発売日: 1988年
ジャンル: オルタナティヴ・ロック、ネオサイケ、フォークロック、ポップロック
実験から洗練へ——メジャー移籍後の“革命的スウィートハート”
Camper Van Beethovenにとって4作目となるOur Beloved Revolutionary Sweetheartは、1988年にVirgin Recordsからリリースされた。
つまり、本作は彼らにとって初のメジャーレーベル作品であり、カレッジロックからオルタナティヴ・ロックの文脈へと本格的に飛び出していく節目でもある。
本作では、かつてのカオティックで風刺的な衝動は抑えられ、より明瞭で洗練されたソングライティングが前景化している。
とはいえ、依然として彼らの多様な音楽性——サイケ、フォーク、東欧風メロディ、カントリー、ポストパンク的ニュアンス——は健在であり、むしろそのバランス感覚が際立った一枚とも言える。
プロデュースはDennis Herring。彼の手腕によって、バンドの持つ雑多さがポップとしての強度を得ている。
全曲レビュー
1. Eye of Fatima (Pt. 1)
軽快なマンドリンとファズギターの対比が鮮やか。
宗教的・スピリチュアルなイメージを散りばめつつ、皮肉と祈りが交錯するオープナー。
2. Eye of Fatima (Pt. 2)
より内省的な展開。
パート1の熱気から一転し、煙のように漂うようなサウンドで幕を引く。
3. O Death
アパラチア地方の伝承歌を基にしたスロウなナンバー。
死を擬人化し対話する内容は、古いアメリカの宗教観と結びついている。
4. She Divines Water
キャッチーなサビが印象的なギターポップ。
「水を占う彼女」という神秘的なイメージと恋愛感情が重なり合う。
5. Devil Song
低音を効かせたブルージーなアレンジ。
悪魔と取引をするような寓話的展開は、アメリカ南部の音楽伝統へのオマージュとも読める。
6. One of These Days
明るいテンポの中に、別離や喪失への含意が込められた一曲。
タイトルの繰り返しがリスナーにささやかな決意を感じさせる。
7. Turquoise Jewelry
“ターコイズのジュエリー”という俗っぽいアイテムを用いながら、アイデンティティや消費社会への諷刺を描く。
軽快なメロディに乗せた批評精神が秀逸。
8. Waka
インストゥルメンタルの小品。
中東風の旋律とリズムが交差し、アルバムにひとときの旅情をもたらす。
9. Change Your Mind
穏やかなメロディが印象的なバラード。
心変わりを促す歌詞は、切なさと諦念を滲ませる。
10. My Path Belated
フォーキーなギターとストリングスが美しい。
“遅れてきた私の道”というフレーズが、バンド自身の音楽的変遷にも重なる。
11. Never Go Back
メロディは前向きだが、歌詞には過去を捨てきれない葛藤が描かれている。
二面性のある楽曲構造。
12. The Fool
短くも印象的なインスト。
愚者(The Fool)が歩く未知の旅路をイメージさせるサウンド。
13. Tania
「革命家の恋人」という本作のタイトルを象徴する楽曲。
実在の活動家Patricia Hearst(誘拐され急進左翼化したセレブ)の物語をモチーフに、愛と政治の交錯を描く。
14. Life Is Grand
本作を締めくくる希望に満ちたナンバー。
「人生は素晴らしい(Life is grand)」というフレーズに、皮肉と真実の両方が込められているようにも感じられる。
総評
Our Beloved Revolutionary Sweetheartは、Camper Van Beethovenにとって重要な分岐点であり、彼らの表現が“アート”から“ソング”へとシフトしていく過程を描いた作品である。
雑多な要素は洗練され、構成はより緻密に、メロディはより聴きやすく、しかしその核には変わらず批評性とアイロニーが宿っている。
タイトルにある「革命的恋人」とは、失われた理想や変わりゆく時代、そして音楽という手段そのものを指しているのかもしれない。
甘さとほろ苦さが同居する、CVB流のポップ革命である。
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