1. 歌詞の概要
「Paradise Girls（パラダイス・ガールズ）」は、Deerhoofが2014年にリリースしたアルバム『La Isla Bonita』に収録された楽曲であり、その突き抜けたユーモアと痛快な社会批評を併せ持つ、フェミニズム的なエネルギーが凝縮された一曲である。
タイトルの「Paradise Girls（楽園の女の子たち）」は、表面的には陽気でポップな響きだが、実際の歌詞はそのイメージを巧みに裏切る。ここで歌われているのは、従来の“女の子らしさ”や“理想の女性像”に対する挑発であり、もっと自律的で知的で大胆な“新しい女の子像”への讃歌である。
サトミ・マツザキによる歌詞は、極めてシンプルな単語の連なりで構成されているにも関わらず、そこにはポリティカルな挑発、ユーモラスな反抗、そしてキュートでラディカルなリズムが混ざり合っている。Deerhoofはこの曲で、「可愛さ」や「フェミニンさ」に対する既成のフレームを笑い飛ばしながら、新しい感性を提示しているのだ。
2. 歌詞のバックグラウンド
『La Isla Bonita』は、アルバムタイトルがマドンナの楽曲名と同じであることからもわかるように、80年代的ポップカルチャーや政治性を独自の視点で解体・再構築した作品である。その中でも「Paradise Girls」は、最もポップかつパンクな曲として異彩を放つ。
この曲の核となるのは、冒頭のフレーズ「Girls who play bass guitar（ベースを弾く女の子）」である。これだけで、Deerhoofが何を讃え、何に中指を立てているのかは明白だろう。音楽業界におけるジェンダー・ロールへの風刺と反抗、それでいて愛にあふれた言葉の選び方が、ただのポリティカル・ソングとは異なる“Deerhoofらしさ”を形作っている。
サウンド的には、Greg Saunierの変則ビート、John DieterichとEd Rodriguezのツインギターの噛み合い、そしてSatomiの跳ねるようなヴォーカルが融合し、たった2分余りの中に、まるで一枚のマンガのような展開とテンションの高低を詰め込んでいる。
3. 歌詞の抜粋と和訳
Girls who play bass guitar
Girls who are smart
Girls who work in the library
Yeah, they rule the world
ベースを弾く女の子たち
頭の良い女の子たち
図書館で働く女の子たち
そう、彼女たちが世界を支配しているんだよ
Girls who are scientists
Girls who make art
Girls who grow vegetables
Girls who aren’t afraid to fart
科学者の女の子たち
アートをつくる女の子たち
野菜を育てる女の子たち
おならをするのを怖がらない女の子たち
引用元：Genius Lyrics – Deerhoof “Paradise Girls”
この引用からもわかるように、歌詞は極めてストレートで、リズミカルな列挙型構造が特徴的である。すべての“Paradise Girl”が、既存の枠に当てはめられない生き方をしていることが、愛を込めて肯定されている。
4. 歌詞の考察
「Paradise Girls」は、現代社会における“女性像のアップデート”を、遊び心とともに提示する名曲である。
最初に登場するのが“ベースを弾く女の子”であることに注目したい。これは、ロックバンドの世界における“女性メンバー”が長らくマイノリティであり、しかも“ベース担当”に置かれる傾向があるという文化的背景を踏まえた上での皮肉でもある。しかしDeerhoofは、そこに込められたジェンダーロールを笑い飛ばしつつ、あえてそれを“世界を支配する存在”として讃えてみせる。
そして「おならを怖がらない女の子たち」という一節は、見事なパンチラインである。ここには、女性に課せられる「品格」や「上品さ」への社会的圧力を、ユーモアをもって解体するラディカルな視点がある。言い換えれば、これは“人間として自然な存在”であることの肯定であり、“型にはまらないこと”の祝福でもあるのだ。
このようにして「Paradise Girls」は、愛、知性、ユーモア、そして美しさの多様性を描くリストとなっている。Deerhoofが提示する“楽園の女の子たち”は、決して完璧な偶像ではない。むしろ不完全で、自分のやり方で世界と関わっていく存在である。その姿勢が、真のフェミニズムとして、まっすぐにリスナーの胸に届く。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Rebel Girl by Bikini Kill
フェミニスト・パンクの代表曲。怒りと誇りに満ちたアンセム。 - Maps by Yeah Yeah Yeahs
感情の複雑さと力強さが同居する、ポストパンクの名バラード。 - Concrete Schoolyard by Jurassic 5
音楽を通して知性と遊び心を讃える、軽快で誠実なヒップホップ。 - I Wanna Be Your Joey Ramone by Sleater-Kinney
男性ロックスターのアイコンを逆手に取った、逆転の発想によるパワーソング。
6. “自由と笑いで、ステレオタイプを焼き尽くす”
「Paradise Girls」は、あらゆる既成概念やジェンダーロールに風穴を開ける、ポップでチャーミングな“思想のカプセル”である。
Deerhoofは怒りに満ちた声ではなく、
笑いながら、中指を立てる。
そしてその背中を追いたくなるようなユーモアと知性を携え、
リスナーにこう語りかける――
「誰が何をしてもいい。
それがパラダイスってもんじゃない？」
この曲は、そう信じるすべての“パラダイス・ガールズ”に捧げられた、
小さくて強い賛歌なのである。
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