アルバムレビュー:The Eternal by Sonic Youth

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発売日: 2009年6月9日
ジャンル: オルタナティヴ・ロック、アートロック、ノイズロック


永遠という名の“最後のうた”——Sonic Youthが刻んだ集大成のエネルギー

Sonic Youthにとって最後のスタジオ・アルバムとなったThe Eternalは、
その名が示す通り、“終わり”ではなく“永続”を見据えたようなラスト・ステートメントである。

2000年代のNYC Ghosts & FlowersRather Rippedまでの内省的、実験的、叙情的なアプローチを経て、
本作では、再びバンドとしての“グルーヴ”と“衝動”が強く前面に出てくる
だがそれは若き日のノイジーな暴発ではなく、
熟練のロックバンドが自身の原理に忠実なまま鳴らす、しなやかで鋭い音の塊なのだ。

レーベルは長年の契約を離れ、インディーの名門Matadorからのリリース
この“自由”が、かえって彼らの音楽をより生命力に満ちたものへと導いている。


全曲レビュー:

1. Sacred Trickster

1分40秒のショートカットで始まる本作。
Kim Gordonが勢いよく言葉を投げつけ、聖性と欲望が交錯する。
短いながらも、Sonic Youthの核が詰まった“宣言”のようなナンバー。

2. Anti-Orgasm

ThurstonとKimの掛け合いが光る、ノイジーでサイケデリックな楽曲。
“反オーガズム”というタイトルの通り、性愛と政治、抵抗と皮肉が渦巻く。

3. Leaky Lifeboat (For Gregory Corso)

ビート詩人グレゴリー・コルソに捧げられた中速ナンバー。
混乱する時代を“水漏れの救命ボート”と見立てた寓話的ロック。
メロディとリフのバランスが美しい。

4. Antenna

ギターの反復と波のような構成が印象的な、ミッドテンポのドリーム・ナンバー。
都市の空気や感情の微細な振動が“アンテナ”として感知されるような作り。

5. What We Know

Lee Ranaldoがヴォーカルを担当。
パンキッシュなエネルギーが爆発する、疾走感あるトラック。
「俺たちが知っていることは——何もない」
無知と直感を肯定するラディカルな叫び。

6. Calming the Snake

Kimによるアブストラクトなリリックとダークなグルーヴ。
“蛇を鎮める”という神秘的な行為が、女性的力や自然的直観と結びつく。

7. Poison Arrow

中毒性のあるメロディと、リズムの推進力が光るスリリングな曲。
Leeの詩的イメージが、恋と攻撃の境界を曖昧にする。

8. Malibu Gas Station

Kimが語る“セレブ文化”への痛烈な風刺。
マリブのガソリンスタンドで撮られるパパラッチ写真を巡って、
消費と崇拝、暴力と虚無を詩的に描写する。

9. Thunderclap for Bobby Pyn

Thurstonによる、Darby Crash(別名:Bobby Pyn)への追悼。
ラスト・パンクスへの賛歌であり、かつてのLAシーンへの回顧。

10. No Way

攻撃的なギターとシンプルなビートが絡み合う、ライブ映えする直球ロック。
その潔さと疾走感が、“まだ終わらない”という意志のようにも聴こえる。

11. Walkin Blue

Leeの叙情的なギター・メロディと、都市生活の輪郭を描いたリリック。
Sonic Youthらしい“散歩するブルース”。

12. Massage the History

ラストを飾る9分超のスロー・ナンバー。
Kimが囁くように語り、ギターが空間を満たしていく。
“歴史を揉みほぐす”という詩的行為のなかで、時代と記憶が静かに交差する。
まるで、過去のSonic Youthすべてをひとつに束ねるような壮大な締めくくり。


総評:

The Eternalは、Sonic Youthというバンドの美学・力・知性のすべてが、迷いなく刻まれた最終章である。

若き日の暴力的エネルギーも、90年代の詩的抽象も、2000年代の構築的叙情も、
すべてがここに帰結している。
そして何より驚くべきは、それが過去をなぞるだけの回顧ではなく、“今ここにある音”として響いていることだ。

彼らはこの作品で、バンドという形式の限界を見せるのではなく、
むしろ“バンドでしか鳴らせないもの”の可能性を最後まで問い続けた。

その結果、このアルバムは“永遠”と名づけられ、
そしてそれにふさわしい静かなる終幕として記憶されていくこととなる。


おすすめアルバム:

  • The Velvet Underground / Loaded
     バンドの最後にして最も明快な構造美とポップ性を打ち出した名作。
  • Dinosaur Jr. / Farm
     ベテランバンドの復活とロックの生命力を体現した2000年代の好例。
  • Sleater-Kinney / The Woods
     攻撃性と知性、バンド・ダイナミクスの究極形。
  • Thurston Moore / Demolished Thoughts
     Sonic Youth解散後のThurstonによる内省的アコースティック作品。
  • Kim Gordon / No Home Record
     バンド後のKimが見せた、実験性とポップの新たな地平。

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