発売日: 2024年5月3日
ジャンル: オルタナティブロック、インディーポップ、ニューウェーブ
概要
『Super Magick』は、Better Than Ezraが2024年に発表した最新アルバムであり、結成30年以上を迎えた彼らが、過去の自分たちを祝福しながらも、新たな魔法=“Super Magick”を探求した、キャリア後期の躍動的快作である。
本作は、2000年代以降の彼らの特徴であるメロディ重視のポップロック路線を継承しつつも、80年代ニューウェーブの影響を強く感じさせるシンセサイザー、ファンキーなリズム、サイケデリックなエフェクト処理などが加えられており、これまでにない“カラフルで遊び心あふれる世界観”が広がっている。
制作には引き続きフロントマンのKevin Griffinが主導し、近年のソロ活動やソングライターとしての経験(Taylor Swift、James Bluntらへの楽曲提供)がフィードバックされており、バンドという形態のまま、ポップミュージックの今を吸収し続ける稀有な存在としての地位を改めて示した作品となった。
全曲レビュー
1. Mystified
ディスコビートとソウル風のファルセットが印象的なオープニング。
ニューウェーブと現代ポップの融合が際立ち、「何かに魅せられている」という曖昧で魅力的な感情をテーマにしたダンスチューン。
2. Live a Little
タイトル通り“ちょっとぐらいハメを外そうぜ”という軽快なロックポップ。
乾いたギターリフとシンセの融合が心地よく、リスナーの肩の力を抜くような一曲。
3. Super Magick
アルバムタイトル曲にして本作のハイライト。
“魔法”という言葉をポジティブな変化や可能性の象徴として扱い、“起こるかもしれない奇跡”に賭ける覚悟が軽やかに歌われる。
グルーヴィーなビートとサビの多幸感が魅力。
4. Not Gonna Break Me
人生や社会のプレッシャーに屈しない意志をテーマにした、ミッドテンポの力強いロック。
Kevinの声が最もエモーショナルに響くナンバーで、ベテランらしい凄みが感じられる。
5. Dance Like This
タイトル通り、ダンスを通じた自己解放を描くエレクトロ・ポップ。
80年代風のシンセベースが全編をリードし、The KillersやPhoenixに通じるサウンドも。
6. Love in L.A.
都会的な恋愛のシニカルな描写が光る一曲。
ローファイな質感とR&B寄りのメロディラインが融合し、これまでのBetter Than Ezraにはなかった“都会派ポップ”の手触りを感じさせる。
7. Strange Delight
実験的な構成と不安定なコード進行が特徴。
愛や人生の“奇妙な悦び”をテーマにしつつ、ユーモアと陰影の両方を併せ持つ、深みのある一曲。
8. Don’t Worry Now
穏やかでフォークタッチのバラード。
「いまは心配しなくていい」という語りかけが、ポップでありながら祈りのような優しさを持つ。
アルバム全体の“休息点”となる楽曲。
9. Rocket Ride
シンセとギターが高速で絡み合う、アドレナリン全開のアップテンポ・ロック。
アルバム中もっともライブ向きな楽曲で、冒険心と解放感を高らかに表現している。
10. Never Gonna Be the Same
後半に登場する内省的なナンバー。
変わってしまった世界/人間関係を受け入れる過程が歌われており、ノスタルジックなコード進行と切実なリリックが胸を打つ。
11. Light It Up
希望と再出発をテーマにしたフィナーレ。
「もう一度灯りをともそう」というリフレインが、静かな力強さを持って響き、アルバムを明るい余韻で締めくくる。

総評
『Super Magick』は、Better Than Ezraがその長いキャリアのなかで最も遊び心と現代性を融合させた作品であり、なおかつ“らしさ”を失わない稀有なバンドであることを再確認させるアルバムである。
サウンド面ではシンセやエレクトロ要素が前に出つつも、彼らの原点である歌詞の誠実さとメロディの良さは揺るがない。
どの楽曲にも“少し照れくさくて、でも本気で寄り添ってくる”ような温度感が宿っており、それこそがBetter Than Ezraの強みなのだ。
そしてこのアルバムは、単なる懐古でも変化の押しつけでもなく、「魔法はまだ使える」と信じる者のための音楽として、多くのリスナーに届くだろう。
おすすめアルバム
- The Killers / Wonderful Wonderful
ベテランロックバンドによるポップとスピリチュアルの融合。 - Bleachers / Gone Now
シンセポップと80’s愛に満ちたエモーショナル・ポップロック。 - The Wombats / Fix Yourself, Not the World
軽やかで遊び心あるモダンポップと、ほろ苦い人生観の共存。 - Phoenix / Ti Amo
イタリア的ロマンとフレンチポップの洗練を活かした、ポジティブなアルバム。 - Fun. / Some Nights
大仰さと繊細さを行き来する、ミレニアル世代以降の“魔法的ポップ”。
歌詞の深読みと文化的背景
『Super Magick』の歌詞には、パンデミック後の社会における“つながりの再構築”、“再生”、“セルフケア”といったメッセージが、明るいサウンドの裏で確かに刻まれている。
「Don’t Worry Now」や「Never Gonna Be the Same」といった曲では、喪失や変化を否定するのではなく、受け入れて、それでも前に進もうとする視点が描かれており、それは2020年代を生きる人々へのやさしいエールのように響く。
“Super Magick”とは、超自然的な奇跡ではなく、日常の中にある“ちいさな希望や出会い”のことかもしれない。
そしてこのアルバムは、その魔法を忘れかけた私たちに、もう一度それを信じてみようと誘ってくれるのだ。
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