On Hold by The xx(2017)楽曲解説

Spotifyジャケット画像

1. 歌詞の概要

『On Hold』は、The xxが2017年に発表した3rdアルバム『I See You』のリードシングルとしてリリースされた楽曲であり、彼らにとって転機となった作品である。タイトルの「On Hold」は「保留中」「一時停止」を意味し、恋愛関係における停滞、すれ違い、そして再評価といった複雑な感情を象徴的に描いている。

この曲の歌詞は、かつて共有していた親密な関係が変化し、その中で愛情がすり減っていく様子を繊細かつ率直に語っている。ボーカルはロミー・マドリー=クロフトとオリヴァー・シムが交互に担当し、それぞれが異なる視点から過去の関係を回想する形式を取っている。彼らは、かつての絆がどのように失われたのか、そして「いつからすれ違いが始まっていたのか」を淡々と、それでいて切実に問いかける。

音楽的には、Jamie xxのプロダクションが大きく進化しており、以前の作品に比べて明確にエレクトロニックな要素が増している。特にHall & Oatesの1981年のヒット曲『I Can’t Go for That (No Can Do)』のサンプリングは、過去へのノスタルジーと現在の切なさを同時に響かせる象徴的な手法となっている。

2. 歌詞のバックグラウンド

『On Hold』は、The xxの3人にとって音楽的・感情的に新しいフェーズへと突入する象徴的な楽曲である。前作『Coexist』(2012年)ではミニマリズムと静謐さを極めた彼らだったが、『I See You』ではより開かれた音作りと外界へのまなざしを示している。その先陣を切ったのが本曲『On Hold』であり、彼らにとって初めて「外に向かって歌う」ことを意識した作品とも言える。

制作の背景には、メンバーそれぞれの経験の変化がある。特にJamie xxは2015年にソロアルバム『In Colour』を発表し、クラブミュージックやUKベース、ハウスの世界で高い評価を得た。『On Hold』には、その音楽的経験が色濃く反映されており、バンドとしてのThe xxに新たなリズム感とサウンドスケープをもたらしている。

また、ロミーとオリヴァーの歌詞には、かつての親密さがどう変化してしまったのかを受け止め、再構築しようとする姿勢が見える。これは、単なる失恋の歌ではなく、変化の中でなお「関係を見つめ直すこと」の重要性を語る曲となっている。

3. 歌詞の抜粋と和訳

I don’t blame you
君を責めるつもりはない

We got carried away
僕たちは夢中になりすぎたんだ

I can’t hold on
もうこれ以上しがみつけない

To an empty space
空っぽの関係には

冒頭からすでに、「終わりつつある関係」を冷静に見つめる語りが展開される。かつて熱かった想いが今は空虚になっているという現実と、それを責めずに受け入れようとする成熟した態度が印象的だ。

When and where did we go cold?
僕たちはいつ、どこで冷めてしまったのだろう?

I thought I had you on hold
君を”保留”にしていたつもりだった

「on hold(保留)」という表現は、この楽曲の核心的なメタファーである。物事を保留にすることで関係を維持できると信じていたけれど、実際にはそれが徐々に関係を希薄にしてしまったという気づきが、哀しくも響く。

Every time I let you leave
君を手放すたびに

I always saw you coming back to me
君はいつも戻ってくると思っていたんだ

When and where did we go cold?
でも、どこで僕たちは冷たくなったんだろう?

自信と安心の中にあった期待が裏切られたこと、そのショックを理性的に処理しようとする苦しみが描かれている。

引用元:Genius – The xx “On Hold” Lyrics

4. 歌詞の考察

『On Hold』の歌詞は、The xxがこれまで描いてきた「親密さと距離感」というテーマをより明示的かつ複雑に発展させたものとなっている。以前は語られなかった感情のニュアンスや内面の葛藤が、より具体的に、そして現実的に歌われており、楽曲全体に大人の視点が漂う。

特に興味深いのは、「保留」という状態そのものへの問いかけである。人間関係において、時には距離を置くことが最善であると信じていても、それが結果として相手との断絶を招いてしまうことがある。『On Hold』は、そうした選択の代償について描いており、恋愛における不確かさと希望の両方を抱えた楽曲である。

また、Hall & Oatesのサンプリングが持つ意味も深い。1980年代の甘くソウルフルな楽曲のフレーズを、現代のクールなトラックの中で再利用することで、「過去へのノスタルジー」と「現在の冷静な視点」が交差する構造が生まれている。これは、恋愛における「記憶と現実」の交差とも読み取れ、音楽的にも感情的にも非常に巧妙な演出となっている。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Loud Places by Jamie xx ft. Romy
    Jamie xxのソロ作品。『On Hold』と同じくクラブミュージックと感情の混合がテーマとなっており、ロミーのボーカルが繊細な彩りを加える。

  • Love It If We Made It by The 1975
    エレクトロニックなサウンドと感情の起伏を織り交ぜながら、現代社会に対するメッセージを放つ作品。『On Hold』同様、時代を反映する意識がある。
  • Everything Now by Arcade Fire
    ディスコ的なリズムと感情の空虚さを交差させた作品で、軽快なサウンドと深いテーマ性が『On Hold』と共鳴する。

  • Settle Down by Kimbra
    恋愛における期待と現実、制御できない感情の起伏を独特のプロダクションで表現した楽曲。The xxの文脈に親和性がある。

6. 新たなThe xx像を提示したエポックメイキングな一曲

『On Hold』はThe xxにとって、ただのサウンドの進化を超えた「自己像の再定義」と言える楽曲だった。これまでの作品において彼らは内省的で静かな世界を描き出していたが、この曲ではその内面をより外の世界へ向けて解き放ち、かつてなかった開放感を獲得している。

ミュージックビデオも、アメリカの学生生活をテーマにしながら、個人と群衆、孤独とつながりといったモチーフを象徴的に描き、楽曲のテーマとリンクしている。映像においても「繰り返し」と「変化」が重要な要素として登場し、The xxらしい感覚が視覚的にも表現されている。

このように、『On Hold』はThe xxの音楽的変化の象徴であると同時に、彼らが成長した証であり、バンドとしての新章の幕開けを告げるエモーショナルで洗練されたマイルストーンである。


歌詞引用元:Genius – The xx “On Hold” Lyrics

コメント

タイトルとURLをコピーしました