発売日: 1990年10月8日
ジャンル: マッドチェスター、インディーロック、サイケデリックポップ
渦巻くハモンドと青春の衝動——“マッドチェスター旋風”の中で生まれた陽性のサイケデリア
The Charlatans(UK)は、1990年前後の“マッドチェスター・ムーヴメント”の波に乗って登場したイングランド出身の5人組バンド。
そのデビュー作『Some Friendly』は、ストーン・ローゼズやハッピー・マンデーズに続くムーヴメントの一角として注目を浴び、全英チャート初登場1位を記録した快進撃のアルバムである。
ファンキーなドラム、跳ねるベース、サイケデリックなギター、そして何よりロブ・コリンズによるハモンドオルガンの存在感が圧倒的。
この独特な鍵盤の音色が、彼らのサウンドを“踊れるオルタナティヴロック”として確立し、同時に一歩抜けた知的な陶酔感を生んでいる。
ボーカルのティム・バージェスも、本作ではまだ初々しさが残るが、その無垢な声質とヘアスタイルは一躍“マッドチェスター・カルチャーの顔”となっていった。
全曲レビュー
1. You’re Not Very Well
ストレートなドラムとオルガンが疾走するオープナー。
“あまり元気そうじゃないね”という気の利いた皮肉が、若者の憂鬱とユーモアを象徴する。
2. White Shirt
ファンキーなリズムとハモンドが融合するグルーヴィーな一曲。
“白シャツ”という日常的なモチーフが、逆に非日常への扉を開くような錯覚を誘う。
3. The Only One I Know
彼ら最大のヒット曲にして、マッドチェスターを象徴するアンセム。
Byrds的なギターフレーズと、60年代サイケの引用を基盤に、跳ねるビートと浮遊感が絶妙に融合している。
同時代のクラブとロックの橋渡しとなった、記念碑的楽曲。
4. Opportunity
淡くメランコリックなコード進行に、ディレイの効いたギターとオルガンが重なる。
機会(Opportunity)を待つという受動的な心象が、90年代UKの不安定な空気を反映する。
5. Then
60年代ブリティッシュ・ビートの影響を色濃く受けたナンバー。
軽やかに駆け抜けるサウンドと、くぐもったボーカルの対比が新鮮。
6. 109 Pt2
インストゥルメンタルに近い実験的なトラック。
クラブカルチャーとの接点を垣間見せる浮遊感に満ちている。
7. Polar Bear
冷たく透明感のあるサウンドスケープ。
“北極グマ”というタイトルが、孤独感と距離感を象徴しているようにも思える。
8. Believe You Me
ややダークでタイトなリズムを持つロッキンな一曲。
“僕を信じてくれ”というシンプルな言葉の裏に、若さゆえの切実さがにじむ。
9. Flower
モッドとサイケの混合物のような軽快なナンバー。
花のように開くギターと鍵盤が印象的で、聴く者を高揚させる。
10. Sonic
タイトル通りの“音そのもの”を強調したノイジーでアグレッシヴな楽曲。
混沌としたビートの中にも、緻密に設計された構造美がある。
11. Sproston Green
アルバムの締めくくりにふさわしい、荘厳な展開をもつ長尺曲。
後にライブの定番曲となり、カタルシスを生むギターとオルガンのリフレインが壮麗に響く。
総評
『Some Friendly』は、クラブカルチャーとギターバンドの境界を軽やかに飛び越えた作品であり、90年代UKロックの夜明けを告げるアルバムでもあった。
その魅力は、“踊れるロック”という即効性にとどまらず、60年代リヴァイヴァル的な美学と、青春の陰りを抱えた叙情性の同居にこそある。
マッドチェスターという一過性のムーヴメントにとどまらず、The Charlatansはその後も作品を重ね、確かな進化を遂げていく。
だが、その始まりにある『Some Friendly』は、今もなお光に包まれた記憶の中で鳴り続ける“初期衝動の結晶”なのだ。
おすすめアルバム
- The Stone Roses / The Stone Roses
マッドチェスターの起点。ダンスとロック、サイケの融合点。 - Happy Mondays / Pills ‘n’ Thrills and Bellyaches
クラブ文化とラッドカルチャーの象徴。よりファンキーで狂騒的。 - Inspiral Carpets / Life
オルガンをフィーチャーしたマッドチェスター系サウンド。The Charlatansと並ぶ鍵盤バンド。 - Blur / Leisure
初期ブラーによるマッドチェスターの延長線的作品。のちのブリットポップの萌芽も。 - Primal Scream / Screamadelica
ロックとレイヴの完全融合。サイケと踊りを結びつけた金字塔的作品。
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