
発売日:2007年3月5日
ジャンル:ダンス・パンク、ディスコ・パンク、インディー・ダンス、ファンク・ロック、ポスト・パンク・リヴァイヴァル、エレクトロ・ロック
概要
!!!(Chk Chk Chk)の3作目にあたる『Myth Takes』は、2000年代ダンス・パンクの熱気を象徴する作品であり、バンドが初期の荒々しいグルーヴをより複雑で緻密なロック・アルバムへ発展させた重要作である。前作『Louden Up Now』では、ポスト・パンク、ディスコ、ファンク、クラブ・ミュージック、政治的な言葉が激しく混ざり合い、!!!はLCD SoundsystemやThe Raptureと並んで、ロック・バンドがダンス・フロアへ向かう2000年代初頭の潮流を代表する存在となった。『Myth Takes』は、その勢いを受け継ぎながら、より鋭く、より構成的で、よりバンド・アンサンブルの強度を前面に出した作品である。
タイトルの『Myth Takes』は、「my mistakes」と発音が近く、「神話が取るもの」「誤解」「自分の過ち」といった複数の意味を含ませた言葉遊びとして機能している。!!!らしいユーモアと皮肉が込められたタイトルだが、アルバムの内容もまた、快楽と誤解、身体と理性、神話化されたロックとクラブの現実感の間で揺れている。ダンス・ミュージックはしばしば一時的な解放や快楽の場として語られるが、!!!はその中に、都市的な疲労、人間関係の摩擦、政治的な違和感、ロック・バンドとしての自意識を持ち込んでいる。
音楽的には、本作は『Louden Up Now』よりもタイトで、同時に複雑である。初期のジャム的な長尺グルーヴや生々しい勢いは保たれているが、曲ごとの構成はよりはっきりしており、ギター、ベース、ドラム、パーカッション、シンセサイザー、ヴォーカルが細かく組み合わされている。ファンク的なベースライン、硬いドラム、鋭く刻まれるギター、電子音の処理、反復されるフレーズが、楽曲全体を強い推進力で動かす。!!!にとって、楽器は個別の主役というより、グルーヴを作るためのパーツである。本作ではそのパーツの組み合わせが非常に精密になっている。
Nic Offerのヴォーカルも、本作の大きな特徴である。彼の声は、伝統的なロック・シンガーのように歌い上げるものではない。話す、叫ぶ、煽る、皮肉る、リズムに言葉を乗せる、といった役割を担う。彼のヴォーカルはメロディの中心であると同時に、パーカッションのようにも機能する。言葉の意味以上に、発音、間合い、反復、身体的な勢いが重要になる。この声があることで、!!!の音楽は単なるクラブ・トラックではなく、バンドとしての生々しい人格を持つ。
『Myth Takes』は、2007年という時代の中でも興味深い位置にある。2000年代前半に盛り上がったポスト・パンク・リヴァイヴァルやダンス・パンクの波は、この頃には一つのスタイルとして定着しつつあった。多くのバンドがギター・ロックとダンス・ビートの融合を試みたが、!!!はその中でも特にリズムへの執着が強く、ロックの形式をクラブ・ミュージックの持続性へ近づけようとしていた。『Myth Takes』は、単に踊れるロックではなく、バンド演奏そのものをダンス・ミュージック化する試みとして聴くことができる。
歌詞面では、個人の欲望、関係性の違和感、身体的な快楽、社会的な不満、ロック・バンドとしての自意識が、断片的かつ皮肉な言葉で表現される。!!!の歌詞は、直線的なメッセージよりも、フレーズの勢いと含みを重視する。深刻なテーマを扱っていても、音楽は説教的にならず、常に踊れる状態を保つ。この軽さと批評性の両立が、彼らの大きな魅力である。
本作は、後の『Thr!!!er』や『Wallop』のような洗練されたインディー・ダンス/クラブ・ポップ路線と比べると、より荒々しく、筋肉質で、ロック・バンドとしての圧力が強い。だが、単なる初期衝動ではなく、リズム構築や音の抜き差しには明確な知性がある。『Myth Takes』は、!!!がダンス・パンクの勢いを、より複雑なアルバム表現へ変換した作品であり、バンドのキャリアにおける重要な到達点である。
全曲レビュー
1. Myth Takes
表題曲「Myth Takes」は、アルバムの幕開けにふさわしい鋭い楽曲である。曲は勢いよく始まり、硬いドラム、うねるベース、切り込むギター、Nic Offerの煽るようなヴォーカルが一体となって、すぐに聴き手をグルーヴの中へ引き込む。タイトルそのものがアルバム全体の言葉遊びを示しており、神話、誤解、失敗、自己認識が重なる。
音楽的には、ポスト・パンク的な鋭さとファンク的な身体性が強く結びついている。ギターはコードを厚く鳴らすというより、リズムの刃として機能する。ベースは曲を支えるだけではなく、身体を動かす主導的な役割を担う。ドラムはタイトで、曲全体に直線的な推進力を与える。!!!の音楽において重要なのは、各楽器が個別に目立つことよりも、全体として一つのリズム機械のように動くことである。この曲はその特徴を端的に示している。
歌詞では、神話や誤解をめぐる感覚が浮かび上がる。ロック・バンドはしばしば神話化され、ダンス・フロアもまた一時的な楽園のように語られる。しかし、!!!はそのような神話に対して、どこか冷めた目線を持っている。快楽を否定するのではなく、快楽がどのように誤解や過剰な期待を生むのかも見ている。
「Myth Takes」は、アルバム全体の出発点として非常に効果的である。勢いがあり、踊れるが、同時にタイトルには皮肉がある。!!!が単なるパーティー・バンドではなく、ロックとダンスの神話を自分たちなりに解体しながら再構築するバンドであることを示す一曲である。
2. All My Heroes Are Weirdos
「All My Heroes Are Weirdos」は、タイトルからして!!!らしいユーモアと自己認識が表れた楽曲である。「自分のヒーローはみんな変人だ」という言葉は、ロックやパンク、アート、クラブ・カルチャーにおける反主流的な価値観を端的に示している。ここでのヒーローは、整った成功者ではなく、奇妙で、はみ出していて、普通の基準では評価されにくい存在である。
音楽的には、跳ねるようなリズムとファンク的なベースが中心となる。曲は軽快で、どこかコミカルな勢いもある。ギターやシンセサイザーは細かく差し込まれ、ヴォーカルのフレーズと絡みながら、曲に雑多で楽しい雰囲気を与える。だが、その軽さの中には、バンド自身の文化的な立ち位置が示されている。
歌詞のテーマは、普通であることへの拒否である。!!!はダンス・ミュージックの快楽を重視する一方で、メインストリームの滑らかなポップとは異なる、少し歪んだ身体性と皮肉を持っている。この曲における「weirdos」は、単なる変人ではなく、既存の価値観に収まらない創造性の象徴である。
この曲は、!!!が持つパンク的な精神を明るく表現している。怒りや攻撃性ではなく、奇妙さを肯定する形で反抗が示される。ヒーローが変人であるなら、自分たちもまた変であってよい。その開放感が、曲の軽快なグルーヴとよく合っている。
3. Must Be the Moon
「Must Be the Moon」は、『Myth Takes』の中でも特に印象的なダンス・トラックであり、!!!の代表曲のひとつとしても位置づけられる。タイトルは「きっと月のせいだ」という意味を持ち、夜、欲望、気分の変化、理性では説明できない行動を連想させる。ダンス・ミュージックにおいて夜と月は重要な象徴であり、この曲でもその力が強く働いている。
音楽的には、ベースラインが非常に重要である。しなやかで太い低音が曲全体を牽引し、ドラムとパーカッションがその上で複雑なリズムを作る。ギターは細かく刻まれ、シンセサイザーやエフェクトが夜のクラブ的な空間を作る。曲は反復を基盤にしながら、少しずつ熱を上げていく。これは!!!が得意とする、バンド演奏によるクラブ・トラック的な展開である。
歌詞では、月のせいにしてしまいたくなるような衝動が描かれる。人は夜になると、昼間とは違う行動を取ることがある。恋愛、欲望、酔い、踊り、過剰な自信、あるいは後悔。そうしたものを自分の責任ではなく、「月のせい」として処理する感覚が、この曲にはある。
Nic Offerのヴォーカルは、ここで特に効果的である。彼は物語を語るというより、夜の場面を煽り、身体を動かすための言葉を投げる。歌詞の意味とリズムの快楽が一体化しており、聴き手は考える前に曲へ引き込まれる。
「Must Be the Moon」は、!!!のダンス・パンクとしての強みが非常によく表れた曲である。ファンク、ディスコ、ポスト・パンク、クラブ・ミュージックが自然に結びつき、夜の衝動が音楽として具体化されている。
4. A New Name
「A New Name」は、タイトル通り「新しい名前」をテーマにした楽曲である。名前はアイデンティティを示すものであり、新しい名前を持つことは、自分を変えること、過去から離れること、別の役割を演じることを意味する。!!!の音楽において、自己の変化や仮面性は重要なテーマであり、この曲もその流れにある。
音楽的には、比較的抑制されたグルーヴで始まり、徐々に音が積み重なっていく。ギター、ベース、ドラムは一体となって、淡々としながらも緊張感のあるリズムを作る。曲は爆発的なサビに頼るのではなく、反復と微細な変化で進む。この構成は、クラブ・ミュージック的であると同時に、ポスト・パンクのミニマルな美学にも通じる。
歌詞では、名前を変えることによって何が変わるのかが問われる。新しい名前を得ても、身体や記憶や過去が完全に消えるわけではない。人は別の自分になろうとしても、どこかで以前の自分を引きずる。この曲には、その変化への欲望と不可能性が含まれている。
「A New Name」は、アルバムの中でやや内省的な位置を占める曲である。踊れるリズムを持ちながらも、テーマは自己変容とアイデンティティに関わっている。!!!の音楽が、単なる身体的快楽だけでなく、都市生活における自己演出の問題も扱っていることを示している。
5. Heart of Hearts
「Heart of Hearts」は、本作の中でも特にドラマティックで、感情的な広がりを持つ楽曲である。タイトルは「心の奥底」という意味を持ち、外側に見せる態度とは別に、自分の最も深い場所で何を感じているのかを問う言葉である。!!!の音楽はしばしば軽快で皮肉っぽいが、この曲ではその奥にある感情の核が浮かび上がる。
音楽的には、反復されるギターとリズムが緊張を作り、そこにヴォーカルが切実さを加える。曲はダンス・トラックとしての機能を保ちながら、感情の高まりも強く持っている。特にリズムとメロディの関係が巧みで、身体を動かすグルーヴと内面の揺れが同時に表現されている。
歌詞では、自分の本心を知っているかどうか、あるいは本心を隠しているかどうかがテーマになる。人は表向きには軽く振る舞い、冗談を言い、踊り続けることができる。しかし心の奥底では、別の感情が残っている。「heart of hearts」という表現は、その隠れた真実を指している。
この曲は、!!!が単なるクールなダンス・バンドではないことを示す。彼らの音楽には、快楽と同時に不安や切実さがある。踊ることは感情を忘れるためだけではなく、むしろ隠れていた感情を浮かび上がらせることもある。「Heart of Hearts」は、その二重性をよく表した楽曲である。
6. Sweet Life
「Sweet Life」は、タイトルが示す通り「甘い生活」をテーマにした楽曲である。甘い生活という言葉には、快楽、余裕、贅沢、恋愛、楽しい夜のイメージがある。しかし、!!!の文脈では、その甘さは必ずしも無条件に肯定されない。甘さの背後には、消費、退屈、空虚さも潜んでいる。
音楽的には、曲は軽やかで、ファンクやディスコの感覚が強い。リズムは踊りやすく、ベースはしなやかに動く。ギターとシンセサイザーは曲に明るい色彩を加え、全体として非常に楽しげな雰囲気を持つ。だが、その楽しさは少し表面的でもある。まさに「甘い生活」の光沢を音にしたような曲である。
歌詞では、快適で楽しいはずの生活が、どこか空虚に感じられる感覚がある。甘いものは魅力的だが、食べ続けると飽きる。快楽もまた、過剰になると何も満たさなくなる。「Sweet Life」は、その甘さの中にある薄い疲労を軽快なグルーヴで包んでいる。
この曲は、アルバム全体の中で重要なバランスを担う。『Myth Takes』は鋭く攻撃的な曲も多いが、「Sweet Life」はより滑らかで、ポップな快楽を前面に出す。しかしその快楽は、単純な幸福ではなく、皮肉を含んだ甘さである。
7. Yadnus
「Yadnus」は、タイトル自体が謎めいている。逆から読むと「sunday」となり、日曜日を裏返した言葉として解釈できる。日曜日は休息の日であり、週末の終わりであり、楽しい夜の後に訪れる現実への戻りでもある。タイトルを反転させることで、!!!は時間感覚や日常のリズムを歪ませている。
音楽的には、非常に強いグルーヴを持つ楽曲である。ベースラインは太く、ドラムはタイトで、ギターはリズムの中で鋭く刻まれる。曲は前へ進む力を持ちながら、どこか反転したような奇妙な感覚もある。これはタイトルの言葉遊びとよく対応している。
歌詞では、週末、夜、疲労、日常への回帰が暗示される。土曜の夜の快楽が終わると、日曜日が来る。だが、その日曜日は単なる休息ではなく、現実が戻ってくる時間でもある。「Yadnus」という反転された言葉は、その現実を少しずらして見せる。
この曲は、!!!の中でも特にバンドの演奏力が活きた楽曲である。反復するリズムの中で、各楽器が細かく変化し、曲に持続的な緊張を与える。ダンス・フロア的な機能性と、言葉遊びによる知的な軽さがうまく結びついている。
8. Bend Over Beethoven
「Bend Over Beethoven」は、タイトルからして挑発的で、ロック史への皮肉が込められた楽曲である。Chuck Berryの「Roll Over Beethoven」を連想させるが、「Roll Over」ではなく「Bend Over」とすることで、より下品で身体的なニュアンスが加わっている。クラシック音楽やロックの伝統への敬意と茶化しが同時に存在するタイトルである。
音楽的には、攻撃的でファンク色の強いグルーヴが中心となる。曲はロック的なエネルギーを持ちながらも、構造はダンス・ミュージック的で、反復とリズムの強さが前面に出る。ギターは鋭く、ドラムは硬く、ヴォーカルは挑発的に響く。
タイトルが示す通り、この曲には音楽史の権威への冗談めいた攻撃がある。Beethovenは西洋音楽における偉大な象徴であり、Chuck Berryの「Roll Over Beethoven」はロックンロールがクラシックの権威を押しのける宣言でもあった。!!!はその系譜をさらに下品でダンス・フロア的な方向へずらす。ここでは高尚さよりも身体性が勝つ。
「Bend Over Beethoven」は、!!!のパンク的ユーモアがよく表れた曲である。音楽の伝統を知りながら、それを崇拝するのではなく、踊れるリズムの中でからかう。この態度こそ、ダンス・パンクの重要な精神である。
9. Break in Case of Anything
「Break in Case of Anything」は、非常時にガラスを割るための表示「break in case of emergency」を思わせるタイトルである。ただしここでは「emergency」ではなく「anything」とされており、何が起きても割れ、壊せ、というような過剰でユーモラスな感覚がある。危機だけでなく、あらゆる状況に対して破壊が選択肢として提示される。
音楽的には、やや不穏で緊張感のあるグルーヴを持つ。曲は踊れるが、明るいパーティー感覚だけではなく、何かが壊れそうな空気もある。ギターや電子音の処理が鋭く、リズムは硬い。アルバム終盤に向けて、曲には少し混乱したエネルギーが加わる。
歌詞では、非常時、反応、破壊、逃避の感覚が浮かび上がる。現代生活では、何が危機で何が日常なのかが曖昧になることがある。常に何かが起こり、常に反応を求められる。その中で、何に対しても壊す準備をしているような感覚が生まれる。
「Break in Case of Anything」は、!!!の持つ混沌と皮肉をよく示す楽曲である。踊れる音楽でありながら、そこには緊急事態のような不安がある。快楽と危機感が同じリズムの中に置かれている。
10. Infinifold
アルバムを締めくくる「Infinifold」は、本作の中でも最も広がりを感じさせる終曲である。タイトルは「infinite」と「fold」を組み合わせたように見え、無限に折り畳まれるもの、終わりなく展開する構造を連想させる。!!!の音楽における反復と展開の美学を、抽象的な言葉で示しているようなタイトルである。
音楽的には、終曲らしく比較的長い時間感覚を持ち、グルーヴが持続しながら変化していく。曲は明確なクライマックスで終わるというより、音の層が折り重なり、少しずつ別の形へ変化していく。これはタイトルの「fold」という感覚とよく合っている。
歌詞やヴォーカルは、曲全体の流れの中で一つの要素として機能する。ここでは、言葉の意味以上に、音の反復と展開が重要である。!!!の音楽の本質は、ひとつのリズムがどれだけ長く身体を動かし続けられるか、そしてその反復の中でどれだけ変化を生めるかにある。「Infinifold」は、その問いを終曲として提示している。
アルバムの最後にこの曲が置かれることで、『Myth Takes』は単なる曲の集合ではなく、グルーヴの迷宮として閉じられる。始まりと終わりが明確に切断されるのではなく、反復が無限に折り畳まれていくような余韻が残る。!!!らしい終わり方である。
総評
『Myth Takes』は、!!!のキャリアにおいて非常に重要なアルバムである。前作『Louden Up Now』で確立されたダンス・パンクの衝動を受け継ぎながら、本作ではよりタイトで複雑なアンサンブル、より鋭いリズム構築、より明確な曲ごとの個性が獲得されている。初期の荒々しさを失わずに、バンドとしての精度を高めた作品といえる。
本作の最大の魅力は、ロック・バンドの演奏をクラブ・ミュージック的な持続へ変換している点にある。!!!は、ギター・ソロやヴォーカルのメロディを中心に曲を作るバンドではない。むしろ、ベース、ドラム、ギター、パーカッション、電子音、声がすべてリズムのパーツとなり、曲全体を動かす。これはTalking Heads、ESG、Liquid Liquid、Gang of Four、A Certain Ratioなどのポスト・パンク/ファンク的な系譜を、2000年代のインディー・ダンスへ更新したものといえる。
『Myth Takes』は、ダンス・パンクの中でも比較的ロック的な圧力が強い作品である。後の『Thr!!!er』や『Wallop』では、よりポップでクラブ・ミュージック寄りの整理が進むが、本作ではギターやドラムの硬さ、バンド演奏の生々しさが強く残っている。そのため、アルバム全体に身体的な熱とざらつきがある。これは、!!!がスタジオで整えられたダンス・ポップへ向かう前の、非常に力強い段階を記録している。
歌詞面では、明確な物語や直接的なメッセージよりも、言葉遊び、皮肉、身体感覚、都市的な断片が重視される。「All My Heroes Are Weirdos」では、はみ出し者を肯定するパンク的な価値観が示される。「Must Be the Moon」では、夜と衝動の関係が描かれる。「A New Name」では、自己変容への欲望が扱われる。「Heart of Hearts」では、軽さの奥にある本心が問われる。「Bend Over Beethoven」では、音楽史の権威が下品なユーモアによってからかわれる。これらの曲は、踊れると同時に、言葉の裏に多くの含みを持っている。
本作のタイトル『Myth Takes』も重要である。神話と誤解、過ちと演出。ロック・バンドは神話を作り、クラブ・カルチャーもまた夜の神話を作る。!!!はその神話に参加しながら、同時にそれを茶化し、壊し、別の形で踊り直す。この距離感が、彼らを単なる享楽的なバンドではなく、知的で皮肉なダンス・パンク・バンドにしている。
音楽史的には、『Myth Takes』は2000年代中盤のダンス・パンクが成熟しつつあった時期の重要作である。The Raptureの『Echoes』やLCD Soundsystemの『Sound of Silver』と同じ文脈にありながら、!!!はよりバンド演奏のファンクネスと混沌を重視している。LCD Soundsystemがクラブ・ミュージックとロックの自意識を洗練された形で統合したのに対し、!!!はより肉体的で、雑多で、汗の匂いがする方向へ進んだ。その違いが、本作の個性を形作っている。
日本のリスナーにとって『Myth Takes』は、ロックとダンス・ミュージックの接点を理解するうえで非常に刺激的なアルバムである。ギター・ロックの鋭さがありながら、曲の中心はあくまでグルーヴにある。クラブ・ミュージックに馴染みのあるリスナーにはバンド演奏の生々しさが魅力となり、ロックを好むリスナーにはリズムの反復と身体性が新鮮に響くだろう。
『Myth Takes』は、!!!がダンス・パンクを単なる流行のスタイルではなく、バンドとして深く掘り下げられる音楽言語として扱ったアルバムである。鋭く、うねり、皮肉っぽく、汗をかき、踊りながら考える。2000年代インディー・ダンスの重要作であり、!!!の荒々しさと構築力が最も高いテンションで結びついた作品である。
おすすめアルバム
1.!!! — Louden Up Now(2004年)
『Myth Takes』の前作であり、!!!の代表作のひとつ。より荒々しく、政治的で、長尺のグルーヴが強い作品である。「Me and Giuliani Down by the School Yard」など、ダンス・パンクの爆発力を象徴する楽曲を含む。『Myth Takes』の前提となる初期の熱量を知るうえで欠かせない。
2.!!! — Thr!!!er(2013年)
『Myth Takes』以降の!!!が、よりコンパクトでポップなダンス・アルバムへ向かった作品。ファンク、ディスコ、ハウスの要素が整理され、曲ごとの輪郭も明確になっている。『Myth Takes』の荒々しい構築性と比較すると、バンドの成熟と洗練がよく分かる。
3. LCD Soundsystem — Sound of Silver(2007年)
『Myth Takes』と同じ2007年に発表された、インディー・ダンスの歴史的名盤。ポスト・パンク、ディスコ、ハウス、シンセポップを統合し、ダンス・ミュージックとロックの自意識を非常に高い完成度で表現している。同時代の文脈を理解するうえで必聴の作品である。
4. The Rapture — Echoes(2003年)
ダンス・パンク・リヴァイヴァルを象徴する重要作。鋭いギター、ファンク的なベース、クラブ・ミュージックの反復性が結びつき、2000年代初頭のインディー・ロックがダンス・フロアへ向かった流れを示している。!!!の音楽的背景を理解するうえで関連性が高い。
5. Talking Heads — Remain in Light(1980年)
ファンク、アフロビート、ポスト・パンク、ミニマルな反復をロック・バンドの形式へ取り込んだ歴史的作品。!!!のようなバンドにとって、リズムと知性、身体性と実験性を結びつける重要な先行例である。『Myth Takes』の反復的なグルーヴやバンド全体でリズムを構築する姿勢を理解するうえで欠かせない。



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