
1. 歌詞の概要
「The Beat Goes On(ザ・ビート・ゴーズ・オン)」は、Beady Eyeが2011年にリリースしたデビュー・アルバム『Different Gear, Still Speeding』に収録された、穏やかでどこか感傷的なロック・バラードである。
タイトルの「The Beat Goes On(ビートは鳴り続ける)」は、直訳すれば「リズムは続いていく」となるが、ここでは“人生は続いていく”という意味で用いられている。
歌詞では、“終わってしまった何か”への惜別の想いと、それでも前に進んでいかなければならないという人生観が織り込まれており、明確な物語は提示されないまでも、どこか“別れ”と“再出発”の感覚が強く漂っている。
その“別れ”が恋人との別れなのか、バンドとの別れ(すなわちOasisの終焉)なのか、あるいは過去の自分との決別なのかは明示されない。
だがいずれにせよ、この曲は“振り返ること”と“歩き続けること”のあいだで揺れ動く心を、優しくも雄々しく歌い上げている。
2. 歌詞のバックグラウンド
Beady Eyeは、Oasis解散後にリアム・ギャラガーを中心に結成されたバンドであり、デビュー作『Different Gear, Still Speeding』には、Oasisの終焉に伴う喪失感と、それを乗り越えようとする意志が随所に感じられる。
その中でも「The Beat Goes On」は、アルバム全体の“エモーショナルな中心”ともいえる楽曲であり、60年代のザ・フーやザ・キンクスなどに影響を受けたクラシック・ブリティッシュ・ポップの雰囲気を纏いながら、リアム・ギャラガー自身の内面が最も静かに現れた一曲でもある。
また、Oasisの「Don’t Look Back in Anger」「Stop Crying Your Heart Out」といった“前を向くバラード”路線に連なる曲調を持っており、リアム版の“再生の歌”とも言える位置付けにある。
3. 歌詞の抜粋と和訳
引用元:Genius Lyrics – Beady Eye “The Beat Goes On”
Thought it was a dream / Or something in-between
夢だったのか
それとも何かその中間だったのか
I just kept on going / Without knowing
わからないまま
ただ歩き続けていた
And the beat goes on
でもビートは鳴り続けるんだ
Yeah, the beat goes on
ああ、リズムは止まらない
I’m just a face in the crowd
僕はただの群衆の中のひとり
Nothing to worry about
心配することなんて何もないさ
4. 歌詞の考察
この楽曲では、過去の出来事に対する回想と、その中にある曖昧な感情が中心に据えられている。
「Thought it was a dream / Or something in-between」という冒頭のフレーズが示すように、記憶はすでにあいまいになっており、それが現実だったのか夢だったのかさえ曖昧になっている。
それは、Oasisの終焉とそれに続く日々、あるいは若かった日々への追憶のようにも感じられる。
そして、「I’m just a face in the crowd(僕はただの顔のひとつ)」というラインは、リアムが“ロックスターとしての自意識”を下ろし、“ひとりの人間としての姿”を見せている象徴的な一節だ。
かつて“世界一のバンド”のフロントマンだった彼が、自分を“群衆の一員”として語ることの意味は大きい。
その一方で、「And the beat goes on」というサビは、すべてを包み込むような大きな時間の流れを感じさせる。
それは、どんなに過去にとらわれても、ビート——すなわち“人生”や“音楽”——は止まらず、鳴り続けるという、静かだが力強いメッセージなのだ。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Stop Crying Your Heart Out by Oasis
「涙を拭いて前を向け」というメッセージを持つ、Oasisの“癒しの歌”。精神的トーンが極めて近い。 - Love Spreads by The Stone Roses
神秘性と内省を併せ持つブリティッシュ・ロック。Beat Goes Onの“感覚的な語り口”と共鳴。 - The Universal by Blur
日常と哲学が混ざり合う、未来志向のバラード。人生の流れに寄り添う感覚が似ている。 - I’m Only Sleeping by The Beatles
“立ち止まっている時間”の美しさを描いた名曲。The Beat Goes Onの“動きながら夢を見る感覚”とリンクする。
6. 静かな再生の歌としての「ビート」
「The Beat Goes On」は、Beady Eyeというバンドの文脈を超えて、リアム・ギャラガー自身の“生き直し”の物語として聴くことができる楽曲である。
そこには、Oasisを失い、時代を通り過ぎ、いままた“何かを始めるための一歩”を踏み出そうとする男の静かな決意がある。
この曲が力強いのは、そこに「怒り」や「情熱」を押し付けていないからである。
むしろ、“淡く残る記憶”と“止まらない時間”の中で、ただビートに身を任せているような姿勢にこそ、深い人間味が宿っている。
音楽が人生のメタファーであるとすれば、ビートが止まらない限り、私たちも歩みを止めてはいけない。
「The Beat Goes On」は、そのことを誰よりも静かに、そして誠実に語っている一曲なのだ。
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