One Week by Barenaked Ladies(1998)楽曲解説

 

1. 歌詞の概要

「One Week」は、カナダのポップ・ロックバンド、Barenaked Ladiesが1998年に発表した楽曲であり、彼らにとって最大の商業的成功を収めたシングルである。特にアメリカではBillboard Hot 100で1位を獲得し、90年代後半のオルタナティブ・ポップを象徴するような存在となった。

歌詞の内容は、恋人同士の喧嘩と仲直りを軸にしているが、そのテーマは非常にユニークな形で表現されている。冒頭の「It’s been one week since you looked at me(君が僕を睨みつけてから1週間)」という一文から始まり、曲全体は軽妙な言葉遊び、ポップカルチャーへの言及、風刺、ユーモアが渦巻くラップ調のヴァースと、感傷的でメロディックなコーラスとの対比で構成されている。

愛と不安、距離と親密さ。歌詞の本筋はごく私的でパーソナルなものだが、そこに重ねられるカオティックな言葉の洪水が、現代人の感情の錯綜を巧みに映し出している。

2. 歌詞のバックグラウンド

「One Week」は、バンドのリード・シンガーであるEd Robertsonによって書かれた楽曲で、当初はアルバム『Stunt』の中の一曲として構想されていた。しかし、独特なラップ・スタイルのヴァースと、Steven Pageが歌うエモーショナルなコーラスとのコントラストがリスナーの間で高く評価され、シングルとしてリリースされると爆発的ヒットを記録した。

歌詞の中に登場する「X-Files」「Bert Kaempfert」「Aquaman」「Sailor Moon」など、90年代当時のポップカルチャーを反映した固有名詞が多数盛り込まれており、それがアメリカのオーディエンスにも親しみを持って受け入れられた要因となった。

また、Ed Robertsonはこの曲のラップ・パートを即興で書き上げており、その即興性が持つ軽快さ、脱線的ユーモアが、日常の混乱やカップルの会話における“論点のずれ”と重なり、楽曲全体にリアリティと遊び心を与えている。

3. 歌詞の抜粋と和訳

引用元:Genius Lyrics

It’s been one week since you looked at me
「君が僕を睨みつけてから1週間」
Cocked your head to the side and said I’m angry
「顔を傾けて“怒ってる”って言ったんだよね」
Five days since you laughed at me
「5日前には、君が僕を見て笑った」
Saying ‘Get that together, come back and see me’
「“整理がついたら戻ってきてよ”なんて言ってさ」

Hold it now and watch the hoodwink
「ちょっと待って、それはトリックだよ」
As I make you stop, think
「僕が君を立ち止まらせて、考えさせる」
You’ll think you’re looking at Aquaman
「君はまるでアクアマンでも見てるみたいに思うだろう」

この冒頭数行からも分かるように、感情的な関係の揺らぎが描かれているが、その表現は徹底して軽妙で、比喩と文化的参照によってユーモラスに包まれている。

“睨む”“笑う”“怒る”“帰ってくる”といったシンプルな感情の起伏が、テンポの速い語りの中で軽やかに転がりながら、実は誰もが共感できる感情の機微をさらりと描き出している。

4. 歌詞の考察

「One Week」は、関係性の“修復期”をテーマにしたラブソングである。ただし、それは従来のラブソングに見られるような誠実さや情熱ではなく、ユーモアと諧謔(かいぎゃく)によって“距離”を測ろうとする現代的アプローチが特徴だ。

ラップ部分は表面的にはナンセンスの羅列に見えるが、その実、言葉が暴走し、まとまりを欠いている様は、まさに恋人同士の“言葉がかみ合わない瞬間”を象徴しているかのようだ。一方、サビにあたる部分では、感情が立ち止まり、相手への未練や戸惑いが静かににじみ出る。

つまりこの曲は、会話にならない会話の詩なのだ。

また、リスナーにとってこの楽曲は“聴くジョーク”であると同時に、“自分の姿を見る鏡”のようでもある。関係の緊張を笑い飛ばすことで乗り越えようとする姿勢は、ポストモダン的な愛の表現として高く評価されてきた。

加えて、意味を詰め込みすぎたラップと、ふと立ち止まるようなコーラスのコントラストが、日常の混乱と静けさを巧みに対比し、私たちの中にある“愛しさ”と“こじらせ”の両方をそっと映し出す。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Flagpole Sitta by Harvey Danger
    同じく90年代オルタナ・ロックの一角を担った一曲。アイロニーとユーモアに満ちたリリックが魅力。
  • The Impression That I Get by The Mighty Mighty Bosstones
    スカ・パンク調で、不安や皮肉を笑いに変える軽快なリズムが心地よい。
  • Buddy Holly by Weezer
    ポップカルチャーへの言及と、シンプルな恋愛の描写が見事に融合した楽曲。
  • What I Got by Sublime
    緩やかなラップとメロディの融合、そして軽妙な日常描写という意味で「One Week」と通じ合う。

6. ポップカルチャーと愛のこじれを笑う術

「One Week」は、1990年代という“過剰な情報と軽やかな自嘲”が文化を形作った時代を象徴する一曲である。

この楽曲がヒットした背景には、当時の若者たちの心情がある。シリアスな愛よりも、笑いながら乗り越える愛のほうがリアルだと感じていた世代にとって、この曲は現実を戯画化する最高のカタルシスだったのだろう。

Barenaked Ladiesは、愛を美しく描くことよりも、愛の不格好さに寄り添うことを選んだ。その姿勢が、彼らを一発屋ではなく、“90年代の鏡”として今も記憶に残らせている理由にほかならない。

「One Week」は、恋人との1週間を笑い、巻き戻し、やり直すための魔法のような一曲なのである。

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