発売日: 2020年2月7日
ジャンル: インディー・ロック、オルタナティヴ・ロック、パワー・ポップ
概要
『Never Not Together』は、Nada Surfが2020年にリリースした通算9作目のスタジオ・アルバムであり、バンド結成から30年近くを経てもなお、彼らが“繋がり”と“共感”を音楽の中心に据え続けていることを高らかに宣言した作品である。
タイトル「Never Not Together（ずっと一緒）」は、一見すると甘いロマンチックな響きを持つが、実際には“物理的な距離や意見の相違があっても、人は本質的に繋がっている”という、哲学的かつ社会的なメッセージが込められている。
SNSや分断が加速する時代にあって、“人と人の関係性”をポジティブに捉え直すこのアルバムは、バンドの音楽的成熟と人間的誠実さの結晶である。
音楽的には、往年のギターポップ・スタイルを継承しつつも、シンセや多層的なハーモニーを織り交ぜた豊かなサウンドスケープを展開。
プロデュースは前作同様Chris Shawが担当し、録音は主にウェールズのロックフィールド・スタジオで行われた。
全曲レビュー
1. So Much Love
アルバム冒頭を飾る軽快で心温まるポップナンバー。
「世界にはまだたくさんの愛がある」というメッセージが、現実逃避ではなく、希望として響く。
2. Come Get Me
ミッドテンポで少し陰のあるナンバー。
“誰かに助けを求める”ことの勇気と脆さを、静かに肯定する。
3. Live Learn & Forget
このアルバムでもっとも哲学的なリリックを持つ一曲。
“生きて、学んで、そして忘れる”という人生のサイクルが、穏やかに反復される。
4. Just Wait
優しく語りかけるようなメロディ。
「待つこと」をテーマに、急がず、焦らず、というメッセージが沁みるバラード。
5. Something I Should Do
スポークン・ワード的なヴァースとコーラスの対比がユニークな楽曲。
“善意と無関心のはざまで生きる現代人”への問いかけが込められている。
6. Looking for You
感傷的なメロディに乗せて、誰かを探し続ける心情を描く。
シンプルながら普遍的なラブソング。
7. Crowded Star
空間的なギターとシンセが美しい浮遊感を演出。
“混み合った星”という表現が、孤独と賑やかさの両方を感じさせる。
8. Mathilda
女性の名前を冠したストーリーテリング的なナンバー。
過去の記憶と希望が交錯する、穏やかでリリカルな佳曲。
9. Ride in the Unknown
アルバムのラストを飾るスロウな楽曲。
“未知の旅”というテーマが、終わりではなく始まりを告げている。
総評
『Never Not Together』は、Nada Surfがキャリアの晩年に差し掛かってなお、音楽に対する真摯な姿勢と、人間関係に対する温かいまなざしを失っていないことを示す、実に誠実なアルバムである。
彼らの音楽には、派手な革新性や流行の波に乗るようなアプローチはない。
だが、だからこそ生まれる“時間に耐える音楽”の強度が、ここにはある。
Matthew Cawsの歌声は、若いころと比べて少し柔らかくなったが、逆にそれが言葉の説得力を増している。
このアルバムでは、愛、共感、寛容、そして“言葉にしない関係性”がテーマとして繰り返し現れ、そのすべてがリスナーの胸に静かに届く。
『Never Not Together』は、これまでのNada Surfの集大成であると同時に、“今の彼らだからこそ歌える音楽”の極地でもある。
それは、喪失や孤独を経験してきた者が、なお他者に手を差し伸べる、その尊い感情の記録なのだ。
おすすめアルバム（5枚）
- The National / Sleep Well Beast
成熟したロックサウンドと、内省的な歌詞世界が共通する。 - Death Cab for Cutie / Thank You for Today
感情の揺れと時代感覚を取り入れた優しいインディー・ロック。 - Real Estate / The Main Thing
繊細なギターと穏やかな空気感が、Nada Surfと同じ地平にある。 - Wilco / Ode to Joy
静けさと政治性が共存する、誠実な表現の到達点。 - Guster / Look Alive
ポップで親しみやすいが、内包するテーマは深い。感情の複雑さが共鳴する。
制作の裏側（Behind the Scenes）
『Never Not Together』は、主にウェールズの名門ロックフィールド・スタジオでレコーディングされ、Chris Shawがプロデュースを務めた。
ロックフィールドはQueenやOasisなど多くの名盤を生んだスタジオであり、その“ライブ感を重視した空間”が本作にも生きている。
また、制作中にはメンバー全員が“普段より深くリリックについて議論した”と語っており、その結果として言葉の選び方や声のトーンに、より一層の説得力が加わった。
『Never Not Together』は、すべての孤独に向けて放たれる“共感の祈り”であると同時に、音楽というかたちで贈られる“さりげない救済”でもある。
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