1. 歌詞の概要
「Midnight Love」は、ノルウェーのシンガーソングライター、girl in red（本名：Marie Ulven）が2020年に発表した楽曲であり、後に彼女のデビューアルバム『if i could make it go quiet』（2021年）にも収録された作品である。
この曲では、片思いの痛みと自己犠牲的な愛情が、静かで切ないトーンで描かれている。
「Midnight Love（真夜中の恋）」というタイトルが示す通り、相手にとって自分はただの都合のいい存在であることを知りながら、それでも相手を求め続けてしまう複雑な心情が中心テーマとなっている。
深夜、誰にも見えない場所でひっそりと交わされる愛情──それは、甘さと悲しみが入り混じった、繊細で胸を締めつけるような感情なのだ。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Midnight Love」は、Marie自身がかつて経験した片思いと、無償の愛に近い自己犠牲的な感情をもとに書かれている。
この曲は、従来のgirl in redのエネルギッシュなサウンドとは異なり、より成熟した、内省的なアプローチが取られている。
彼女はインタビューで、「この曲は、感情的に自分を搾取される立場にいることを自覚しながらも、それでも愛し続けてしまう自分自身への手紙のようなものだ」と語っている。
サウンド面では、ピアノを基調としたミニマルなアレンジと、Marieの囁くようなボーカルが特徴であり、心の奥底に沈む小さな痛みをより鮮明に浮かび上がらせている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
引用元：Genius Lyrics
“I know I’m not the one you really love”
私が本当に愛されているわけじゃないとわかっている“I guess that’s why I’ve never given up”
それでも諦められなかった理由なんだと思う“Midnight love”
真夜中の恋“You only call me when the sun goes down”
あなたが私に電話してくるのは、いつも日が沈んだあと
これらのラインは、報われない恋心と、それを知りながらも抗えない感情の痛みを、静かに、しかし深く響かせている。
4. 歌詞の考察
「Midnight Love」は、片思いという感情の持つ、甘美さと残酷さの両方を静かに、しかし鮮明に描き出している楽曲である。
「I know I’m not the one you really love」というラインは、冷静な自己認識を示しつつも、その認識が苦しみを伴うものであることを端的に表現している。
それでもなお「never given up」と続くのは、恋する者にとって理屈など無力であるという、痛烈な現実の提示だ。
また、「You only call me when the sun goes down」という描写は、相手にとって自分が必要なのは孤独な夜だけ──つまり「一時的な慰め」でしかないという現実を突きつけてくる。
それは自尊心を蝕むような関係性だが、同時に、愛したいという止められない欲求がそこに存在している。
girl in redは、この曲で恋愛における「自己喪失」の瞬間を、決して大げさにではなく、極めて静かに、しかし深く描き出している。
そしてその静かさこそが、聴く者の胸により深く刺さるのである。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- “Motion Sickness” by Phoebe Bridgers
裏切りと自己矛盾を、繊細に、しかし痛烈に描いたインディーポップの傑作。 - “Moon Song” by Phoebe Bridgers
無償の愛と、そこに伴う痛みを、夢見心地なサウンドに乗せて描いた楽曲。 - “Cellophane” by FKA twigs
愛されたいと願う痛みと、それに伴う自己否定を、極限まで赤裸々に描いたバラード。 - “Night Shift” by Lucy Dacus
別れた後の喪失感と、自己再生への希望を力強く歌ったエモーショナルなバラード。 - “Funeral” by Phoebe Bridgers
人生に対する静かな絶望と、そこに漂うかすかな希望を描いたインディーフォーク。
6. 愛するということの、甘さと痛み
「Midnight Love」は、girl in redが持つ驚異的な感受性と、恋愛に潜む矛盾をありのままに描く勇気が結晶した楽曲である。
愛することは、甘いだけではない。
誰かを想うことは、ときに自分をすり減らす行為でもある。
それでも──それでも、私たちは愛さずにはいられない。
girl in redは「Midnight Love」で、そんな痛みと美しさがないまぜになった感情を、驚くほど静かに、しかし確かな熱量で描き出している。
それは、すべての報われなかった恋、すべての「それでも愛したい」と願った心に寄り添う、静かで力強いアンセムなのだ。
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