アルバムレビュー:Mirage by Camel

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発売日: 1974年3月1日
ジャンル: プログレッシブ・ロック、シンフォニック・ロック、ジャズロック


蜃気楼に浮かぶ叙情と構築美——“音による旅”の始まりを告げたキャメルの飛翔

『Mirage』は、1974年にリリースされたCamelの2作目のスタジオ・アルバムであり、初期キャメルの叙情性とインストゥルメンタル・スキルが本格的に開花した作品である。
そのタイトルの通り、“蜃気楼”のように揺らぎながらも、時にきらめき、時に深く沈む、幻影的でありながら構築性の高いプログレッシブ・ロックを提示した。

本作では、前作よりも楽曲のスケールが格段に拡大され、10分を超える長大な組曲を核に据えた構成となっている。
ピーター・バーデンスの鍵盤が織りなす幻想的世界、アンドリュー・ラティマーの叙情的なギター、アンディ・ウォードの柔軟なドラミング、ダグ・ファーガソンの安定したベース——
この時期のキャメルが誇る4人編成の奇跡的なバランスが、本作を“キャメル・サウンド”の原型として完成させたのだ。


全曲レビュー

1. Freefall

軽快なテンポと爽快なギターで幕を開ける、アルバム随一の明快さを誇る一曲。
ジャズロックの影響を感じさせるリズムチェンジや、変拍子を活かした構成が緻密。
ラティマーのフルートも登場し、幻想性とリズムのキレが共存するキャメルならではの魅力が詰まっている。

2. Supertwister

完全インストゥルメンタルの短編ながら、フルートが主役を務める詩的で牧歌的な小品。
ラティマーによる優しい旋律と、控えめなリズムセクションが心地よく、まるで夢の中を散歩するような感覚に浸れる。

3. Nimrodel / The Procession / The White Rider

アルバムの中心にして、キャメルの初期代表曲とされる壮大な組曲。
J.R.R.トールキン『指輪物語』のガンダルフ(白の騎士)を題材にした楽曲で、クラシカルな導入から壮麗なシンフォニック・ロックへと展開する。
中間部“Procession”ではマーチのようなリズムが神秘性を高め、“White Rider”ではラティマーのギターが泣き、物語はクライマックスを迎える。
Camelの物語性と叙情性の真骨頂。

4. Earthrise

タイトル通り、“地球の出”を想起させるような広大な音空間が魅力のインストゥルメンタル。
宇宙的スケールと浮遊感、そして希望のようなメロディが光る、Camel流スペース・ロックの逸品。
シンセサイザーの多重構築が幻想的なビジョンを描き出す。

5. Lady Fantasy: Encounter / Smiles for You / Lady Fantasy

ラストを飾る10分を超える組曲にして、Camel初期最大の名曲。
幻想的な出会い、回想、そして“幻の淑女”をめぐる哀しみと渇望が、美しくも切ないメロディと構成で描かれる。
メロディのリプライズと転調が巧みに織り込まれ、感情の起伏とともに音が語り、終幕では深い余韻を残す。
ライヴでは不動の人気を誇る名演でもある。


総評

『Mirage』は、Camelというバンドが持つ“構築美と感情の詩的統合”が初めて本格的に実を結んだアルバムである。
ここには、技巧的な展開や変拍子、組曲構成といったプログレ要素が揃いながらも、
それが決して“理屈”ではなく、聴き手の心を直接揺さぶる“メロディと空気”として伝わってくる。

音楽で物語を紡ぐこと。
言葉よりも深く、風景を、感情を、時間の揺らぎを表現すること。
『Mirage』は、そのような“音による旅”が本当に可能なのだと証明する作品である。

Camelというバンドの核心を知りたければ、まずこのアルバムを聴くべきだ。


おすすめアルバム

  • GenesisSelling England by the Pound
     組曲構成と英国的叙情の極み。Camelと並ぶ叙情派プログレの代表。
  • Focus『Hamburger Concerto』
     クラシカルかつインストゥルメンタル中心の構成がCamelと共鳴する。
  • Barclay James Harvest『Everyone Is Everybody Else』
     メロディ重視の構成と優しい空気感が近い。
  • Pink Floyd『Meddle』
     特に「Echoes」における空間構成や音の流れがCamel的。
  • Anthony Phillips『The Geese & the Ghost』
     物語性とギター主体の音作りがCamelファンにも響く一枚。

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