アルバムレビュー:Rain Dances by Camel

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発売日: 1977年9月17日
ジャンル: プログレッシブ・ロック、ジャズロック、フュージョン


雨粒のように揺れる旋律、内省と変化の交錯——“踊る雨”が導くキャメルの新たな地平

『Rain Dances』は、1977年にリリースされたCamelの5作目のスタジオ・アルバムであり、バンドにとって大きな転機となる作品である。
前作『Moonmadness』までの“幻想的・牧歌的・内向的”なキャメル・サウンドに対し、本作ではより都会的で洗練されたジャズロック/フュージョン的アプローチが強く打ち出されている。

メンバー編成にも大きな変化があり、元Caravanのリチャード・シンクレア(ベース/ヴォーカル)と、King Crimsonのメル・コリンズ(サックス/フルート)が新たに加入。
これによりCamelの音楽は、よりファンクネスと浮遊感を両立させた有機的な広がりを持つようになった。
それはまるで、静かな砂漠に突如降り始めた雨が、大地に生命のリズムを与えていくような変化であった。


全曲レビュー

1. First Light

アルバムはこのインストゥルメンタルで幕を開ける。
タイトル通り、“最初の光”がゆっくりと地平線を照らしていくような、滑らかで美しいジャズロック。
メル・コリンズのサックスが、空気の粒子を震わせるかのように滑り込んでくる。

2. Metrognome

リチャード・シンクレアがリード・ヴォーカルを務める、陽気でリズミカルなナンバー。
変拍子を含む複雑な構成ながら、どこかコミカルで愛嬌のある楽曲。
中盤からのジャズ的な展開は、Caravanとの共通項も感じさせる。

3. Tell Me

ラティマーの哀愁あるボーカルが響く、切なさと優しさを併せ持ったバラード。
ピアノとギターが寄り添い、「教えてくれ、なぜ僕らはこんなにも迷っているのか」と語りかけてくるようだ。

4. Highways of the Sun

比較的シンプルでポップな楽曲。
アコースティックギターを基調に、開放感あるコーラスとフルートが重なり、キャメルらしい“穏やかな旅情”を描き出す。
リリース当時はシングルカットもされた。

5. Unevensong

本作屈指のプログレッシブな構成を持つ名曲。
不安定なリズム、転調、抑制された緊張感が美しい緻密な楽曲で、Camelの知的側面が際立つ。
タイトルも「不均整の歌」という意味深なニュアンスを含んでいる。

6. One of These Days I’ll Get an Early Night

ジャズファンク色の強いアップテンポ・ナンバー。
グルーヴィなベースとメル・コリンズのサックスが印象的で、Camelの“踊るような”一面が見える一曲。
アルバムタイトル『Rain Dances』の精神が最も感じられる楽曲かもしれない。

7. Elke

ピーター・バーデンスによるソロ的なインストゥルメンタル。
静謐なピアノとシンセが織りなすアンビエントな小曲で、夢と現実の境界を曖昧にするような深い瞑想感を持つ。

8. Skylines

ラティマーのギターとコリンズのサックスが交差する、インストゥルメンタルの佳作。
都市の“スカイライン”を思わせるような広がりとスピード感があり、空中に浮遊するような聴き心地が魅力。

9. Rain Dances

アルバムのラストを飾る表題曲は、短くも象徴的なインストゥルメンタル。
雨が地面を叩き、植物を目覚めさせ、やがてそれが踊り出す——そんな風景が浮かんでくるような、静かで美しい締めくくり。


総評

『Rain Dances』は、Camelがサウンドを拡張し、新しい風を取り込んだ意欲作にして、バンドの進化の中継点として極めて重要な作品である。
それまでの叙情性はそのままに、ジャズロック/フュージョン的アプローチを加えることで、音楽に“身体性”や“時間の揺らぎ”といった新たな感触が加わっている。

繊細で知的であると同時に、どこか踊るような軽やかさ。
それこそが、『Rain Dances』が今なお多くのリスナーに愛される理由だろう。
このアルバムを聴いていると、“雨音ですら踊りに変わる瞬間”が、確かに存在するのだと信じたくなる。


おすすめアルバム

  • Caravan『For Girls Who Grow Plump in the Night』
     シンクレア在籍時の名盤。Camelとの音楽的親和性も非常に高い。
  • Soft Machine『Six』
     ジャズロック色の強い即興性と構築性が共存する名作。
  • Hatfield and the North『The Rotters’ Club』
     ユーモアと技巧が交差するカンタベリー・サウンドの粋。
  • Weather Report『Black Market』
     同時代的なフュージョンの代表作。Camelのグルーヴ志向と共鳴。
  • Mike Oldfield『Incantations』
     ミニマルでスピリチュアルな構成美が、『Rain Dances』の内面性と響き合う。

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