1. 歌詞の概要
「Right Side of My Brain」は、Veronica Fallsが2013年にリリースしたセカンド・アルバム『Waiting for Something to Happen』に収録された楽曲であり、理性と感情、現実と妄想の間で揺れる心の声を、ミニマルかつ耽美的な言葉で描いた内省的ポップソングである。
この曲のタイトルが示す“右脳(Right Side of My Brain)”とは、創造性、直感、感情、夢、想像力といった人間の非論理的な領域を象徴しており、Veronica Fallsはこの楽曲で自分の「右脳的」な衝動や混乱をそのまま音楽として描き出している。
歌詞の中で語られるのは、日常の中で突然立ち現れる心のざわめきや、理屈では説明できない感情の波であり、それらは恋愛、孤独、不安、そして自己の分裂的な感覚を帯びて語られる。極めてパーソナルで抽象的な内容でありながら、聴く者の内面と密かに共鳴するような、静かな強さを秘めた一曲である。
2. 歌詞のバックグラウンド
『Waiting for Something to Happen』というアルバム全体が持つテーマは、感情の停滞、焦燥感、無為な日々への苛立ち、そして小さな希望であり、「Right Side of My Brain」はその中でもとりわけ“内面”に深く潜った楽曲である。
Veronica Fallsはこの曲で、メロディの高揚やギターの厚みを抑え、静かで淡々とした構成を採用することで、内面にこもる囁きのような感情表現を可能にしている。このサウンド面での引き算的アプローチは、まるで語り手の思考がそのまま音になったようであり、歌詞とサウンドの一致性が非常に高い作品となっている。
また、この曲の歌詞には、明確なストーリーや説明的な文脈は存在しない。その代わりに、感情の断片やイメージの連鎖が散文詩のように提示される。これは、右脳的思考の特徴とも一致しており、Veronica Fallsがこの楽曲で追求したのは、“意味”よりも“感覚”そのものだったと言える。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、「Right Side of My Brain」の印象的なフレーズを抜粋し、日本語訳を併記する。
Something isn’t right
何かがおかしいのBut I can’t explain
でもうまく説明できないAll the pictures I’ve been painting
私が描いてきたイメージすべてがAre smudged by the rain
雨でにじんでしまったのI’m stuck in a daydream
私は白昼夢に閉じ込められてるI forgot your name
あなたの名前すら思い出せない
出典:Genius – Veronica Falls “Right Side of My Brain”
4. 歌詞の考察
「Right Side of My Brain」は、感情と言語のすれ違い、想像と現実の境界が曖昧になる心の状態を描いた詩的な楽曲である。「Something isn’t right / But I can’t explain」という冒頭のラインは、心の中にある不協和音を認識していながら、それを外に出す手段を持たないもどかしさを端的に表している。
「All the pictures I’ve been painting / Are smudged by the rain」という比喩は、自分の内面世界(理想や夢)が外部の現実や感情によって壊れていく様子を描写しており、それは儚く、美しく、どこか切ない。「絵を描く」こと自体が創造的行為であると同時に、精神的な逃避でもあると捉えるなら、この楽曲は芸術的な自己防衛と、その崩壊の物語と見ることもできる。
また、「I’m stuck in a daydream」というラインには、逃避的な空想の世界にとらわれながらも、そこから抜け出せない自分の姿が表れており、これは日常の不安や孤独からの逃避願望、あるいは過去の記憶に囚われ続ける心理とも解釈できる。
全体を通して、歌詞は抽象的でありながらも、現代的な“内面の不安定さ”や“現実との距離感”を非常にリアルに描いている。Veronica Fallsはここで、単なるラブソングではなく、感情と思考の非対称性そのものをテーマに据えた、極めて知的かつ感覚的な表現を試みている。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Disorder by Joy Division
内面の混乱と現実のずれをミニマルに描いたポストパンクの金字塔。 - Sleep the Clock Around by Belle and Sebastian
夢と現実の間を漂うような視点で語られる、淡くも深い感情の歌。 - In My Head by Bedroom
内面に渦巻く感情を、静かなギターとローファイサウンドで包み込む作品。 - Cherry-coloured Funk by Cocteau Twins
歌詞の意味を曖昧にしたまま感覚に訴えかける、感情とイメージの音楽。 - Kaleidoscope by Lush
多層的な感情の断片を、ドリーミーなギターに乗せて描くシューゲイザーの佳曲。
6. 頭の中の“右側”で起きていること——「Right Side of My Brain」が映す内面世界のゆらぎ
「Right Side of My Brain」は、Veronica Fallsの作品の中でもとりわけ**“感覚”をそのまま音に落とし込んだような楽曲**であり、聴き手に明確な答えを求めず、ただ感じることを促す内省的なポップソングである。
この曲は、理屈では整理できない心の状態、言葉にならない思い、夢のように漂う記憶と現実の混ざり合いといった、右脳的な情景を繊細に描き出す音楽的試みと言える。Veronica Fallsは、そうした曖昧さや不確かさを“欠陥”ではなく、“生きている証”として肯定するような眼差しで描いており、それがこの曲の深い魅力につながっている。
人生において、すべてが論理的に割り切れるわけではない。むしろ多くのことは、理解できないまま心に残り続ける。その事実を、静かに、でも確かに教えてくれるのが、「Right Side of My Brain」なのだ。言葉では届かない感情が、音楽によってそっと触れられる——そんな瞬間をこの曲は与えてくれる。
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