発売日: 1985年2月11日
ジャンル: ポストパンク、インディー・ロック
『Meat Is Murder』は、The Smithsの2枚目のスタジオアルバムで、前作『The Smiths』から一歩進み、より社会的・政治的なテーマに踏み込んだ作品である。モリッシーの特徴的な歌詞は、個人的な感情の表現を超え、動物愛護、教育、階級闘争といった社会問題に鋭く切り込んでいる。音楽的には、ジョニー・マーのギターワークがより洗練され、多様なリズムやアレンジが試みられており、バンドの音楽的進化を感じさせる。特に、タイトル曲「Meat Is Murder」はベジタリアニズムを訴える強烈なメッセージソングとして話題を呼んだ。激しい政治的批判と共に、内省的な感情を深く掘り下げたこのアルバムは、The Smithsの音楽的な方向性を決定づけた重要な作品である。
各曲ごとの解説:
- The Headmaster Ritual
アルバムの冒頭を飾るこの曲は、学校での体罰や権威的な教育制度を痛烈に批判している。ジョニー・マーのファンキーなギターリフが印象的で、軽快なリズムと対照的にモリッシーの歌詞は痛切。権威主義に対する反発が、彼のアイロニックなボーカルによって強く表現されている。 - Rusholme Ruffians
ロカビリーのリズムを基調にしたトラックで、マーのギターが軽快に弾ける一方で、モリッシーの歌詞は若者の暴力や疎外感を描写している。マンチェスターの街の片隅で繰り広げられる暴力的な日常が、どこか虚無的に描かれている。 - I Want the One I Can’t Have
アップテンポでエネルギッシュな楽曲。欲望と手に入らないものへの焦燥感が歌われ、モリッシーの特徴的なメランコリックなボーカルと、ジョニー・マーのダイナミックなギターリフが印象的。欲望と現実とのギャップに苦しむ感情が強く表現されている。 - What She Said
激しいリズムと切れのあるギターワークが特徴の一曲で、モリッシーの歌詞は自己否定や内面的な苦悩を描いている。彼の抑揚のあるボーカルが、曲全体に緊張感を与え、激しい感情の表現が際立つトラック。 - That Joke Isn’t Funny Anymore
アルバムの中で最も感情的で内省的なトラック。ゆったりとしたテンポと物悲しいメロディが特徴で、孤独や喪失感をテーマにしている。ジョニー・マーのギターと、モリッシーの淡々としたボーカルが深い哀愁を醸し出しており、アルバムのハイライトの一つ。 - Nowhere Fast
明るいテンポと反復されるギターリフが特徴の楽曲。歌詞では、現代社会への失望と虚無感を皮肉たっぷりに表現している。モリッシーのウィットに富んだ表現が、曲の軽快なリズムと対照的に深いメッセージを込めている。 - Well I Wonder
静かで美しいバラード。雨の中で苦しむ感情や、切ない愛がテーマで、メランコリックなメロディとマーの繊細なギターが響き渡る。モリッシーのボーカルが特に感情的で、アルバムの中でも最も内省的で心に残る一曲。 - Barbarism Begins at Home
ファンキーなベースラインが印象的な長尺トラックで、家庭内の暴力や虐待をテーマにしている。アンディ・ルークのベースとマーのギターが絡み合い、リズミカルでありながらもシリアスなテーマが背後にある。シンプルなリフの繰り返しが、徐々に熱を帯びていく演奏が魅力的。 - Meat Is Murder
アルバムのタイトル曲で、モリッシーがベジタリアニズムを力強く訴えるメッセージソング。牛の鳴き声や牧場の音がサウンドエフェクトとして使われ、動物を食べることに対する激しい批判が歌われている。歌詞は非常に直接的で、バンドが社会問題に深く関与していることを示している。
アルバム総評:
『Meat Is Murder』は、The Smithsがより社会的・政治的なテーマに焦点を当て、彼らの音楽的アイデンティティをさらに確立した作品だ。モリッシーの歌詞は、動物愛護、教育制度、階級社会などへの批判を通して、より鋭く、彼の個人的な感情表現を超えて社会全体にメッセージを発している。ジョニー・マーのギターワークは、前作よりも多様性を増し、シンプルでありながらも豊かなサウンドを作り上げている。このアルバムは、The Smithsが単なるポストパンクバンドではなく、社会批評をも行うアーティスト集団であることを強く印象づけた一枚だ。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚:
- The Queen Is Dead by The Smiths
社会的批判と個人的な感情表現が融合したThe Smithsの代表作。『Meat Is Murder』のテーマをさらに洗練させた名盤。 - Entertainment! by Gang of Four
社会問題に鋭く切り込んだポストパンクの名盤。政治的なテーマとファンキーなリズムが、『Meat Is Murder』の社会的な側面と共鳴する。 - The Holy Bible by Manic Street Preachers
極めて政治的かつダークなテーマを扱ったアルバム。社会の暗部や個人的な苦悩が描かれており、The Smithsの批判精神に通じる作品。 - Closer by Joy Division
内省的でメランコリックなポストパンクの名盤。『Meat Is Murder』のダークな側面や、孤独感を表現した楽曲と共通する要素がある。 - Power, Corruption & Lies by New Order
社会的メッセージとエレクトロニカが融合したアルバム。The Smithsのロックサウンドとは異なるが、社会批判を伴った音楽的アプローチが似ている。
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