アルバムレビュー:Saw Delight by Can

※本記事は生成AIを活用して作成されています。

発売日: 1977年3月

ジャンル: クラウトロック、エクスペリメンタル・ロック、ファンク・ロック、アート・ロック

概要

Canの10作目のスタジオ・アルバム『Saw Delight』は、1970年代後半というバンドの転換期を象徴する作品である。前作『Flow Motion』(1976年)でディスコやレゲエなど時代のダンス・ミュージックを柔軟に取り込み、新たな方向性を模索していたCanは、本作でさらにリズムを重視したアンサンブルと洗練された音響空間を追求した。

本作最大の特徴は、Trafficのベーシストとして知られるロスコ・ジー(Rosko Gee)とパーカッショニストのレバップ・クワク・バー(Rebop Kwaku Baah)が正式メンバーとして加入したことである。これにより、ホルガー・シューカイは従来のようなエレクトリック・ベースから離れ、短波ラジオやテープ編集、エレクトロニクス、サウンド・デザインなどにより重点を置くようになった。この編成変更はCanのサウンドを大きく変化させ、従来のミニマルなグルーヴにアフリカ音楽由来のポリリズムやファンクの躍動感を加える結果となった。

1960年代末から1970年代前半にかけてのCanは、『Tago Mago』『Ege Bamyasi』『Future Days』といった革新的作品によってクラウトロックの中心的存在となった。一方、『Saw Delight』はそれらほど前衛的な即興性を前面に押し出す作品ではない。しかし、それは実験精神を失ったことを意味しない。むしろ、本作では「リズムそのものを実験対象とする」という新しい方向性が明確になっている。

ジャキ・リーベツァイトの精密機械のようなドラミング、ミヒャエル・カローリのブルージーでありながら抽象性も備えたギター、イルミン・シュミットによるシンセサイザーやキーボード、そしてシューカイの音響処理というCan独自の個性はそのまま維持されている。その上で、新加入メンバーによるしなやかなベースラインと多彩なパーカッションが加わり、従来作品にはなかった軽快さとダンサブルな質感が生まれた。

商業的にはCanの代表作ほど高い評価を得た作品ではないものの、1970年代後半以降のニューウェーブ、ポストパンク、ダンス・パンク、さらにはワールドミュージックとの融合を志向するロック・ミュージシャンたちに少なからぬ影響を与えた作品として再評価が進んでいる。

全曲レビュー

1. Don’t Say No

アルバム冒頭を飾る本曲は、新体制のCanを象徴する楽曲である。

冒頭からロスコ・ジーの流動的なベースラインが楽曲全体を牽引し、その上でジャキ・リーベツァイトが寸分の狂いもない反復ビートを刻む。従来のCan作品に見られた不穏な緊張感よりも、身体的なグルーヴを前面に押し出している点が特徴である。

ボーカルは英語詞を軸としながら、意味よりもリズムを重視したフレージングが採用されている。Canにおいて言語は単なる物語ではなく、音響素材として機能することが多く、本曲でもその美学は変わらない。

中盤では各楽器が少しずつ変化を加えながら同じパターンを反復し、ミニマリズム特有の陶酔感を生み出している。

2. Sunshine Day and Night

アルバム中でも特にファンキーな楽曲。

アフロ・ファンクの要素が色濃く反映され、レバップ・クワク・バーによるパーカッションが楽曲全体に躍動感を与えている。

タイトルが示すように昼と夜という対照的な時間がモチーフとなっているが、歌詞は具体的な物語ではなく断片的なイメージの積み重ねで構成される。そのため、聴き手は意味を読み解くというより、反復するグルーヴそのものを体験することになる。

ギターは必要以上に自己主張せず、リズムセクションとの一体感を重視している。

3. Call Me

比較的コンパクトな構成を持つ作品。

ソウルやR&Bを思わせる親しみやすいメロディを持ちながらも、Canらしい不規則な音響処理が随所に配置されている。

ボーカルは一般的なラブソングを思わせるタイトルとは裏腹に、単純な恋愛を描くのではなく、人と人との距離やコミュニケーションの曖昧さを示唆している。

電子音や空間処理が自然に溶け込み、親しみやすさと実験性が絶妙な均衡を保っている。

4. Animal Waves

本作中もっとも実験色が強い作品の一つ。

タイトル通り、生物的な躍動と波のような反復運動が音楽全体を支配している。

ジャキ・リーベツァイトのドラミングは非常に細かなニュアンスを持ち、一定のビートを維持しながらも絶えず質感が変化していく。その上でミヒャエル・カローリのギターが浮遊感を演出し、イルミン・シュミットのキーボードが抽象的な音響空間を構築する。

動物的な生命力と機械的な反復が同居する構造は、Canが長年追求してきたテーマでもある。

5. Fly by Night

ゆったりとしたテンポで進行する楽曲。

夜間飛行を思わせるタイトルの通り、広がりのあるサウンドスケープが印象的である。

リズムは非常に安定しているが、その上に配置されるシンセサイザーやギターが少しずつ表情を変え、静かな緊張感を生み出している。

派手な展開は少ないものの、細部まで聴き込むことで各メンバーの演奏の精密さが見えてくる。

6. Dizzy Dizzy

アルバム終盤を代表するアップテンポな作品。

タイトルの「めまい」という言葉の通り、反復するフレーズが聴き手の感覚を少しずつ揺さぶっていく。

ベースとドラムはファンクを基盤としながらも、単純なダンス・ミュージックには収まらない複雑なアクセントを持つ。

ボーカルは断片的なフレーズを繰り返し、意味よりもリズムを優先した構成となっている。

7. Like Inobe God

アルバムを締めくくる長尺曲。

静かな導入から徐々に音数が増え、即興演奏的な広がりを見せながらクライマックスへ向かう構成となっている。

シューカイによる音響編集や電子的な処理が随所で存在感を示し、従来のCan作品を思わせるサイケデリックな空間が形成される。

演奏は決して劇的ではないが、小さな変化が積み重なることで独特の時間感覚が生まれている。これはCanがデビュー以来培ってきた集団即興の手法を、新たなリズム志向のサウンドへ自然に統合した好例といえる。

アルバム全体を締めくくるにふさわしい、瞑想的かつ余韻に満ちたフィナーレである。

総評

『Saw Delight』は、Canの黄金期作品と比較すると評価が分かれやすいアルバムである。しかし、その価値は「過去の革新を繰り返さなかったこと」にある。

ロスコ・ジーとレバップ・クワク・バーの加入によって、Canは従来のミニマル・ロックをより身体性の高いグルーヴへ発展させた。ジャズ、ファンク、アフロ・ビート、電子音響、クラウトロックを自然に融合させる手法は、1970年代後半としては非常に先進的であり、ジャンルの境界を曖昧にする今日的な音楽観を先取りしていた。

また、本作では従来作品に見られた混沌や不穏さがやや後退する一方、反復によるトランス感覚やアンサンブルの精密さが際立っている。Canの即興演奏は決して自由奔放ではなく、各メンバーが最小限の変化を積み重ねることで巨大なグルーヴを形成する。本作ではその特徴が、よりダンサブルな方向へ昇華されている。

『Tago Mago』や『Future Days』ほど歴史的評価が高い作品ではないものの、1970年代後半以降のニューウェーブ、ポストパンク、オルタナティブ・ダンス、さらにはポストロックへと連なるリズム重視の音楽性を考えるうえで、本作は重要な一枚である。Canというバンドの進化と柔軟性を理解するうえでも欠かせない作品と言えるだろう。

おすすめアルバム

1. Can『Flow Motion』

『Saw Delight』へ至る過渡期を示す作品。レゲエやダンス・ミュージックの要素を取り入れ、新たな方向性を打ち出した。

2. Can『Future Days』

浮遊感あふれる音響空間とミニマルなグルーヴを極限まで洗練させた代表作。アンビエントやポストロックへの影響も大きい。

3. Traffic『When the Eagle Flies』

ロスコ・ジー加入以前の活動を知るうえで重要な作品。ファンクとロックを融合したベースプレイが『Saw Delight』との共通点を感じさせる。

4. Talking Heads『Remain in Light』

アフリカ音楽のポリリズムとロックを融合した歴史的作品。リズムを中心に据えた発想に『Saw Delight』との共通性がある。

5. Liquid Liquid『Liquid Liquid』

ミニマルな反復、ファンク・グルーヴ、ポストパンクを融合した作品。Can後期のリズム志向が1980年代にどのように継承されたかを理解するうえで興味深い一枚である。

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