Lovedust by Luna（1994）楽曲解説

楽曲レビュー

2025.05.10

1. 歌詞の概要
2. 歌詞のバックグラウンド
3. 歌詞の抜粋と和訳
4. 歌詞の考察
5. この曲が好きな人におすすめの曲
6. 愛が終わったあとに、残るもの
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1. 歌詞の概要

「Lovedust（ラヴダスト）」は、Lunaが1994年にリリースしたセカンド・アルバム『Bewitched』に収録された楽曲であり、愛という名の残骸――あるいは、そのかすかな余韻だけが漂う瞬間を捉えたような、極めて詩的で繊細なラブソングである。

この曲における「Lovedust」という言葉は、愛が燃え尽きた後に残る灰や埃のようなもの――つまり、愛が終わってしまった後にもなお空気中に浮遊し続ける感情の微粒子を象徴している。曲全体に漂うのは、失われた何かへのやるせなさと、ふとした瞬間にぶり返す記憶の重みだ。

語り手は、すでに終わった関係に対して怒ってもいなければ、劇的な悲しみに沈んでもいない。ただ、空気の中にまだ「何か」が残っていることに気づき、その名残に静かに身を委ねている。まるで夜の光が埃を照らすように、見えない愛の痕跡が音楽の隙間から立ち上ってくるような曲なのである。

2. 歌詞のバックグラウンド

『Bewitched』は、Dean WarehamがGalaxie 500からLunaへと移行し、音楽的にも歌詞的にも成熟を遂げたアルバムであり、その中で「Lovedust」は最も繊細で内省的な側面を担っている楽曲のひとつである。

アルバムタイトルの“魔法にかけられて”というニュアンスにも通じるように、この楽曲は「愛という幻想が消えたあとの世界」を描いている。かつて魔法のように感じられた関係、熱に浮かされていた日々が過ぎ去ったあと、その夢から醒めてしまった人間の心の中には何が残るのか――その問いに、Lunaは淡いメロディと詩的な断片で答えようとしている。

この楽曲には明確な筋書きはない。登場人物の背景も、関係の詳細も描かれない。だが、聴き進めるうちに、誰しもが一度は経験した「終わってしまった恋のあと」の空気感に包まれていく。それはこの曲が、「喪失の輪郭」ではなく「喪失が残した気配」を描いているからである。

3. 歌詞の抜粋と和訳

There’s lovedust
On everything you touch
君が触れたものすべてに
まだ愛の埃が残っている

It lingers
Like a chemical trace
それは消えない
まるで化学反応の痕跡のように

You left in a hurry
I stayed in place
君は急いで去っていった
僕はその場に取り残されたまま

Now I’m choking
On your shadow and grace
いま僕はむせ返っている
君の影と優しさに

※ 歌詞引用元：Genius – Luna “Lovedust”

ここに描かれているのは、あまりにも静かな別れの後の情景だ。相手はすでに去ったが、その存在の痕跡がまだ部屋の空気や記憶の中に残っている。そして語り手は、その「微量の愛」にむせ返るような感覚に囚われている。

「Lovedust on everything you touch」という一節は、愛が“形として”残っているのではなく、むしろ“見えない粒子”として残り続けていることを意味している。そしてそれは、物理的な消失とは違う、もっと根深くて処理しきれない“感情の残り香”を象徴している。

4. 歌詞の考察

「Lovedust」は、Lunaというバンドが得意とする“語らないことで語る”という詩世界の極致であり、失われたものの存在感を「不在のかたち」で提示する楽曲である。

この曲の語り手は、過去を振り返っているわけではない。むしろ、今この瞬間に“過去がまだ残ってしまっている”ことに気づき、その状態をじっと見つめている。そこには劇的なカタルシスもなければ、癒しもない。ただ、去っていった誰かの気配が空気の中に漂っており、それに反応してしまう身体と心がある。それだけなのだ。

特筆すべきは、語り手が“その残り香を拭い去ろうとしない”ことだ。彼はただその存在を認め、息をしながら生きている。愛が完全に消えてしまうわけではなく、むしろ“消えないまま漂っている”ことをそのまま肯定する――この極めて静かで成熟した受容の姿勢が、この曲を他のラブソングとは一線を画すものにしている。