
発売日: 2021年4月16日(配信限定)
ジャンル: リミックスアルバム、エレクトロニカ、クラブミュージック、エクスペリメンタル・ポップ
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概要
『Sawayama Remixed』は、Rina Sawayamaのデビューアルバム『Sawayama』(2020年)の楽曲を、気鋭のプロデューサーやクラブアーティストが再構築したリミックスアルバムであり、オリジナル作におけるジャンル越境的な精神をさらに推し進めた“音の再実験”として注目を集めた作品である。
このアルバムには、Pabllo Vittar、Dream Wife、Lauren Auder、Shamir、そして Clarence Clarity本人など、ジャンルも文化背景も異なるアーティストが参加しており、それぞれがRinaの楽曲に自身の視点と音楽言語を注ぎ込むことで、“ポップ”の可能性を広げる試みに成功している。
また、リミックスによって楽曲の文脈そのものが再解釈されることで、リスナーは原曲の持つメッセージや感情に新たな角度から触れることができる。本作は単なるダンスリミックスの集合体ではなく、Rinaの音楽的宇宙を再構築する試みでもあるのだ。
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全曲レビュー
1. Chosen Family (feat. Elton John) [Remix]
本作の目玉とも言えるデュエットリミックス。Elton Johnの温かみあるボーカルが加わることで、楽曲の“選ばれた家族”というテーマがさらに普遍的に広がる。ピアノ主体のアレンジにクラブ的ビートが追加され、感情と高揚が両立。
2. XS (Pabllo Vittar Remix)
ブラジルのポップアイコンPabllo Vittarによるリミックスは、ファンキーなリズムとハウスビートを取り入れた一曲に変貌。原曲の皮肉なメッセージに、ラテンの祝祭感が加わるユニークな解釈。
3. STFU! (Dream Wife Remix)
UKパンクバンドDream Wifeによるリミックスは、原曲の攻撃性をよりノイジーに、より直接的に増幅。ギターとドラムの再配置がポストパンク的なアグレッションを生む。
4. Comme Des Garçons (Like the Boys) [Planningtorock Remix]
Planningtorockによるジェンダークィアな視点の再構築。リズムを崩し、トーンを落とすことで、“ボーイズらしさ”の脱構築が試みられている。実験性と政治性が共存。
5. Bad Friend (Lauren Auder Remix)
クラシカルでゴシックな音使いが特徴的なリミックス。弦楽器やピアノの響きが、友情の喪失というテーマをより悲劇的に彩る。
6. Tokyo Love Hotel (Shamir Remix)
インディーポップとチルウェイヴが融合したようなサウンド。原曲の“エキゾチックに消費される東京”というテーマに、アメリカの都市疎外的感覚が重ねられ、国際的共鳴を生む。
7. Lucid (Brabo Remix)
シングルとして人気の高い“Lucid”が、よりクラブユースなハードビート仕様に。夜のエネルギーが強調された、踊るための構成。
8. Snakeskin (Clarence Clarity Remix)
原曲のプロデューサー自身による再構築。カットアップされたボーカルとサンプルの断片が、データ社会の断裂性と“自己の剥離”を強調。原曲以上にカオティックで挑戦的。
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総評
『Sawayama Remixed』は、単なるクラブ向けのプロダクトに留まらず、Rina Sawayamaの楽曲が持つ多層的な意味や文脈を、参加アーティストのフィルターを通じて再解釈・再提示した音のアーカイブである。
リミックスとは、既存の楽曲に新しい文脈と声を与える行為であり、この作品はまさにその理想を体現している。各曲が、Rinaのオリジナルの強度を保ちながら、異なる文化圏やジャンルからの視線を内包しており、それによって『Sawayama』というアルバム自体が再び“生まれ変わる”ような体験がもたらされる。
また、リスナーはこの作品を通して「ポップは一人称だけでなく、他者と交差してこそ拡張される」というRinaの音楽観を感じ取ることができる。
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おすすめアルバム(5枚)
- Sophie『Oil of Every Pearl’s Un-Insides (Non-Stop Remix Album)』
クラブとコンセプチュアルアートの融合という点で共通。 - Robyn『Remixed / Revisited』
ポップの再構築における感情の扱い方が『Sawayama Remixed』に通じる。 - FKA twigs『Caprisongs』
コラボレーションによる自己の拡張というアプローチが類似。 - Christine and the Queens『La vita nuova: Remixes』
クィア視点の再解釈とジャンル横断的な表現がRinaの手法と共鳴。 - Charli XCX『Charli (Deluxe Edition – Remixes)』
ハイパーポップ的編集美とリミックスによるポップの拡張。
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後続作品とのつながり
『Sawayama Remixed』で試みられた「他者によるRinaの音楽の再構築」という視点は、次作『Hold the Girl』における“自らの物語を再解釈する”姿勢にも繋がっている。
このリミックスアルバムは、Rina Sawayamaという存在が“ひとりの作家”であるだけでなく、“コラボレーションの磁場”であることを証明した重要な記録であり、その開かれた姿勢は彼女の音楽キャリア全体に影響を与えている。
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