アルバムレビュー：Scatter the Rats by L7

アルバムレビュー

2025.05.08

発売日: 2019年5月3日
ジャンル: オルタナティヴ・ロック、グランジ、パンクロック

概要
全曲レビュー
総評
おすすめアルバム
ファンや評論家の反応
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概要

『Scatter the Rats』は、L7が約20年ぶりにリリースした復帰作アルバムであり、1999年の『Slap-Happy』以来となるスタジオ・アルバムとして、世界中のファンに強烈なカムバックを印象づけた。

本作は、かつてのL7の代名詞である轟音ギター、反抗的ユーモア、ジェンダー批評といった要素を見事に現代的にアップデートしつつ、バンド本来の荒々しさを損なうことなく構成されている。

プロデューサーにはNorm Block（Plexi）とNick Launay（Nick Cave, Yeah Yeah Yeahs）を迎え、音の厚みと鋭さを再構築。
アルバムタイトル「Scatter the Rats（ネズミを散らせ）」には、汚れた権力、腐敗、欺瞞の構造に切り込むL7の変わらぬスタンスが詰め込まれている。

全曲レビュー

1. Burn Baby

アルバムのオープニングを飾る、ストレートなロックンロール・アンセム。
“Burn, baby, burn”というフレーズが、怒りとエネルギーの再起動を高らかに告げる。

2. Fighting the Crave

依存や欲望との闘いを描いた、ミディアムテンポのグランジ・チューン。
重たいベースと陰影のあるヴォーカルが印象的。

3. Proto Prototype

サイケ調のリフがうねる、異色のインダストリアル風ナンバー。
“原型”をテーマに、自己と社会のテンプレートを批評するような詞世界。

4. Stadium West

ツアー生活や都市の空虚さを、鋭く切り取ったパンキッシュなトラック。
ノスタルジーと現代の疎外感が交差する。

5. Murky Water Cafe

L7流のブルースロック。
“濁った水のカフェ”という設定が、過去の傷と現在の曖昧さを象徴する。

6. Ouija Board Lies

“こっくりさん”をテーマに、超常現象とフェイクニュースを重ねるユーモラスな楽曲。
皮肉とポップが同居する中盤のハイライト。

7. Garbage Truck

タイトル通り、ラウドで重量感のある“ゴミ収集車”のような爆音ナンバー。
社会の“廃棄物”を掃き集めるような、暴力的で爽快なリフが光る。

8. Holding Pattern

脱力したテンポと呟くようなボーカルが、不安定な現状維持を描く。
“ホールディング・パターン”は、行き場を失った人々の心理的メタファーだ。

9. Uppin’ the Ice

ギターの強烈な刻みとシャウトが冴える、冷酷で熱い一曲。
“アイスを足す”＝冷たさを強めるという逆説的なタイトルが痛快。

10. Cool About Easy

初期L7を思わせる、ストレートで乾いたロックンロール。
“イージーさ”をまとっているけれど、芯には棘がある。

11. Scatter the Rats

タイトル曲にして、バンドの意思表明的楽曲。
“ネズミを散らせ”という命令形が、女性・マイノリティ・社会の周縁にある存在の怒りを代弁する。
ノイズとユーモア、攻撃性が高次元で融合。

総評

『Scatter the Rats』は、L7が自らのルーツと進化を誠実に再接続した“老いてなお最前線”のロックアルバムである。

彼女たちはここで、かつてのグランジやパンクの怒りとエネルギーを蘇らせながらも、それをノスタルジーに留めず、
現代の文脈に接続させることで、“声なき者たちのロック”をアップデートしてみせた。

本作に漂うのは、激情ではなく“諦めない力”。
たとえ時代が移ろっても、L7は叫び続ける。ネズミたちがはびこる世の中で、彼女たちのロックは今もなお、掃討と覚醒のために鳴っている。

ファンや評論家の反応

復帰作としての本作は、オルタナティヴ・ロック界から高い評価を獲得。
PitchforkやRolling Stoneでは「20年の時を超えても全く鈍っていない」「痛快かつ信念のこもったアルバム」と評され、
フェスティバル出演やドキュメンタリー公開とあわせて、L7の存在感は再び鮮烈なものとなった。

『Scatter the Rats』は、リユニオン以上の意味を持つ。
それは、沈黙せずに“今”を鳴らし続ける意思の音なのだ。