アルバムレビュー:More Light by Primal Scream

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発売日: 2013年5月13日
ジャンル: サイケデリック・ロック、アートロック、エクスペリメンタル・ロック


光を求めて、なおも叫ぶ——Primal Screamの終末と再生の交差点

2013年にリリースされたMore Lightは、Primal Screamにとって一種の「精神的回復」とも言える作品である。
アルバムタイトルの“More Light(もっと光を)”は、ゲーテの最期の言葉ともされるフレーズであり、闇をくぐり抜けた先にある“再生”や“希望”を暗示している。

前作Beautiful Futureではポップスの装いで政治と愛を歌っていた彼らだが、本作では再び怒りとノイズを全面に押し出しつつ、精神的・社会的テーマを多層的に描いている。
アートロック的な構成、サイケデリックな音響、そして詩的な言葉の奔流。

プロデュースは再びDavid Holmesが担当し、彼の映画的センスがアルバム全体にダークな奥行きを与えている。
暴力と祈り、崩壊と希望、絶望と光——そのすべてが混濁する現代の肖像として、本作は機能しているのだ。


全曲レビュー:

1. 2013

9分を超えるオープニング。
混沌としたホーン、歪んだギター、社会批判的な言葉が炸裂する。
「2013年、お前はどこにいた?」という問いが、アルバム全体のテーマを象徴する。

2. River of Pain

ストリングスとピアノによる荘厳なイントロから、突如としてノイジーな展開へ。
苦悩の川を渡る者たちの物語として、感情の流動性をそのまま音にしたかのよう。

3. Culturecide

“文化の殺戮”という言葉が、そのまま現代社会への告発となる。
鋭いビートとポストパンク的ギター、マントラのようなヴォーカルが重なり、政治性の高い一曲。

4. Hit Void

重たいリズムと幻覚的なサウンドが、存在の空虚さをなぞる。
「虚無を撃て」という命令形のタイトルも挑発的。

5. Tenement Kid

内省的なバラード。
少年時代の貧困や社会的断絶を回顧しながら、それでもどこかに残る希望を歌う。

6. Invisible City

見えない都市。
つまり、我々が日々過ごしている匿名性と孤立の現代社会を描いた楽曲。
音響はやや柔らかく、夢遊的なムードが漂う。

7. Goodbye Johnny

ノワール的な哀愁とスモーキーなサックスが印象的。
別れと死、過去との決別を描く静かな別れの歌。

8. Sideman

脇役=Sidemanに焦点を当てたユニークな視点。
主役ではない者の視点から、音楽産業や人間関係の構造を問う。

9. Elimination Blues

ロバート・プラントとの共演。
ブルースとアシッドロックが交差する、暗く艶やかな楽曲。
タイトル通り、排除と絶望の中に灯る一筋の火。

10. Turn Each Other Inside Out

内側を引き裂き、さらけ出し合う。
そんな関係性の激しさと暴力性を、パーカッシヴで緊張感のあるリズムが支える。

11. Relativity

相対性という哲学的テーマを扱った、ミドルテンポの深遠なトラック。
人間関係、真実、歴史、それらの多面性が描かれる。

12. Walking with the Beast

獣と共に歩む——つまり、欲望や怒り、自分の内なる“野生”と向き合う姿勢。
荒々しくも哀愁漂うギターが、深い余韻を残す。

13. It’s Alright, It’s OK

アルバムの最後にして、癒しと救済を歌うゴスペル・スタイルのバラード。
「大丈夫、きっと大丈夫」と繰り返すその言葉が、祈りにも似た温もりをもたらす。


総評:

More Lightは、Primal Screamが長年抱えてきた怒り、苦悩、信念、そして希望を、音として結晶化させた精神的集大成である。
90年代の破壊的衝動を経て、00年代のポップ再構築を経て、ここで彼らは初めて“赦し”と“癒し”の領域に足を踏み入れる。

しかしそれは決して穏やかなものではなく、あくまで苦しみを経た者だけがたどり着ける「光」なのである。
時に暴力的で、時に美しく、そして最後には慈愛に満ちたこのアルバムは、Primal Screamの変遷の中でも特に“深い夜”を感じさせる一枚だ。


おすすめアルバム:

  • Nick Cave & the Bad Seeds / Push the Sky Away
     静寂と闇をたたえた現代的ブルースの傑作。
  • Radiohead / A Moon Shaped Pool
     音響と感情が交錯する、熟成されたアートロック。
  • Spiritualized / Sweet Heart Sweet Light
     ゴスペルとサイケの祈りが融合したサウンド。
  • The Horrors / Skying
     空間性とサイケを融合させたモダン・ロック。
  • David Holmes / The Holy Pictures
     本作プロデューサーによる、映像的で感情的なソロ作。

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