1. 歌詞の概要
「Mope(モウプ)」は、Wheatus(ウィータス)のデビューアルバム『Wheatus』(2000年)に収録された楽曲で、自信のなさ、無力感、社会への違和感を抱えながらも、自嘲を交えつつ“自分らしさ”を探す10代の心象風景を描いた、繊細で静かなエンディング・トラックである。
「mope」とは英語で「ふさぎ込む」「くよくよする」「気分が落ち込む」という意味。
この言葉がタイトルとなっている本曲では、“何者にもなれない自分”に苛立ちながらも、その停滞感に身を委ねるような諦めと静かな受容が、柔らかいサウンドの中で描かれていく。
アルバムを通して描かれた“ティーンエイジ・アウトサイダー”の物語は、この曲で**“出口のない自己対話”という形で静かに幕を下ろす**。ポップでユーモラスだった前曲たちとは対照的に、内向的でアンビエントなトーンが支配する終章となっている。
2. 歌詞のバックグラウンド
Wheatusの代表曲「Teenage Dirtbag」では、“負け犬ティーン”が自己肯定を手に入れる瞬間が描かれていた。
一方で、この「Mope」はその裏側にある“肯定されなかった自分”のまま終わる現実を描いている。
本曲はアルバム最後のトラックであり、ブレンダン・ブラウンが明らかにパーソナルな視点から、心の中で自問自答を繰り返すような語り口を取っている。
社会にうまくなじめない、恋愛もうまくいかない、家族も敵じゃないけど味方でもない。そんな“宙ぶらりん”の状態が、この曲では派手な感情ではなく“ため息のような声”で紡がれている。

3. 歌詞の抜粋と和訳
“I don’t know what I’m doing / I just sit around and mope”
「自分が何してるかもわからない / ただ、何もせず落ち込んでる」
“Mom says I should get a job / But I don’t see the hope”
「ママは働きなさいって言うけど / そんな気力も希望も持てないよ」
“She says that I should date a girl / But they don’t even look at me”
「女の子と付き合えって言うけど / 彼女たちは僕を見ようともしない」
“I’d rather just stay here in my room / And play Nintendo 64”
「部屋にこもって / 64(ロクヨン)で遊んでるほうがマシだよ」
※Nintendo 64(ニンテンドウ64)という具体的な描写が、世代的なリアリティと同時に“社会との断絶”の象徴として機能している。
歌詞全文はこちら:
Wheatus – Mope Lyrics | Genius
4. 歌詞の考察
「Mope」は、**現実への絶望や怒りを激しくぶつけるのではなく、淡々と受け入れながらくよくよするという、10代らしい“諦め型の反抗”**を描いた楽曲である。
親の期待に応えられない。恋も始まらない。将来の見通しもない。
でも、「別に壊れてるわけじゃないんだ。ただ、何もかもがしっくりこないだけ」――そんな声が、この曲の裏には確かに存在している。
重要なのは、語り手が“問題のある子”ではなく、問題を抱えた世界の中で、立ち止まってしまった普通の若者であることだ。
「64で遊ぶ」ことで自分を守り、「就職も恋愛もピンとこない」ことで、自分の時間を保つ。その姿勢は不真面目に見えるが、同時に“唯一の誠実な選択”でもある。
この曲は、人と違っても、自分のペースで生きていいじゃないかという、静かで穏やかな肯定感を、反語的に伝えているのだ。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Creep by Radiohead
“自分が場違いだ”と感じる瞬間のリアルな感情を、ダークな音像で描いた名曲。 - No Surprises by Radiohead
日常に潜む無気力と逃避願望を、静けさの中に閉じ込めたバラード。 - Adam’s Song by blink-182
死と孤独に触れながら、それでも生きようとする10代の内省的なメッセージ。 - Disarm by The Smashing Pumpkins
家庭や社会に対する静かな怒りを、優しいメロディで包んだ名バラード。 -
Sleep by The Dandy Warhols
“何もしたくない”という感情をそのまま音楽に落とし込んだ脱力系の美学。
6. “くよくよしてるだけでも、生きてるってことだよな”
「Mope」は、誰ともつながれない夜、世界が遠すぎて手を出す気にもなれないときに、そっと横にいてくれるような曲である。
それは何も解決してくれないし、勇気づけてくれるわけでもない。でも、“それでもいい”って思わせてくれるやさしさがある。
10代のくよくよは、時に笑われ、否定されがちだ。だがその中には、自分を見失わないようにするための戦いが確かにある。
「Mope」は、何者にもなれなかった僕たちの、音楽による静かな記録。
それを、明るく終わらせるでもなく、かといって暗闇に突き落とすでもなく、“うつむきながらも前を向こうとする”ような温度で包み込んでくれる。
それがこの曲の、そしてWheatusというバンドの、誰にも真似できない魅力なのだ。
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