発売日: 1983年6月1日
ジャンル: ニューウェーブ、ファンク、アートロック
Speaking in Tonguesは、トーキング・ヘッズが商業的な成功を収めると同時に、アート性を維持した5枚目のアルバムである。前作のRemain in Lightで培ったアフリカ音楽やポリリズムの要素を引き継ぎつつ、よりダンサブルでポップなサウンドにシフトした。この作品では、ファンクやエレクトロニカの影響が強く、より明るくキャッチーなアプローチが特徴的だが、デヴィッド・バーンの知的で風刺的な歌詞は健在である。アルバム全体を通して、リズム主導の構造が強調され、バンドが新たなステージに進化したことを象徴する一枚となっている。
各曲ごとの解説:
- Burning Down the House
アルバムのリードシングルであり、トーキング・ヘッズの代表曲の一つ。シンセサイザーとファンキーなリズムが融合し、エネルギッシュでダンサブルな楽曲に仕上がっている。バーンの不思議なボーカルと、無意味に聞こえる歌詞が独特の緊張感を生み出し、ヒット曲となった。 - Making Flippy Floppy
ファンクとエレクトロニックな要素が強く前面に出た楽曲で、シンセベースが楽曲をリードする。歌詞では現代社会における無意味な行動や、政治的な皮肉が描かれているが、軽快なリズムが全体をポップに仕上げている。 - Girlfriend Is Better
「Burning Down the House」と同様に、ファンキーなビートとリズム主導の構成が目立つ曲。バーンのボーカルは、皮肉やユーモアを交えつつ、愛や人間関係についてのテーマを歌っている。キャッチーなメロディとポップなサウンドが絶妙に融合した一曲だ。 - Slippery People
ゴスペル的なコーラスと、パーカッションを多用したファンキーなリズムが印象的。宗教的なテーマや救済についての歌詞が含まれており、単純にダンスミュージックとして楽しめる一方で、深いテーマを持つ楽曲となっている。 - I Get Wild / Wild Gravity
変拍子を取り入れたリズミカルな展開が魅力的な曲で、歌詞では都市生活の混乱と無秩序を描いている。複雑なリズム構造とシンプルなメロディが対照的で、バーンの風変わりな歌詞がより鮮明に浮かび上がる。 - Swamp
重厚でスローテンポなファンクサウンドが特徴の曲で、タイトル通り、湿地のような粘り気のある雰囲気を持つ。バーンのボーカルは低く抑えられ、楽曲全体に不気味さを与えている。政治的なテーマを含みつつ、ダークで深いサウンドが印象に残る。 - Moon Rocks
ファンキーなビートと浮遊感のあるギターリフが組み合わされた曲。歌詞はSF的なテーマを扱い、未来の技術や社会についての風刺が込められている。軽快なテンポに乗せたエレクトロニックなサウンドが、未来的なイメージを強調する。 - Pull Up the Roots
メロディとリズムの絶妙なバランスが取れたポップな楽曲で、パーカッションが前面に出ている。人間関係や生活の変化についての歌詞が、力強いリズムに乗せて展開される。バーンのボーカルは軽やかだが、歌詞には深いメッセージが隠れている。 - This Must Be the Place (Naive Melody)
アルバムの最後を飾るバラードで、感情的なサウンドが際立つ。シンプルなリズムと繰り返されるギターフレーズが心地よく、愛や帰属意識についての温かい歌詞が、トーキング・ヘッズの作品としては異例の素直さを感じさせる。アルバム全体の流れを締めくくる優美な楽曲。
アルバム総評:
Speaking in Tonguesは、トーキング・ヘッズがアート性とポップ性を見事に融合させたアルバムであり、ファンク、ニューウェーブ、エレクトロニックの要素が巧妙にミックスされている。特に「Burning Down the House」や「This Must Be the Place (Naive Melody)」といったトラックは、バンドの進化を象徴する重要な楽曲だ。全体的にリズム重視の構成が多く、アフリカ音楽やファンクからの影響を受けつつ、商業的な成功も収めた。この作品は、ポップミュージックの枠を超えた芸術的な挑戦と、リスナーを惹きつけるキャッチーさのバランスが見事に取れた一枚である。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚:
- Remain in Light by Talking Heads
→全曲解説
「Speaking in Tongues」よりも実験的なサウンドが強調され、アフリカ音楽やポリリズムの影響が顕著な作品。複雑なリズムと深いテーマが、「Speaking in Tongues」のルーツとなっている。 - Let’s Dance by David Bowie
デヴィッド・ボウイがファンクやダンスミュージックに接近したアルバム。商業的にも成功を収め、リズム重視の楽曲が多く、トーキング・ヘッズのダンサブルな要素を好むリスナーにおすすめ。 - Cupid & Psyche 85 by Scritti Politti
ニューウェーブとファンクを融合させた作品で、シンセサイザーを多用したポップなサウンドが「Speaking in Tongues」と共通する。洗練されたアレンジとリズム感が楽しめる一枚。 - The Rhythm of the Saints by Paul Simon
ポール・サイモンがアフリカや南米のリズムに影響を受けたアルバムで、グルーヴ感が特徴的。リズム主導のアプローチや異国情緒あふれるサウンドが、トーキング・ヘッズのファンにも魅力的に映る。 - The Head on the Door by The Cure
シンセポップやニューウェーブ、ポストパンクが融合した作品で、トーキング・ヘッズのエレクトロニックな要素やリズム感に通じる部分が多い。ダンサブルでキャッチーな曲が多く収録されている。
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