発売日: 2001年2月20日
ジャンル: ポストロック、エクスペリメンタル、エレクトロニカ
アルバム全体の印象
Tortoiseの4枚目のスタジオアルバム『Standards』は、バンドがこれまで築いてきた音楽性をさらに進化させ、新しい地平を切り開いた作品である。このアルバムでは、アナログな楽器とデジタルなエフェクトが高度に融合し、聴覚的な楽しさと技術的な巧妙さが際立っている。従来のポストロック的な要素に加え、ジャズ、ファンク、ドラムンベースなどの要素を大胆に取り入れており、バンドの柔軟性と実験精神を再確認させる内容となっている。
『Standards』というタイトルには、伝統を守ると同時に、それを破壊して新たな基準を打ち立てるというTortoiseのアイロニカルな姿勢が感じられる。バンドのメンバーたちは、自らの音楽を再構築しつつ、予測できない音楽的な風景を描き出している。特に強調されるのは、ドラムやパーカッションのリズムにフォーカスした作曲スタイルだ。リズムが先導する音楽の中で、各楽器が絡み合い、サウンドが絶えず進化する。
トラック解説
1. Seneca
アルバムの幕開けを飾るこのトラックは、轟音のようなディストーションとリズムの激しい変化でリスナーを驚かせる。開始数秒で突如として音が崩れ、再構築される展開は、音楽が「予測可能」であることを拒否しているようだ。後半のミニマルなドラムラインが耳に残る。
2. Eros
シンセサイザーのドローンとジャジーなドラムが印象的な一曲。複雑なリズムが曲全体を支配し、他の楽器がその上を漂うように演奏されている。楽器間の調和と不調和のバランスが絶妙で、エレクトロニカ的な質感も楽しめる。
3. Benway
ダブの影響を受けたベースラインとエフェクトの効いたギターが目立つ楽曲。緩やかなテンポと、繰り返されるリズムセクションが瞑想的な感覚をもたらす。背景に散りばめられたノイズが曲に奥行きを与えている。
4. Firefly
軽快なビブラフォンが主役を務める楽曲で、フリーフォームの即興的な展開が魅力だ。緊張と解放が交互に訪れ、曲が進むごとに新しいディテールが浮かび上がる。
5. Six Pack
このトラックはグルーヴィーなリズムが特徴で、アルバムの中でも比較的キャッチーな印象を受ける。ファンクの要素を感じさせるベースラインが全体を引っ張り、複数のレイヤーが積み重なるサウンドが心地よい。
6. Eden 2
緩やかなテンポと柔らかいシンセサウンドが、穏やかな雰囲気を作り出す。シンプルなアレンジにもかかわらず、細部に至るまでの音響処理が丁寧で、アンビエント的な魅力が際立つ。
7. Monica
非常にミニマルなアプローチが取られている一曲。ギターとドラムのシンプルなやり取りが続きながら、控えめな電子音がアクセントを加える。特に中盤の静かなパートが印象的。
8. Blackbird
ビートが強調されたトラックで、電子音とアコースティック楽器が交錯するダイナミックな展開を持つ。曲全体がリズムの変化を中心に構築されており、緊張感が最後まで途切れない。
9. Salt the Skies
アルバムのフィナーレを飾るにふさわしい壮大なスケールを持つ楽曲。歪んだギターとノイズ、重厚なドラムが一体となり、カオスと秩序の狭間を行き来するような感覚を与える。終盤の盛り上がりは圧巻で、アルバムを締めくくる高揚感を提供する。
アルバム総評
『Standards』は、Tortoiseが自らの音楽的なスタンダードを定義し直し、聴衆に挑戦を投げかけた作品である。リズムの革新性がアルバム全体を貫き、各トラックが個性を持ちながらも、一貫した統一感を保っている。特に、複雑なリズムと電子音響の融合が他のポストロック作品との差別化を図っており、斬新な聴き応えを提供している。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
『Beacons of Ancestorship』 by Tortoise
同じTortoiseの作品で、実験性がさらに高まったアルバム。電子音楽の影響が強く、リズムと音響の探求が続けられている。
『You Forgot It in People』 by Broken Social Scene
ポストロックとインディーロックを融合させた名作。複数の楽器が織りなすダイナミックなサウンドが、『Standards』と通じる。
『Endtroducing…..』 by DJ Shadow
サンプリングを駆使した革新的なアルバム。特にリズムの構築において、Tortoiseのファンにも刺さる要素が多い。
『Future Days』 by Can
1970年代クラウトロックの名盤。繰り返しを基調としたリズムとエクスペリメンタルなサウンドが共通している。
『Remain in Light』 by Talking Heads
ポストパンクの傑作で、リズムセクションに重点を置いた作曲が特徴。実験的でグルーヴ感のある音楽を求める人におすすめ。
コメント