
発売日:2012年9月5日 / ジャンル:インディー・ポップ、ミニマル・ポップ、ドリーム・ポップ、ポスト・ダブステップ、オルタナティヴR&B
概要
The xxの2作目『Coexist』は、2009年のデビュー・アルバム『xx』で確立されたミニマルな音楽美学を、さらに削ぎ落とし、より静かで、より冷たく、より孤独な方向へ深化させた作品である。『xx』は、Romy Madley CroftとOliver Simの親密なヴォーカルの掛け合い、Jamie xxによる控えめなビート処理、隙間の多いギターとベースによって、2000年代末のインディー・ポップに大きな変化をもたらした。大きな音や強い歌唱ではなく、沈黙、余白、近すぎる声、低いビートによって恋愛の不安を描くそのスタイルは、以後のオルタナティヴR&Bやミニマル・ポップにも大きな影響を与えた。
『Coexist』は、その成功を受けて作られたアルバムである。しかし本作は、デビュー作の路線を単純に拡大した作品ではない。むしろ、The xxはより内側へ向かった。音数はさらに少なくなり、楽曲の温度は低くなり、感情はよりはっきりと言葉にならないまま残される。『xx』が深夜の部屋で二人が向き合うアルバムだったとすれば、『Coexist』は同じ部屋にいながら、二人の間にすでに距離が生まれているアルバムである。
タイトルの『Coexist』は「共存する」という意味を持つ。この言葉は、一見すると穏やかで平和な関係を示すように見える。しかしThe xxの文脈では、共存とは必ずしも完全な調和ではない。むしろ、同じ空間にいながら別々の孤独を抱えること、相手を求めながら同時に距離を必要とすること、愛し合っているのにうまく重なれないことを意味している。二つの存在が一つになるのではなく、別々のまま隣にいる。その困難さが、本作の中心にある。
音楽的には、『Coexist』はデビュー作よりもさらにクラブ・ミュージックの影響を静かに取り込んでいる。Jamie xxは、UKガラージ、ポスト・ダブステップ、ハウス、R&Bの感覚を、極端に抑制された形で楽曲に組み込んでいる。ビートは派手に鳴らず、低音も過剰に膨らまない。しかし、曲の奥にはクラブの遠い残響のようなリズムがある。まるで、パーティーが終わった後の朝方、空になったフロアの隅に残っている低音の記憶のようである。
RomyとOliverのヴォーカルの関係性も、本作ではさらに重要になっている。前作では二人の声が、恋人同士の会話のように近く響いていた。本作では、その近さに加えて、すれ違いの感覚がより強い。二人は同じテーマを歌っていても、完全には同じ場所にいない。声と声の間に空白があり、その空白が歌詞以上に多くを語る。The xxの楽曲では、言葉にされた感情よりも、言葉にならず残された沈黙のほうが深い意味を持つ。
歌詞のテーマは、別れ、未練、親密さの喪失、関係の再確認、欲望、沈黙、距離、記憶である。『xx』の恋愛が、まだ始まったばかりの不安や身体的な近さを描いていたのに対し、『Coexist』では、関係が一度壊れた後、あるいは壊れかけている最中の感情が中心になる。相手を忘れられないが、戻ることもできない。まだ愛しているようで、すでに終わっている。隣にいるのに、心は遠い。本作は、その曖昧な状態を徹底して描く。
本作の美しさは、非常に冷たい。ロマンティックではあるが、甘いわけではない。官能的ではあるが、熱いわけではない。The xxは、恋愛を大きなドラマとしてではなく、深夜の短いメッセージ、途切れた会話、同じベッドの中の距離、目を合わせない沈黙として描く。『Coexist』は、その意味で、現代的な親密さのアルバムである。つながる手段が多い時代に、なぜ人はこれほど届かないのか。その問いが、全編に静かに漂っている。
全曲レビュー
1. Angels
オープニング曲「Angels」は、『Coexist』の世界を最も静かな形で開く楽曲である。タイトルの「天使」は、純粋さ、理想化、手の届かない美しさを連想させる。ここでRomyは、相手への深い愛情を非常に小さな声で歌う。しかし、この曲の愛は幸福に満ちたものではなく、むしろ相手をあまりにも美しく見てしまうことで、自分自身が遠ざかっていくような危うさを持っている。
サウンドは極めて簡素である。ギターの単音、わずかな残響、Romyの声。ほとんど裸のようなアレンジによって、歌詞の一語一語が近く響く。『xx』の「Intro」が音響によって世界を開いたのに対し、「Angels」は声そのものによってアルバムを始める。この選択は、本作がより感情の微細な揺れに集中していることを示している。
歌詞では、相手を天使のように見つめる語り手の視線が描かれる。だが、その美しい賛辞の奥には、相手を理想化することの危険がある。人は愛する相手を完全な存在として見てしまうことがある。しかし、その理想化は、現実の関係を難しくする。相手は天使ではなく人間であり、自分もまた相手の理想にはなれない。
「Angels」は、本作の中でも特に美しい曲である。しかし、その美しさは安心ではなく、不安を含んだ静けさである。アルバムはここから、愛の中にある距離と幻影を探っていく。
2. Chained
「Chained」は、タイトル通り、鎖につながれること、関係に縛られることをテーマにした楽曲である。愛は自由を与えることもあるが、同時に相手との記憶や未練によって動けなくなることもある。この曲は、その拘束感をThe xxらしい抑制されたグルーヴで表現している。
サウンドは、低く脈打つビートと、空間的なギター、ベースの反復によって構成される。曲は大きく盛り上がらず、一定の圧力を保ったまま進む。その反復が、鎖につながれたように同じ場所から抜け出せない感覚を作っている。Jamie xxのビートは控えめだが、身体の奥に残る。
RomyとOliverの声は、互いに問いかけるように配置されている。歌詞では、以前は近かったはずの二人が、いつの間にか距離を置いてしまったことが暗示される。関係が変わったことを理解しているが、それでも完全には断ち切れない。Chainedという言葉は、相手への愛情であると同時に、過去に縛られている状態でもある。
「Chained」は、『Coexist』の中心テーマである、離れたいのに離れられない関係をよく示す曲である。静かなビートの中で、感情の拘束が淡々と描かれる。
3. Fiction
「Fiction」は、Oliver Simのヴォーカルが中心となる楽曲であり、アルバムの中でも特に孤独で、夜の独白のような性格を持つ。タイトルの「フィクション」は、虚構、作り話、現実ではないものを意味する。ここでは、相手との関係や、自分の中で作り上げた物語が、本当に現実だったのかどうか揺らいでいる。
サウンドはミニマルで、低いベースと控えめなビートがOliverの声を支える。曲全体は暗く、深夜の部屋で一人、自分の記憶を疑っているような雰囲気を持つ。音の隙間が広く、その空白が孤独を強めている。
歌詞では、相手がいない場所で、その存在を想像し続ける感覚が描かれる。恋愛が終わった後、人は相手との過去を何度も思い返す。しかし、記憶は完全に信頼できるものではない。相手の言葉、自分の感情、二人の関係の意味は、時間が経つにつれてフィクションのように変化していく。
「Fiction」は、The xxの持つ内省性が非常に濃く出た曲である。大きな失恋の物語ではなく、記憶の中で相手を作り直してしまう孤独が描かれている。Oliverの低く抑えた声が、その寂しさを静かに際立たせている。
4. Try
「Try」は、関係を続けようとする努力、あるいは修復しようとする意志をテーマにした楽曲である。タイトルは非常に短く、直接的である。「試みる」「努力する」という言葉は、恋愛において切実な響きを持つ。うまくいかないことを知りながら、それでも試してみる。その姿勢がこの曲の中心にある。
サウンドは、ゆっくりとしたテンポの中で、ギターと電子的なビートが静かに重なる。音は少ないが、曲全体にはじわじわとした緊張がある。The xxは、努力や願望を明るい上昇としてではなく、静かな疲労として描く。Tryという言葉は前向きである一方、そこにはすでに失敗の予感も含まれている。
歌詞では、相手に向かってまだ関係を試みようとする声が聞こえる。しかし、その声には確信がない。努力すれば戻れるのか、もう遅いのか。The xxの歌詞は、その答えを明確にしない。むしろ、答えが出ない状態そのものを音楽にしている。
「Try」は、『Coexist』の中で、関係の修復可能性をめぐる曲である。だが、ここに大きな希望はない。あるのは、壊れたものを前にして、それでも手を伸ばしてしまう人間の弱さである。
5. Reunion
「Reunion」は、再会をテーマにした楽曲であり、本作の中でも特にクラブ・ミュージックの残響を感じさせる曲である。タイトルは「再会」「再結合」を意味するが、The xxにおける再会は単純な幸福ではない。再び会うことは、過去を呼び戻すことであり、終わったはずの感情を再び動かすことでもある。
サウンドは、スティールパンのような響きを持つ音色が特徴的で、アルバムの中でも独特の温度を持つ。ビートは控えめながら、クラブのリズムを遠くに感じさせる。Jamie xxのプロダクションは、ここでミニマルなThe xxの音に、南国的ともいえる柔らかな色彩を加えている。しかし、その色彩は明るい祝祭にはならず、どこか寂しい余韻を伴う。
歌詞では、かつて親密だった相手と再び向き合う感覚が描かれる。再会は、過去の関係を取り戻すチャンスにも見える。しかし、時間が経った二人は以前と同じではない。再び会っても、かつての二人には戻れない。そのずれが曲の中心にある。
「Reunion」は、『Coexist』の中でも特に美しく、複雑な感情を持つ楽曲である。再会の甘さと、戻れないことへの哀しみが、控えめなビートと淡い音色の中で共存している。
6. Sunset
「Sunset」は、本作の中でも特に象徴的な楽曲である。タイトルの「夕暮れ」は、一日の終わり、光が消える時間、関係の終わりを示す。朝や昼ではなく夕暮れを選ぶことによって、この曲は別れの瞬間、あるいは終わりを受け入れ始める時間帯を描いている。
サウンドは、深い低音と抑制されたビートが中心で、非常に静かなダンス・トラックのように響く。The xxの楽曲の中でも、クラブ・ミュージックの影響が比較的明確に感じられる曲である。ただし、それは踊るための高揚ではなく、終わった関係を一人で反芻するためのビートである。
歌詞では、かつて近かった相手と、今では他人のようになってしまった状態が描かれる。相手を知っているのに、もう話せない。過去には親密だったのに、現在では距離がある。夕暮れは、その変化を象徴している。完全な夜になる前の、まだ少しだけ光が残っている時間である。
「Sunset」は、『Coexist』の中でも最も成熟した別れの歌のひとつである。怒りや悲劇ではなく、静かな認識がある。関係は終わった。だが、その終わりは一瞬ではなく、光が少しずつ消えるように訪れる。この曲は、その時間の美しさと寂しさを見事に捉えている。
7. Missing
「Missing」は、欠落、喪失、誰かがいないことをテーマにした楽曲である。タイトルは非常に直接的だが、The xxの音楽では、その直接性がかえって大きな余白を持つ。誰が欠けているのか、何が失われたのか、なぜ戻ってこないのかは明確に説明されない。だが、その不在は曲全体に強く存在している。
サウンドは、低く沈んだビートと、淡いギターの響きによって構成される。曲は重く、静かで、空白が多い。欠けているものを描くために、The xxは音を増やすのではなく、音を少なくする。何かがないことを、音のない場所として聴かせるのである。
歌詞では、誰かを失った後の感覚が描かれる。相手がいないことは、単なる物理的な不在ではない。自分の生活のリズムや、思考の方向、身体の感覚までも変えてしまう。Missingという言葉は、相手を恋しく思うことと、自分の一部が欠けていることの両方を意味する。
「Missing」は、『Coexist』の暗さを深める曲である。派手な悲しみではなく、日常の中で静かに続く欠落感が表現されている。The xxのミニマリズムが、喪失の感覚と非常によく結びついている。
8. Tides
「Tides」は、潮の満ち引きを意味するタイトルを持つ楽曲である。潮は、近づいたり遠ざかったりする運動、繰り返し、自然の力、感情の波を象徴する。『Coexist』における人間関係もまた、完全に固定されたものではなく、近づいては離れ、戻るようで戻らない。その動きがこの曲に反映されている。
サウンドは、ゆったりとしたビートと、繰り返されるギター、低音によって構成される。曲全体には波のような揺れがあり、一定の静けさの中で少しずつ感情が動く。The xxの音楽では、リズムがしばしば身体の動きではなく、感情の周期として機能する。この曲もその例である。
歌詞では、相手との距離が変化し続けることが描かれる。感情は一度決まれば終わりではない。会いたい時もあれば、離れたい時もある。戻ってきたように見えて、また引いていく。Tidesというタイトルは、その不安定な親密さをよく表している。
「Tides」は、本作の中で関係の循環性を示す楽曲である。The xxの恋愛表現は、決定的な終わりや始まりよりも、揺れ続ける状態に焦点を当てる。この曲は、その揺れを静かな音の波として描いている。
9. Unfold
「Unfold」は、「展開する」「開く」という意味を持つ楽曲である。タイトルだけを見ると、感情が開かれていくような希望を感じさせる。しかし、本作の文脈では、開くことは必ずしも明るい解放ではない。心を開くことは、傷つく可能性を受け入れることでもある。
サウンドは、非常に静かで、空間の広いアレンジになっている。音はゆっくりと現れ、消えていく。曲は大きく展開するというより、わずかに開いてはまた閉じるように進む。タイトルのUnfoldと、実際の音の慎重な動きが対照的である。
歌詞では、相手に対して自分を開くこと、あるいは過去の感情が少しずつ明らかになることが描かれる。だが、その開示は完全ではない。The xxの世界では、すべてを言葉にすることはほとんど不可能である。感情は少しだけ開かれ、また沈黙の中へ戻る。
「Unfold」は、『Coexist』の中でも特に繊細な楽曲である。感情が開く瞬間の脆さを、極端に抑えた音で描いている。The xxの静けさが、ここではほとんど壊れそうな薄さを持つ。
10. Swept Away
「Swept Away」は、タイトル通り、何かにさらわれる、押し流される、感情に飲み込まれるという意味を持つ楽曲である。本作の中では比較的ビートの動きがあり、感情が少し外へ向かう曲である。ただし、その動きは明るい解放というより、制御できない流れに身を任せるような不安を伴っている。
サウンドは、徐々にリズムが前面に出て、アルバム後半に動きを与える。クラブ・ミュージックの影響がここでも感じられるが、やはりThe xxらしく抑制されている。踊れる要素はあるが、熱狂ではなく、静かな酩酊に近い。
歌詞では、相手や感情に飲み込まれる感覚が描かれる。Swept awayという表現には、ロマンティックな意味もある。恋にさらわれることは美しい。しかし、それは自分の意志を失うことでもある。The xxはその両面を静かに示す。
「Swept Away」は、『Coexist』の中で、抑えられていた感情が少しだけ動き出す楽曲である。しかし、その動きも完全な解放にはならない。The xxは最後まで、感情をコントロールしきれない状態を、低い温度で描き続ける。
11. Our Song
ラストを飾る「Our Song」は、アルバムの終曲として非常に静かで、親密な楽曲である。タイトルは「私たちの歌」を意味し、二人の間にだけ存在する記憶、共有された時間、関係の証のようなものを示す。しかし、本作の終わりに置かれるこの言葉は、幸福な記念というより、失われつつある関係への最後の呼びかけのようにも響く。
サウンドは、極めて控えめで、声と音の距離が近い。曲は大きなクライマックスを作らず、静かに終わっていく。The xxはここでも、結論を与えない。終曲でありながら、関係が完全に終わったのか、まだ残っているのかは曖昧である。
歌詞では、「私たち」という言葉が重要になる。『Coexist』は、二人が共存することの難しさを描いたアルバムであり、その最後に「Our Song」が置かれることは象徴的である。二人の歌はまだ存在する。しかし、それは現在の関係を支えるものなのか、過去の記憶として残っているだけなのか、はっきりしない。
「Our Song」は、アルバムを静かな余韻で閉じる。The xxは最後まで、大きな救済や決定的な別れを提示しない。ただ、二人の間にあった音が、遠くでまだ鳴っている。その微かな残響が、本作の終わりにふさわしい。
総評
『Coexist』は、The xxのデビュー作『xx』のミニマルな美学をさらに徹底したアルバムである。前作が新鮮な発明として響いたのに対し、本作はより厳しく、より閉じた作品である。音数は減り、テンポは抑えられ、感情はさらに沈黙へ近づいている。そのため、即効性やわかりやすいフックという点では前作に劣ると感じられる場合もある。しかし、『Coexist』の価値は、その削ぎ落としの徹底にある。
本作の中心にあるのは、共存の困難である。愛し合うことは、一つになることではない。相手と同じ空間にいても、同じ感情を持てるわけではない。近づくほど距離が見え、触れるほど孤独が明らかになる。『Coexist』は、その現実を非常に静かな音楽で描いている。これは恋愛の失敗を歌ったアルバムであると同時に、人間が他者と完全には重なれないことを歌ったアルバムでもある。
RomyとOliverのヴォーカルは、本作でさらに抑制されている。二人は歌い上げず、叫ばず、相手を説得しようともしない。むしろ、すでに言葉が届かないことを知っているように歌う。その声の距離が、本作の悲しみを作っている。二人の声は近い。しかし、近いことと届くことは別である。The xxはその違いを、音楽の中心に置いている。
Jamie xxのプロダクションも非常に重要である。彼はクラブ・ミュージックの要素を持ち込みながら、それを徹底して低温に保つ。ビートは踊るためというより、過去の関係を反芻するために鳴っている。『Coexist』のリズムは、身体を解放するのではなく、内側へ沈める。クラブの快楽が、孤独な部屋の記憶へ変換されている点が、本作の独自性である。
歌詞面では、前作以上に別れや未練の感覚が強い。「Angels」では相手を理想化し、「Chained」では過去に縛られ、「Fiction」では記憶が虚構のようになり、「Sunset」では親しかった相手が他人へ変わっていく。「Our Song」では、二人の共有した歌がまだ残っているが、それが現在を救うのか、過去を思い出させるだけなのかはわからない。全体を通じて、関係は終わりと継続の間に置かれている。
『Coexist』は、The xxのディスコグラフィーの中でも最も禁欲的なアルバムといえる。『I See You』ではより明るい音色やサンプリングが導入され、サウンドは外へ開いていくが、本作は徹底して内側へ沈む。その閉じた性質が、アルバムの評価を分ける要因でもある。しかし、The xxの本質である余白、声の距離、親密さの不可能性を最も厳密に描いた作品として、本作は非常に重要である。
日本のリスナーにとって『Coexist』は、夜に一人で聴く音楽として特に響きやすい作品である。派手な展開や大きなサビを求めるより、音の隙間、声の震え、低音の余韻、沈黙の意味を聴くアルバムである。The xxの『xx』、James Blake、Daughter、London Grammar、FKA twigs、Rhye、Beach House、Cigarettes After Sexなどの静かで親密な音楽に関心があるリスナーには、本作の冷たい美しさは深く届くだろう。
『Coexist』は、愛の後に残る空白のアルバムである。二人は共存しているかもしれない。しかし、完全には重なれない。声は近い。だが、沈黙のほうが大きい。The xxはこの作品で、関係が壊れる音ではなく、壊れた後もまだ同じ空間に残っている微かな残響を描いた。本作は、ミニマル・ポップの極めて繊細な到達点であり、The xxの静かな核心を示す重要作である。
おすすめアルバム
1. The xx – xx
The xxのデビュー作であり、『Coexist』の前提となる作品。よりキャッチーな楽曲が多く、ミニマルなギター、低音、RomyとOliverの掛け合いによる親密な空間が鮮烈に提示されている。The xxの基本美学を知るうえで欠かせない一枚である。
2. The xx – I See You
The xxの3作目であり、『Coexist』の内向性からより開かれたサウンドへ進んだ作品。サンプリングや明るい音色、クラブ・ミュージック的な展開が増え、Jamie xxのソロ活動の成果も反映されている。The xxの変化を理解するうえで重要である。
3. James Blake – Overgrown
ポスト・ダブステップ、R&B、ソウル、電子音楽を融合した2010年代英国音楽の重要作。The xxと同じく、低音、余白、孤独な声を重視しながら、よりソウルフルで内省的な方向へ展開している。『Coexist』の静かな電子的感覚と強く響き合う。
4. Daughter – If You Leave
深いリバーブ、静かなギター、冷たい空間の中で、親密さの失敗や去られることへの不安を描いたインディー・フォーク/ドリーム・ポップ作品。The xxよりもフォーク色が強いが、余白と沈黙によって孤独を表現する点で親和性が高い。
5. London Grammar – If You Wait
広がりのあるギター、深い低音、静謐なヴォーカルを中心にした英国インディー・ポップ作品。The xxのミニマルな空間性を、より壮大でヴォーカル中心の方向へ広げたような魅力がある。冷たい美しさと抑制された感情表現を好むリスナーに適している。

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