1. 歌詞の概要
INXSの「Mystify」は、1987年にリリースされたアルバム『Kick』に収録されている楽曲で、同アルバムを象徴するナンバーのひとつである。歌詞はタイトルが示す通り「謎めいた魅力」「説明できない引力」をテーマとしており、愛する相手の存在を「神秘的なもの」として描いている。単なる恋愛感情に留まらず、言葉にできない美しさや強烈な引力に心を奪われる瞬間を、シンプルな表現で伝えているのが特徴である。
繰り返し歌われる「Mystify」という言葉は、まるで魔法の呪文のように響き、恋愛の高揚感と不可解さを同時に表現している。歌詞は抽象的でありながら、誰もが体験する「言葉では言い尽くせない魅力に引き寄せられる感覚」を鮮やかに喚起する。
2. 歌詞のバックグラウンド
『Kick』はINXSにとって最大の成功作であり、アメリカやヨーロッパを中心に世界的な人気を決定づけたアルバムである。「Mystify」はシングルカットされた他の大ヒット曲（「Need You Tonight」「Devil Inside」「New Sensation」「Never Tear Us Apart」）と並び、バンドの多面的な魅力を示す存在となった。
制作においては、マイケル・ハッチェンスとアンドリュー・ファリスを中心とするバンドのソングライティングチームが関わり、都会的な洗練とセクシュアルな雰囲気を前面に押し出している。『Kick』が持つ多彩なサウンドの中で、「Mystify」は比較的メロディアスでロマンティックな性格を担い、アルバム全体のバランスを取る役割を果たしている。
また、ミュージックビデオでは白黒映像が用いられ、バンドの演奏と都市的なイメージが組み合わされている。これは1980年代後半のINXSのイメージを象徴する映像美であり、ハッチェンスのカリスマ性を際立たせる演出がなされていた。
3. 歌詞の抜粋と和訳
（歌詞引用元：INXS – Mystify Lyrics | Genius）
Mystify, mystify me
僕を魅了し、僕を惑わせる
Mystify, mystify me
君は僕を魅了し、惑わせる存在
Eternally wild with the power
永遠に荒々しく、力強さに満ちて
To make every moment come alive
その力で、すべての瞬間を輝かせる
All the stars shining upon you
君の上には星が輝き
‘Cause they know that your beauty will never fade
君の美しさが決して色褪せないことを知っているから
シンプルな言葉の繰り返しながらも、愛する人の存在を自然の力や宇宙の象徴に重ね合わせることで、神秘的で壮大な雰囲気を生み出している。
4. 歌詞の考察
「Mystify」の歌詞は、そのシンプルさが逆に強い普遍性を持っている。愛する人の美しさや魅力を「Mystify（謎めく、魅了する）」という一言に集約し、何度も繰り返すことで、説明しがたい感覚そのものをリスナーに体感させる。恋愛における「言葉では言い尽くせない魅力」を描くという発想は、まさに音楽的であり、ハッチェンスの官能的なヴォーカルによって説得力を帯びている。
また「All the stars shining upon you」という一節に見られるように、対象の存在を宇宙的なスケールで讃える手法は、愛をロマンティックで壮大な次元に引き上げている。単なる情熱的な恋愛を超えて「神秘的な存在としての愛」を提示している点で、この曲は特別な意味を持つ。
サウンド面では、軽快なリズムと伸びやかなメロディが融合し、聴く者を高揚させる構造になっている。ファンクやロックに寄りすぎることなく、よりメロディアスなアプローチをとっている点は、INXSの多様性と柔軟性を示す好例と言える。
さらに、この曲は『Kick』の他の代表曲がセクシュアルな奔放さや都会的な享楽を描いているのに対し、「Mystify」はもっとロマンティックで感覚的な面を強調しており、アルバムの多彩さを裏打ちする存在となっている。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Never Tear Us Apart by INXS
同じ『Kick』収録のバラードで、ロマンティックかつ壮大な愛を描いた代表曲。 - Beautiful Girl by INXS
シンプルな歌詞で普遍的な美を讃える楽曲で、「Mystify」の延長線上にある。 - True by Spandau Ballet
愛をシンプルかつエレガントに表現した80年代の名バラード。 - Time After Time by Cyndi Lauper
愛の永続性をテーマにしたポップ・バラードで、感情の普遍性が共鳴する。 - With or Without You by U2
愛と依存をめぐる普遍的テーマを描き、「Mystify」の持つスピリチュアルな響きと通じる。
6. 『Kick』における役割と象徴性
「Mystify」は、アルバム『Kick』の中で特にロマンティックで叙情的な側面を担っている。『Kick』が世界的に評価された理由のひとつは、その音楽的多様性であり、都会的でダンサブルな曲と並んで、この「Mystify」のような繊細でロマンティックな曲が存在することで、アルバム全体の完成度が高まっている。
また、マイケル・ハッチェンスのヴォーカルがもっとも「愛の神秘」を体現している曲のひとつでもある。彼の歌声が持つ艶やかさと包容力は、単純なフレーズを普遍的な愛のアンセムに変える力を持っている。
「Mystify」は、INXSの魅力が「官能とロマンティシズム」の両面にあることを示す象徴的な楽曲であり、今なお多くのリスナーを魅了し続けているのである。
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