープニングトラックで、バンドの知名度を一気に高めた楽曲です。リズミカルなピアノとストリングスが絡み合い、重層的で豊かなサウンドが特徴です。この曲は、アメリカの政治や社会問題を背景に、現実と夢の狭間を描いており、社会的メッセージが込められています。
バーニンガーの落ち着いたボーカルと、メランコリックなメロディが絶妙に融合し、聴く者に深い印象を与えます。「Fake Empire」は、バンドの音楽が内面的なテーマだけでなく、社会的な視点も取り入れていることを象徴する一曲です。
I Need My Girl
「I Need My Girl」は、2013年のアルバム『Trouble Will Find Me』に収録された楽曲で、The Nationalの繊細で感傷的な一面を表現したバラードです。ギターのシンプルなリフと、バーニンガーの静かで優しいボーカルが印象的で、愛と喪失をテーマにした歌詞が胸に響きます。
「I Need My Girl」は、バンドの持つ内省的で感情豊かな面がよく表れており、ファンの間でも人気が高い楽曲の一つです。
アルバムごとの進化
The Nationalは、アルバムごとに音楽的な進化を遂げながらも、一貫してメランコリックで感情的な音楽を作り続けています。彼らのアルバムは、それぞれ異なるテーマと音楽性を持ちながらも、バンドの持つ特徴的なサウンドを維持しています。
『Alligator』(2005年): バンドが大きく飛躍するきっかけとなったアルバム。アップテンポのロックから、内省的なバラードまで幅広い楽曲が揃い、批評家から絶賛されました。
『Boxer』(2007年): シネマティックで壮大なアレンジが特徴のアルバム。「Fake Empire」や「Mistaken for Strangers」が収録され、バンドの名声を確立しました。
『High Violet』(2010年): 商業的にも批評的にも成功を収めたアルバム。ドラマティックなサウンドと内省的な歌詞が特徴で、「Bloodbuzz Ohio」などの代表曲が収録されています。
『Trouble Will Find Me』(2013年): より個人的で感傷的なテーマに焦点を当てたアルバム。「I Need My Girl」や「Don’t Swallow the Cap」が収録されています。
『I Am Easy to Find』(2019年): 女性ボーカルを多く取り入れた実験的な作品で、感情的な深みをさらに追求したアルバム。
影響を受けたアーティストと音楽
The Nationalは、ジョイ・ディヴィジョン、トム・ウェイツ、ウィルコ、レナード・コーエン、そしてデヴィッド・ボウイといったアーティストから強い影響を受けています。特に、ポストパンクやフォークロックの影響が顕著であり、シンプルなメロディの中に深い感情と内省的な歌詞が織り込まれています。また、彼らの音楽には映画的な要素も強く、サウンドトラック的な広がりを持つ楽曲が多いことも特徴です。
影響を与えたアーティストと音楽
The Nationalは、2000年代以降のインディーロックシーンにおいて大きな影響を与えました。特に、アークティック・モンキーズやザ・ウォー・オン・ドラッグス、フリート・フォクシーズなど、内省的で感情的な音楽を作るアーティストに多大なインスピレーションを与えています。また、マット・バーニンガーの独特なバリトンボイスとシリアスな歌詞のアプローチは、現代のロックバンドにおける新たな基準を作り上げました。
まとめ
The Nationalは、メランコリックな詩情とシネマティックなサウンドを描き出す、インディーロックの象徴的なバンドです。彼らの音楽は、深い感情的共鳴を呼び起こす歌詞とリッチなアレンジで、多くのリスナーに愛されています。特に『High Violet』や『Boxer』といったアルバムは、インディーロックの金字塔として評価されており、彼らの影響力は今後も広がり続けるでしょう。
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