アルバムレビュー:Notorious by Duran Duran

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発売日: 1986年11月18日
ジャンル: ファンク・ポップ、ニュー・ウェーブ、ダンスロック


華やかさの裏で生まれ変わる——“3人のDuran Duran”が刻んだファンクへの転身

1986年にリリースされたDuran Duranの4作目Notoriousは、バンドにとって大きな転機となった作品である。
それまでの代表曲「Hungry Like the Wolf」や「The Reflex」に象徴される、煌びやかでシンセティックなニュー・ウェーブ路線から一歩踏み出し、よりファンク色を強めたグルーヴ志向の音楽性へと舵を切った。

背景には、アンディ・テイラー(G)とロジャー・テイラー(Dr)が脱退し、サイモン・ル・ボン、ジョン・テイラー、ニック・ローズの3人体制となった事情がある。
プロデュースには、シックの中心人物であるナイル・ロジャースを迎え、より洗練されたリズムアプローチが導入されたことで、ダンサブルでアーバンなサウンドが全面に押し出されている。

この変化は、当時のファンを驚かせたかもしれない。
だがそれは、Duran Duranが“80年代的ポップスター”にとどまることを拒み、アーティストとしての再定義に踏み出した瞬間でもあった。


全曲レビュー

1. Notorious

アルバムの顔ともいえる、ファンク・ポップの決定打。
「ノー・ノー、ノトリアス!」というキャッチーなコーラスと、ナイル・ロジャースのチョッパーギターが極上のグルーヴを生み出す。

2. American Science

ニック・ローズのシンセとジョン・テイラーのベースが複雑に絡み合うミッドテンポのファンクトラック。
アメリカ文化に対する皮肉をにじませたリリックも印象的。

3. Skin Trade

サイモンのファルセットとホーンセクションが織りなす、プリンスやスティービー・ワンダーを思わせる洗練された一曲。
歌詞では、セレブリティと消費社会の関係を冷ややかに見つめている。

4. A Matter of Feeling

バラード調のスロー・ナンバー。
官能的でメランコリックな空気が漂い、アルバム全体に抑揚を与える。

5. Hold Me

ロック色をやや強めたナンバー。
ギターとベースの掛け合いがダイナミックで、かつ都会的なムードを保っている。

6. Vertigo (Do the Demolition)

不穏でミニマルなイントロから徐々に展開する、実験色の濃い楽曲。
破壊衝動と誘惑の狭間を描くようなサウンド構築がユニーク。

7. So Misled

ベースとホーンが支配する、グルーヴィーなファンク・ロック。
裏切りや嫉妬をテーマにした、軽快さと毒気を併せ持つ一曲。

8. “Meet El Presidente”

ポリティカルなイメージを帯びたアップビート・ナンバー。
ダンスフロアに映える反復的な構造が、Duran Duran流の“政治のポップ化”を体現。

9. Winter Marches On

ダークでシンフォニックなアレンジが施された実験的楽曲。
寒々としたサウンドに、どこか欧州的な空気と孤独が漂う。

10. Proposition

スウィングするリズムと粘り気のあるベースラインが主役。
セクシャルで曖昧な詞世界が、アルバムの締めくくりとして意味深な余韻を残す。


総評

Notoriousは、Duran Duranがメンバーの変動と世代の変化を受け入れながら、“成熟”と“変身”を試みた重要な一作である。
それは80年代中盤というポップカルチャーの転換点にあって、彼らがアイドル的人気から脱却しようとする姿勢の表れでもあった。

ニュー・ウェーブ的なエッジは後退したかもしれない。
だが代わりに得たのは、リズム、グルーヴ、構築美という音楽の本質に向き合う姿勢である。
ナイル・ロジャースのプロダクションとメンバーの新たなバランスが生んだこのアルバムは、Duran Duranにとっての“セカンド・フェーズ”の始まりを告げる記録なのだ。


おすすめアルバム

  • Let’s Dance by David Bowie
     ——ナイル・ロジャースが手がけたもう一つのファンク志向ポップ名盤。
  • Parade by Prince & The Revolution
     ——スウィートでアバンギャルドなファンクポップ。Notoriousと精神的に近い。
  • Cupid & Psyche 85 by Scritti Politti
     ——洗練されたプロダクションと知的ファンクの融合。Duran Duran的美学と共鳴する。
  • So Red the Rose by Arcadia
     ——Duran Duranメンバーによる別プロジェクト。Notoriousと地続きの感触を持つ。
  • Brotherhood by New Order
     ——80年代半ばにおけるロックとダンスの融合点を提示した一作。

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