The Chainsmokers(ザ・チェインスモーカーズ)は、アメリカ・ニューヨークを拠点に活動を始めたDJ/プロデューサー・デュオである。メンバーはアレックス・ポールとドリュー・タガート。2010年代半ばのEDMブームから登場しながら、次第にポップ、インディー、ロックなどを取り込み、ダンスミュージックの枠を超えたヒット曲を作ってきた。
最大の特徴は、派手な電子音そのものよりも「歌」を大切にしていることだ。覚えやすいメロディと、恋愛や孤独、若さへの後悔を描いた歌詞を電子音と組み合わせる。「Closer」「Don’t Let Me Down」「Something Just Like This」などの世界的ヒットによって、2010年代後半のポップミュージックを代表する存在となった。
アーティストの背景と歴史
The Chainsmokersという名前での活動は2010年代初頭に始まった。現在の体制が整ったのは2012年頃で、アレックス・ポールとドリュー・タガートが組み、ニューヨークを中心に活動するようになる。当初はインディー系アーティストの楽曲をリミックスし、インターネット上で少しずつ名前を広めていった。
大きな転機となったのが、2014年の「#Selfie」である。当時急速に広がっていたセルフィー文化やSNS上の会話を題材にした曲で、女性が延々と話す声の後に強烈なEDMの音が入るという作りだった。インターネットで急速に拡散され、The Chainsmokersの名前を世界へ広めた。
ただし、「#Selfie」のイメージだけでは長く活動できないことを二人も理解していた。その後はコミカルなEDMから離れ、歌とメロディを中心にした曲作りへ進んでいく。
その変化をはっきり示したのが2015年の「Roses」である。ROZESの柔らかな歌声を中心に置き、電子音を必要以上に派手にしない作りになっている。この曲の成功によって、単なる話題性のあるDJではなく、ポップソングを作れるプロデューサーとして認識されるようになった。
2016年には「Don’t Let Me Down」と「Closer」が続けて大ヒットする。「Don’t Let Me Down」はDayaの歌声と力強い電子音を組み合わせた曲で、グラミー賞の最優秀ダンス・レコーディング賞を受賞した。
さらにHalseyを迎えた「Closer」は全米シングルチャートで12週連続1位を記録する巨大なヒットとなる。この曲ではドリュー・タガート自身も歌い、The ChainsmokersはDJ/プロデューサーから、より一般的なポップ・アーティストに近い存在へ変わっていった。
2017年には初のフルアルバムMemories…Do Not Openを発表。その後もSick Boy、World War Joyと毎年のように作品を発表した。
2020年からは新曲の発表を抑え、制作を中心とした期間に入る。そして2022年、So Far So Goodで本格的に活動を再開した。以降もアルバムだけにこだわらず、シングルやEPを継続的に発表している。
音楽スタイルと特徴
The Chainsmokersの音楽はEDMから始まったが、典型的なEDMだけでは説明しにくい。
初期には大音量のシンセサイザーと、曲の途中で一気に音が爆発するような「ドロップ」が目立っていた。しかし「Roses」以降は、ドロップの迫力よりも歌のメロディを優先するようになる。
電子音も比較的シンプルだ。細かな音を大量に重ねるより、ピアノやギター、シンセサイザーの短いフレーズを繰り返しながら、その上に歌を置くことが多い。ダンスミュージックでありながら、イヤホンで普通のポップソングとして聴いても成立する作りになっている。
もう一つ重要なのが、ロックやエモからの影響である。特にドリュー・タガートはBlink-182やTaking Back Sundayなどを好んでおり、青春時代の恋愛や後悔を率直に歌う感覚をダンスミュージックへ持ち込んだ。
歌詞では、完璧な恋愛よりも、別れた相手への未練や人間関係のすれ違いを扱うことが多い。「楽しいパーティーの音楽」で終わらず、その後に残る寂しさまで描くところが彼ららしい。
また、ゲストボーカルの使い方もうまい。ROZES、Daya、Halsey、Coldplay、5 Seconds of Summerなど、異なる個性を持ったアーティストと組みながら、The Chainsmokersらしいメロディへまとめている。
代表曲の解説
「Roses」
The Chainsmokersが現在につながる音楽性を確立した曲である。ROZESの少し力を抜いた歌声を中心に、柔らかなシンセサイザーと細かく刻む電子音が重なっていく。
「#Selfie」のような派手なEDMとは大きく異なり、感情を伝える歌そのものが中心になった。この方向転換が成功したことで、その後の「Closer」などにつながる道が開かれた。
「Don’t Let Me Down」
Dayaをボーカルに迎えた2016年の代表曲。静かなギターのフレーズと歌から始まり、途中で低音と鋭い電子音が一気に入ってくる。
歌の部分は非常にポップだが、ドロップには当時のEDMやトラップ系ダンスミュージックの激しさが残っている。初期のフェス向けサウンドと、その後のポップ路線がちょうど交差している曲である。
「Closer」
The Chainsmokersの名前をポップミュージック全体へ広げた最大級のヒット曲である。Halseyとドリュー・タガートが男女の視点から歌い、かつての恋人同士が再会する様子を描いている。
大きな特徴は、音が驚くほどシンプルなことだ。巨大なドロップではなく、短いシンセサイザーのメロディを繰り返すことで印象を残している。青春時代への懐かしさを含んだ歌詞も含め、The Chainsmokers流の「歌えるEDM」が最も分かりやすく表れた曲だ。
「Paris」
2017年のMemories…Do Not Openへ収録された曲で、「Closer」以降の方向性をさらに進めている。電子音は控えめで、ギターと落ち着いたビートが曲を支える。
歌詞では、周囲から理解されなくても二人だけの世界へ逃げようとする若者の姿が描かれる。派手なクラブミュージックではなく、少し寂しさを持った青春ポップとしてのThe Chainsmokersを理解しやすい。
「Something Just Like This」
Coldplayとの共同制作による2017年のヒット曲。Chris Martinの歌声とColdplayらしい大きなメロディに、The Chainsmokersの電子的なリズムが加わっている。
歌詞ではスーパーヒーローのような特別な人間ではなく、身近で現実的な愛情が求められていることを歌う。ロックバンドとEDMプロデューサーが自然に共存できることを示し、彼らの活動範囲をさらに広げた曲でもある。
アルバムごとの進化
Memories…Do Not Open(2017年)
世界的な成功を受けて制作された初のフルアルバム。全米アルバムチャートで1位を記録した。
それ以前のThe Chainsmokersはシングル中心のDJデュオという印象が強かったが、本作では歌詞やメロディを中心としたポップ・アルバムを作ろうとしている。ギターやピアノも多く使われ、EDM特有の巨大なドロップは以前ほど前面に出てこない。
「Paris」やColdplayとの「Something Just Like This」がその代表で、フェスだけではなくラジオや日常的なリスニングにも合う音へ変化している。
Sick Boy(2018年)
前作の成功後に発表されたSick Boyでは、明るい青春ポップから少し距離を取った。
タイトル曲「Sick Boy」をはじめ、歌詞には成功によって生まれたプレッシャーや、SNS時代に他人から評価され続ける感覚が表れている。サウンドにも暗い電子音や重い低音が増えた。
一方、「This Feeling」のようにカントリー・ポップへ近づく曲もあり、EDMというジャンルに縛られずに曲を作ろうとする姿勢が強くなっている。
World War Joy(2019年)
World War Joyでは、コラボレーションがさらに大きなテーマとなった。
5 Seconds of Summerとの「Who Do You Love」、Bebe Rexhaとの「Call You Mine」、ILLENIUMとLennon Stellaを迎えた「Takeaway」など、多くのアーティストと共演している。
ロック、ポップ、EDMの境界を自由に行き来しており、「The Chainsmokers自身の決まった音」を押し出すより、相手の特徴と自分たちの作曲方法を組み合わせることに重点が置かれている。
So Far So Good(2022年)
活動を抑えていた時期を経て発表された4作目。過去3作品に比べてゲスト歌手への依存を減らし、ドリュー・タガートのボーカルを中心にしている。
「High」「iPad」などでは、明るい電子音の中に失恋や人間関係の不安を入れる、彼ららしい組み合わせが戻ってきた。一方で音作りは以前より細かくなり、単純に大きなドロップへ向かう構成は少ない。
巨大ヒットを次々に狙うというより、自分たちが好きなポップと電子音を一つの作品としてまとめようとしたアルバムである。
Summertime Friends(2023年)
2023年にはSummertime Friendsを発表した。So Far So Goodの内向きな雰囲気から離れ、再びさまざまな歌手やプロデューサーとの共同制作を広げている。
タイトル曲「Summertime Friends」では、軽快なリズムの裏側に恋愛の不安定さを置く。明るく聴きやすいのに、歌詞には少し寂しさがあるというThe Chainsmokersらしい作りが戻っている。
No Hard Feelings(2024年)
2024年のEPNo Hard Feelingsでは、ポップソング中心だった時期と比べて、クラブやダンスフロアを意識した電子音が再び強くなった。
ZerbとINKとの「Addicted」などでは、歌を残しながらビートを前面に出している。初期のEDMへそのまま戻ったわけではなく、2010年代後半に身につけたポップな作曲と、ダンスミュージックとしての勢いを組み合わせたサウンドになっている。
その後もThe ChainsmokersはシングルやEPを継続して発表している。2025年にはBreathe、2026年にはLOVE IS KINDを発表するなど、フルアルバムだけに限定しない活動を続けている。
影響を受けたアーティストと音楽
The Chainsmokersのルーツには、ダンスミュージックだけでなくロックやポップがある。
二人はDeadmau5やPharrell Williams、Linkin Parkなどを影響源として挙げてきた。電子音の作り方だけではなく、ジャンルをまたいで音楽を作る姿勢にも共通点がある。
特に分かりやすいのがBlink-182やTaking Back Sundayなど、1990年代末から2000年代に人気を集めたポップパンクやエモからの影響だ。
「Closer」をはじめとする彼らの曲では、昔の恋人、青春時代、別れ、後悔といったテーマが頻繁に登場する。こうした感情を直接的な言葉で歌う方法には、彼らが若い頃に聴いていたロックの影響が見える。
The xxやBeach Houseのように、音数を抑えて空間を残すインディー系の音楽との共通点もある。EDMだから常に大音量にするのではなく、静かな部分を作ることで歌やメロディを目立たせている。
後の音楽に与えた影響
The Chainsmokersの成功は、2010年代のEDMがポップへ近づいていく流れを分かりやすく示している。
2010年代前半のEDMでは、フェス会場で大勢を盛り上げる巨大なドロップが重要だった。The Chainsmokersもそこから出発したが、「Roses」や「Closer」では、その迫力を抑えて歌を中心に置いた。
このスタイルが世界的に成功したことで、電子音を使ったポップソングでは必ずしも激しいドロップが必要ではないことが広く示された。ダンスミュージックとシンガーソングライター的な曲作りを組み合わせる流れとも重なっている。
また、ポップパンクやエモに近い青春の感情を電子音へ持ち込んだ点も特徴的だった。The ChainsmokersはEDMを別のジャンルへ置き換えたというより、ポップ、ロック、インディーと電子音の間にあった壁を低くしたアーティストの一組と考えると分かりやすい。
まとめ
The Chainsmokersは、EDMブームから登場しながら、そのスタイルだけにとどまらなかったデュオである。「#Selfie」の派手なダンスミュージックから出発し、「Roses」「Don’t Let Me Down」を経て、「Closer」で歌と電子音を自然に結びつけた。
彼らの強みは、複雑な音作りを見せることより、すぐ覚えられるメロディと若者の日常に近い感情を曲にすることにある。そこへEDM、ポップ、インディー、ロックなどを柔軟に取り入れてきた。
2010年代のEDMをフェスやクラブだけの音楽ではなく、日常的に聴かれるポップミュージックへ近づけた存在の一つであり、その境界を越える姿勢がThe Chainsmokersのキャリアを一貫して支えている。


コメント