発売日: 1981年10月
ジャンル: ポストパンク、ダブ、アフロビート
The Slitsが1979年の革新的なデビュー作Cutから約2年後に発表したセカンドアルバムReturn of the Giant Slitsは、さらに大胆で実験的な方向性を示した作品だ。ポストパンクやダブの要素に加えて、アフロビートやジャズ的な要素が取り入れられ、より多層的で予測不能なサウンドを生み出している。デビュー作と比べ、音楽的自由度が増し、挑戦的な姿勢が際立つ。
アルバムタイトルにある「Giant Slits」という言葉からもわかるように、The Slitsは単なるバンドという枠を超えた存在へと進化している。歌詞はより抽象的で詩的になり、音楽はカオスの中に秩序を見出すようなアプローチがとられている。この作品は、商業的な成功には結びつかなかったものの、アートとしての価値は高く評価されており、リスナーにとって挑戦的かつ発見の多い作品となっている。
以下、全8曲について詳しく解説する。
トラックごとの解説
1. Earthbeat
アルバムの幕開けを飾るこの曲は、アフロビートのリズムが前面に押し出されたダンスナンバー。ジャンベやコンガといったパーカッションが楽曲の核を形成し、Viv Albertineのギターがそれに絡む。Ari Upのボーカルは自然と調和し、彼女たちが音楽的に新たな領域を切り開いたことを示している。
2. Or What It Is?
ダブとアフロビートが融合した一曲。反復的なベースラインとスペーシーなエフェクトが特徴で、全体に流れるミニマルな雰囲気が心地よい。歌詞は抽象的で、聴き手に解釈を委ねる形となっている。
3. Face Place
カオティックでありながらもまとまりのある一曲。タイトル通り、顔やアイデンティティをテーマにしているような印象を受ける。断片的なギターリフとタイトなベースが楽曲を支えている。
4. Walk About
冒険的で自由な雰囲気を感じさせるトラック。アフロビートの影響が色濃く、繰り返されるパーカッションが聴き手をトランス状態に誘う。Ari Upのボーカルは即興性があり、リズムと溶け合うようなパフォーマンスが魅力的だ。
5. Difficult Fun
アルバムの中でも比較的キャッチーな楽曲。リズムが躍動感に満ちており、タイトルの通り「困難だけれど楽しい」という矛盾した感覚が音楽に表現されている。Viv Albertineのギターがポップな要素を加え、ベースラインがグルーヴを生み出している。
6. Animal Space / Spacier
自然と人間の関係性をテーマにしたようなトラックで、動物的な野生のエネルギーを感じさせる。エフェクトがかけられたボーカルと、遊び心あふれるサウンドデザインが印象的。
7. Improperly Dressed
ファッションや外見への社会的プレッシャーを皮肉った歌詞が特徴。シンプルな構成ながらも、挑発的なメッセージが際立つ。ベースとギターの絡みがスリリングで、聴き手を引き込む。
8. Life on Earth
アルバムの最後を飾る壮大なトラック。アフロビートの要素とダブの影響が見事に融合し、アルバム全体を総括するようなスケール感がある。歌詞は自然や地球への賛歌のように聞こえ、The Slitsの多様性と深みを象徴する一曲だ。
ジャンルの境界を超えた音楽的探求
Return of the Giant Slitsは、パンクバンドとしてのThe Slitsを期待していたリスナーにとっては驚きの連続だっただろう。しかし、このアルバムで彼女たちが示した音楽的探求心と多様性は、商業的成功に縛られないアーティストとしての姿勢そのものだ。ダブやアフロビートの取り入れ方はユニークで、ポストパンクという枠に収まらない実験精神が貫かれている。
Dennis Bovellがプロデュースした前作Cutに比べ、プロダクションはやや粗削りだが、それが逆にアルバムの持つ自由で冒険的な雰囲気を強調している。
アルバム総評
Return of the Giant Slitsは、聴き手に挑戦を突きつけるような作品だ。アフロビート、ダブ、ポストパンクの融合は、当時としては非常に先鋭的であり、今なお新鮮に感じられる。歌詞、アレンジ、ボーカルスタイルのすべてが実験的で、一聴して理解するのは難しいかもしれない。しかし、時間をかけて向き合うことで、The Slitsが伝えたかったメッセージや音楽の奥深さに気づくことができるだろう。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
My Life in the Bush of Ghosts by Brian Eno and David Byrne
エスニックなリズムと実験的な音楽性が融合したアルバムで、The Slitsの革新性と共通点が多い。
No Wave by Lizzy Mercier Descloux
アフロビートとポストパンクが交差する、The Slitsと同様にジャンルの境界を越えた作品。
Metal Box by Public Image Ltd.
ダブとポストパンクの融合をさらに深化させたアルバムで、実験的なサウンドが楽しめる。
Fear of Music by Talking Heads
アフリカのリズムやエスニックな要素を取り入れたポストパンクの名盤。
The Raincoats by The Raincoats
The Slitsと同時期に活躍した女性バンドによるアルバムで、DIY精神と実験的な音楽性が共通している。
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