
1. 歌詞の概要
『Round & Round』は、The Edgar Winter Groupの1972年のアルバム『They Only Come Out at Night』に収録された、サイケデリックな色彩と感情のねじれを感じさせる中毒性の高い楽曲である。そのタイトル通り、「ぐるぐると同じところを回る」というイメージが、繰り返されるメロディとフレーズの中で具体化されていく。
歌詞では、愛や人生、精神状態における“堂々巡り”の感覚が描かれており、何かから抜け出したいという衝動と、それでも同じ場所に戻ってきてしまうという不条理が交差する。直線的な成長や解決を期待するのではなく、螺旋的に回り続ける感情の渦をそのまま音楽にしているような作品である。
この曲は、アルバム全体の中でもとりわけ内省的でスロウビートなナンバーであり、煌びやかな『Free Ride』や『We All Had a Real Good Time』とはまったく異なる“暗部”として機能している。まるで月明かりの下で反射する影のように、深く、静かで、幻想的な質感を持った楽曲である。
2. 歌詞のバックグラウンド
『Round & Round』は、バンドのギタリストであり作曲家のダン・ハートマン(Dan Hartman)によって書かれた楽曲で、彼自身がリード・ヴォーカルも担当している。彼のソングライティングは、しばしば“表面はポップ、内面はメランコリック”という構造を持っており、この曲でもその二面性が存分に発揮されている。
Edgar Winter Groupは、1972年当時、ロックとファンク、サイケ、ブルースを縦横無尽にミックスしながら、商業的成功と実験性を両立していた稀有なバンドだった。その中で『Round & Round』のような楽曲は、アルバムの多様性を担保する一方、グループの“感情の幅”を象徴する存在としても評価されている。
特にこの曲では、ハートマンの繊細でやや翳りのある歌声が、リスナーの心理にじわじわと浸透する。歌詞とメロディの運び方、そしてメロトロンやストリングス風のキーボードによる“空間演出”が、ある種のサイケデリックな酩酊感を生み出しており、当時の音楽トレンドとも共鳴していた。
3. 歌詞の抜粋と和訳
引用元: Genius
People, people
Where do we go from here?
人々よ、俺たちはどこへ向かえばいい?
I don’t know where we are going
But I know we’ve been here before
どこへ向かうかはわからない
でもここには、前にも来たことがある気がするんだ
Round and round we go
Round and round and round again
ぐるぐる回る
また、また、また同じところを回ってる
このリフレインは、曲のテーマである“堂々巡り”を象徴する中心軸となっており、聴く者の時間感覚を歪ませるような、繰り返しのなかに不穏な美しさが宿っている。
4. 歌詞の考察
『Round & Round』は、明確な物語構造や結論を持たず、むしろ“結末のなさ”そのものを歌にしたような作品である。登場人物たちは「どこかに向かっている」ように見えて、実は同じ場所を何度も訪れている。出口のない思考回路、癒えない関係、終わらない問い。それらはすべて“回転”というモチーフの中に封じ込められている。
また、「we’ve been here before(前にもここにいた)」という一節は、既視感やデジャヴュだけでなく、人生における“反復”の苦しみを内包している。新しい道を選んだはずなのに、なぜか戻ってきてしまう——そうした無意識的なループが、静かな絶望と共に浮かび上がってくる。
この曲の最大の魅力は、そうした精神の迷宮を、過剰なドラマや絶叫ではなく、むしろ淡々とした語りと静謐なアレンジで描き出している点にある。そこには“明るい表現”で気持ちを覆い隠さない、ハートマンの誠実な作家性が光っている。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Nights in White Satin by The Moody Blues
クラシカルでメランコリックなサイケ・バラード。感情の渦にゆっくり沈み込むような音楽。 - The Rain Song by Led Zeppelin
構築と崩壊の間に浮かぶ、哀愁と余韻の詩情を宿した長編バラード。 - Ocean Breakup / King of the Universe by Electric Light Orchestra
幻想と現実の間を漂うような、70年代のアート・ロックの魅力を凝縮した楽曲。 - A Pillow of Winds by Pink Floyd
時間が止まったかのような静寂と揺らぎの中に、心理的洞察を忍ばせた名バラード。
6. 回り続ける感情の輪郭——静かな酩酊のサイケデリック・バラード
『Round & Round』は、アルバム『They Only Come Out at Night』の中でも特に異彩を放つ存在であり、Edgar Winter Groupの「派手で、実験的で、ポップ」というイメージから最も遠いところに位置する。だが、だからこそこの曲には“もう一つの顔”が映し出されている。
それは、盛り上がりの裏にある沈黙であり、成功の背後に潜む不安であり、光に照らされた瞬間の影である。
ハートマンの書く詩は、直接的な痛みではなく、じわじわと染み込むような感情の“停滞”を描く。『Round & Round』が今なおリスナーの心に残るのは、その静けさと余白、そして“繰り返される人生の詩”としての説得力にあるのだ。
この楽曲を聴くとき、私たちは問いかけられているのかもしれない。「君もまた、同じところを回っていないか?」と。答えは見つからなくてもいい。音が、輪の中で優しく揺れているだけで、十分なのだ。
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