1. 歌詞の概要
「Royal Screw Up(ロイヤル・スクリュー・アップ)」は、アメリカ・ナッシュビル出身のシンガーソングライター Soccer Mommy(ソッカー・マミー) ことソフィー・アリソンが2018年にリリースしたデビュー・アルバム『Clean』に収録された楽曲であり、自己否定と自己理解のはざまで揺れる心を赤裸々に綴った、静かで痛切なバラッドである。
タイトルの「Royal Screw Up」は直訳すると“超ダメ人間”といったニュアンスを含み、ここでは語り手自身が感じている自己価値の低さや、他者との関係の中で繰り返される失敗に対する自嘲的なラベリングとなっている。だがその一方で、この曲にはただの自己否定にとどまらない、“そんな自分を認めようとする”静かな努力がにじんでいる。
言葉は柔らかく、メロディはシンプル。だがその奥底にあるのは、「私はどうしてこんなにも間違えてばかりなのだろう?」という答えの出ない問いと、それでも誰かに受け入れてほしいという切実な願いである。
2. 歌詞のバックグラウンド
アルバム『Clean』全体が、失恋や自己否定から立ち上がろうとする“心の再構築”の旅を描いており、「Royal Screw Up」はその中でも最も自己に向けて沈潜していく楽曲のひとつである。
ソフィー・アリソンは、自身の内面を作品の中心に据えることでリスナーと深い共鳴を築いてきたが、この曲では特に、“何も特別じゃない”という自己認識と、“それでも誰かに愛されたい”という矛盾した感情が見事に表現されている。
彼女はインタビューでこの曲について、「誰かの期待に応えられないときの罪悪感、でも本当は最初から応えられる器じゃなかったって気づいてしまう自分」と語っている。それは、自分が“欠陥品”であると感じながらも、それをどう受け入れるかを考え続ける、極めて誠実な態度だ。
3. 歌詞の抜粋と和訳
I don’t wanna be your fucking dog
あんたのクソみたいな飼い犬にはなりたくない
(※「Your Dog」の引用と同じラインではあるが、ここでは含まれていません)I’m only good at being alone
私にできるのは、ひとりでいることだけI try to be someone you’d like
あなたに好かれるような人間になろうとしたけどBut I always screw it up
結局は、いつも全部台無しにしてしまうI’m a royal screw up
私って、本当にどうしようもない人間だよね
歌詞引用元:Genius Lyrics – Royal Screw Up
4. 歌詞の考察
この曲の魅力は、自己嫌悪の中にもどこか透明な美しさが宿っているところにある。「私は何も持っていないし、誰かを幸せにもできない」と繰り返しながらも、語り手はその事実から逃げずに正面から見つめている。その姿勢こそが、Soccer Mommyの音楽が多くの人に響く理由だ。
「I try to be someone you’d like(あなたに好かれようとした)」という一節は、自己を押し殺してでも他者に合わせようとする不自然な努力と、その報われなさを切実に語っている。その後に続く「But I always screw it up」という言葉が示すのは、努力の問題ではなく、自分という存在そのものへの否定感だ。
しかし重要なのは、ここで彼女が「私を変えてほしい」とは言っていないことだ。むしろ、「私はこういう人間で、どうしようもないけど、それでもそのままの私を見てほしい」というかすかな希望と祈りが、この曲全体を包んでいる。
音楽的にもこの曲は極めてミニマルで、ギター一本と声だけで進行する構成が、語り手の孤独感と親密さの両方を強調している。まるで夜、部屋の隅で自分にだけ語りかけられているような、そんな錯覚を起こさせる楽曲なのだ。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Funeral by Phoebe Bridgers
自己評価の低さと死生観を柔らかく、しかし切実に描いたインディーロックの名作。 - Savior Complex by Phoebe Bridgers
他者に尽くすことでしか自己価値を保てない苦しさを、静かな声で語る一曲。 - I Know by Fiona Apple
過ちを繰り返す自分を責めながらも、そのすべてを引き受けようとする誠実な視点。 - I’m Not Your Hero by Tegan and Sara
“理想の誰か”になれない自分を受け入れる決意と葛藤が交差する、ポップな自己解放ソング。
6. “ダメなままの私でも、ここにいる”
「Royal Screw Up」は、自分を変えられないことを責めるのではなく、その“変えられなさ”ごと受け入れるための歌である。ソフィー・アリソンは、この曲で自分を“クズ”と呼びながらも、そのクズである自分を見捨てず、否定せず、ただそこに“いる”という事実を誠実に肯定する。
これは、変わることや克服することだけが正しいのではないと語る、一つの静かな抵抗である。自己改善のプレッシャーが強い現代において、このように「変われない私をそのまま肯定する」という態度は、ある種のラディカルな優しさでもある。
「Royal Screw Up」は、完璧じゃない自分を見つめながら、それでも心のどこかで誰かに受け入れてほしいと願うすべての人のための、親密で切ない祈りのような楽曲である。そのやさしさは、ひとりでいる夜にこそ、静かに心にしみる。
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