発売日: 2010年3月30日
ジャンル: ネオソウル、R&B、ジャズ、ファンク
エリカ・バドゥの5枚目のスタジオアルバムNew Amerykah Part Two (Return of the Ankh)は、前作New Amerykah Part One (4th World War)の政治的・社会的なトーンとは対照的に、個人的で感情的なテーマを探求した作品である。「Ankh(アンク)」というタイトルは、生命とスピリチュアリティを象徴する古代エジプトのシンボルであり、本作はエリカの内面的な世界と自己愛、そして愛そのものに焦点を当てたアルバムだ。
音楽的には、サンプリングを多用した前作から一転し、暖かみのある生楽器を多く取り入れたオーガニックなサウンドが特徴。The Rootsのクエストラブ、ジェームス・ポイザー、J・ディラなどの才能豊かなプロデューサー陣が参加し、ファンク、ジャズ、R&Bの豊かな音楽性が随所に感じられる。エリカ特有の詩的で挑発的な歌詞が織り込まれ、リスナーを彼女の感情的な旅へと誘う。
トラックごとの解説
1. 20 Feet Tall
アルバムの幕開けを飾る静かで優美なトラック。自己価値を見出す過程を描いた歌詞が印象的で、リズムのミニマリズムと生楽器の暖かさがエリカの柔らかいボーカルを引き立てている。
2. Window Seat
リードシングルとして注目された楽曲で、孤独と自己再発見をテーマにしたミッドテンポのR&Bトラック。「逃避したい」という感情を表現しつつ、エリカのソウルフルなボーカルが響く。公開時に話題となったミュージックビデオも楽曲のテーマを強調している。
3. Agitation
ジャジーでアブストラクトな短いインタールード的トラック。変化するリズムとビートが、緊張感と即興性を生み出している。
4. Get Money
「The Notorious B.I.G.」の「Get Money」のサンプリングが使われたトラックで、物質主義と人間関係の皮肉な側面をテーマにしている。ファンクとヒップホップの融合が新鮮。
5. Don’t Be Long
ドラマチックなメロディラインと繊細なアレンジが特徴的な楽曲。離れている愛する人との再会を待つ感情が歌われている。
6. Love
シンプルなアコースティックギターの伴奏に乗せて、愛の本質について歌う。エリカの抑制されたボーカルが、楽曲に親密な雰囲気を与えている。
7. Umm Hmm
ファンクの影響を感じる軽快なビートと、楽観的なメッセージが印象的なトラック。エリカ特有のウィットが歌詞に散りばめられている。
8. Fall in Love (Your Funeral)
恋に落ちるリスクを警告するユニークな楽曲。「恋に落ちるのは楽しいけど、覚悟してね」と歌うエリカの遊び心が光る。
9. Incense
インストゥルメンタルで構成されたドリーミーなトラック。アルバムの流れに空間的な余裕を持たせる役割を果たしている。
10. Out My Mind, Just in Time
アルバムの最後を飾る大作。3部構成からなるこの曲は、愛の苦しみから解放される過程を描いており、エリカの感情的なクライマックスが感じられる。シンプルなピアノから始まり、後半にはゴスペル的な壮大さへと展開する。
アルバム総評
New Amerykah Part Two (Return of the Ankh)は、エリカ・バドゥが愛と感情にフォーカスしたパーソナルな作品であり、生楽器を多用した豊かなサウンドがアルバム全体を包み込む。前作の社会的なメッセージ性と比べてより感情的で親密な内容だが、その分エリカの人間的な一面が強く感じられる。
特に「Window Seat」や「Out My Mind, Just in Time」のような楽曲では、彼女のソウルフルなボーカルと感情表現の深さが際立っており、聴き手を引き込む力がある。本作は、彼女が単なるネオソウルのアイコンであるだけでなく、音楽的、詩的な探求を続けるアーティストであることを証明している。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
“Voodoo” by D’Angelo
暖かみのある生楽器のサウンドと内省的なテーマが共通するネオソウルの傑作。
“Blonde” by Frank Ocean
感情の深みと実験的なアプローチが『Return of the Ankh』と共鳴する。
“Black Messiah” by D’Angelo and The Vanguard
社会的メッセージと個人的テーマを融合した作品で、エリカの音楽的アプローチと似ている。
“The ArchAndroid” by Janelle Monáe
ジャンルを超えたサウンドと哲学的なテーマが、エリカの作品に共感を覚えるリスナーにぴったり。
“Like Water for Chocolate” by Common
The Soulquariansがプロデュースしたアルバムで、ジャズやファンクの要素が豊富。エリカの世界観に通じる音楽性を持つ。
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