アルバムレビュー：The Gay Parade by of Montreal

アルバムレビュー

2025.04.21

発売日: 1999年2月16日
ジャンル: サイケデリック・ポップ、バロック・ポップ、アート・ポップ

仮想の街を巡る祝祭的ポップ・オペラ——of Montrealが放つ色彩と寓意の万華鏡

『The Gay Parade』は、of Montrealが1999年にリリースした3作目のアルバムであり、彼らの“コンセプト・アルバム志向”が頂点に達した作品である。

「ゲイ・パレード」というタイトルが示す通り、本作は実在のパレードというより、仮想の町の中で繰り広げられる人物群像劇であり、それぞれの登場人物の視点から語られる短編の集合である。

中心人物ケヴィン・バーンズは、ビーチ・ボーイズの『Pet Sounds』やキンクスの『Village Green Preservation Society』といった1960年代の英米ポップの“パーソナルでありながら社会的”な視点に強く影響を受けつつ、自身のユートピアを描く試みを行っている。

各楽曲には、フィクションの住人たちが登場し、彼らの癖や生き様、迷いが細やかに描かれていく。そこには社会風刺もあれば、孤独や希望もある。まさに一冊の音楽絵本のような構成なのである。

1. Old Familiar Way
扉を開けるように始まる陽気な序章。やさしく跳ねるピアノとストリングスが、街の住人たちの気配を感じさせる。

2. Fun Loving Nun
陽気なメロディにのせて描かれるのは“楽しい修道女”。ユーモラスだが、宗教と自由というテーマを内包しているようにも思える。

3. Tulip Baroo
奇抜な名前の人物を通して、自己肯定やイノセンスの大切さを説くような楽曲。音数が多く、にぎやかなアレンジが印象的。

4. Jacques Lamure
哀愁を帯びたメロディと語り口で、一人の奇妙な男性の内面世界が描かれる。悲しみと滑稽さが共存する。

5. The Autobiographical Grandpa
祖父の人生を追体験するような構成。家族、世代、記憶といったテーマが織り込まれており、ノスタルジックな一曲。

6. The Miniature Philosopher
前作にも登場した“ミニチュア哲学者”が再登場。知的な問いかけと子供のような語り口が同居する、バーンズらしい楽曲。

7. A Man’s Life Flashing Before His Eyes While He and His Wife Drive Off a Cliff
前作からのリプライズ的存在。悲劇的な情景をパロディ化し、人生の滑稽さを強調している。

8. The Couple’s First Kiss
再び“カップル”が登場。演劇的に構成されたこの曲は、繰り返し使われるモチーフとしてアルバム全体にリンクを生んでいる。

9. Rose Robert
“ローズ・ロバート”というキャラクターの悲喜劇。感情の起伏を反映するように音も表情豊かに変化する。

10. My Friend Will Be Me
孤独と自己肯定の間を揺れるような詞が切ない。仮想の住人を通して、聴き手自身の心が映し出される。

11. The Gay Parade Outro
閉幕にふさわしい荘厳さとしみじみとした余韻。祝祭が終わった後の静けさの中に、何か大切なものが残される。

『The Gay Parade』は、of Montrealの“シアトリカル・ポップ”の到達点であり、物語と音楽、社会風刺とイマジネーションが見事に融合した一枚である。

登場人物たちは皆、どこか不完全で、奇妙で、愛おしい。その人物像は、現実の私たちの分身のようでもあり、ユーモアと哀愁を持って語られるその姿に、誰もが少しだけ心を重ねてしまうのではないだろうか。

音楽的には、60年代の英国ポップにルーツを持ちながらも、ケヴィン・バーンズ特有のサウンド・コラージュと多彩な楽器使いが、万華鏡のようにめくるめく展開を生んでいる。

聴き終えた後には、“これは単なるアルバムではなく、ある街の記憶を旅した”という感覚が残る。現代ポップの中でも極めてユニークな作品であり、リスナー自身の想像力を呼び起こすようなアルバムを求めている人には、強くおすすめしたい。