1. 歌詞の概要
「Love It When You Hate Me(ラヴ・イット・ホウェン・ユー・ヘイト・ミー)」は、**Avril Lavigne(アヴリル・ラヴィーン)が2022年にリリースした7枚目のアルバム『Love Sux』のセカンドシングルであり、ポップパンク界で注目を集めるアーティストblackbear(ブラックベア)**をフィーチャーしたデュエット曲でもある。
この曲の主題は一言で言えば、「破滅型恋愛」への中毒。
タイトルに表れているように、“私のことを憎むあなたが好き”という逆説的でアンビバレントな感情が繰り返され、愛と嫌悪、快感と痛みが交錯する関係性に身を投じる語り手の姿が描かれている。
歌詞では、相手からの侮蔑や冷たさすらも快楽に転化されるような、依存的で危うい恋愛のかたちが描かれつつも、どこかユーモラスで自己認識的な語り口が印象的である。
「最悪だけどやめられない」――そんな感情を、Avril特有のキャッチーで攻撃的なポップパンクサウンドにのせて、爽快かつ中毒性のある形で昇華している。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Love It When You Hate Me」は、Avrilが新たなポップパンク復権の波に乗って制作したアルバム『Love Sux』の中心的な楽曲のひとつであり、プロデューサーにTravis Barker(Blink-182)を迎えた本作のパンク精神を体現する一曲でもある。
blackbearとのコラボレーションによって、Z世代的な感覚――感情の混沌やオンライン文化に根差したロマンスの揺らぎ――が歌詞と表現に深く反映されている。
Avrilにとってこの楽曲は、単なる「恋愛ソング」ではなく、「私は今でもこのスタイルでやれるし、より自由に表現できる」という自己肯定の宣言でもある。
彼女はインタビューで、「この曲は“ややこしい恋愛にハマってしまった自分を笑い飛ばす”ような曲」「クレイジーな関係性が、なぜか刺激的で、切れない」と語っている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に代表的な歌詞を紹介する。
I’m a lush / And I’m drunk again off another crush
私は酒に溺れる女 また別の恋で酔っ払ってるのDon’t rush / Just take your time, don’t feel too much
焦らないで ゆっくりでいい 感情は抑えてI love it when you hate me
あなたが私を嫌うとき それがたまらなく好きなのYou make me feel so high / I always come back to you
あなたが私を最高にしてくれる だから結局いつも戻ってしまうのWhy do I keep coming back to you?
どうして私はいつもあなたに戻ってしまうの?
出典:Genius.com – Avril Lavigne – Love It When You Hate Me
このように、感情の矛盾と執着のスパイラルが描かれながらも、全体には軽快で自虐的なユーモアが漂っており、それがAvrilならではの“愛され型・反抗女子像”を確立している。
4. 歌詞の考察
「Love It When You Hate Me」は、恋愛における依存や感情の衝突を“快感”として再構成する楽曲である。
ここで描かれている関係性は、穏やかでも安定的でもない。
むしろ、けなし合って傷つけあって、それでも離れられないという共依存的な絆だ。
しかし、それを暗く重たく描くのではなく、自嘲気味に軽やかにラップ&シャウトすることで、リスナーが“あるある”と笑える距離感にしているのが、この曲の魅力でもある。
blackbearのパートは、男性側の視点から同じく「君がいないとダメなんだ」という対照的な依存心を描いており、2人の視点が交錯する構成になっている。
これは現代的な恋愛観――感情が爆発しやすく、持続が難しく、でも繋がりたいという矛盾――を見事に体現しているとも言える。
そして、この歌詞の強さは、「私たちは最悪だけど、これが私たちなんだ」と、**傷だらけの関係性すら愛おしいものとして受け止める“強さ”**にある。
Avrilはここでも、理想の愛ではなく、現実の恋のドロドロに飛び込んで笑っている。その姿勢が、多くのリスナーに“わかる”と感じさせるのだ。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Alone by Halsey
愛と孤独が入り混じる、自虐的でセクシーなポップナンバー。 - 11 Minutes by YUNGBLUD ft. Halsey & Travis Barker
中毒性のある関係性を激情的に描いた、現代ロックの愛の形。 - Bite Me by Avril Lavigne
「Love It When You Hate Me」と同時期に制作された、捨てられても強気な失恋アンセム。 - Hot Girl Bummer by blackbear
世間の価値観に抗いながら、矛盾と虚無感をポップに包むZ世代の反逆。
6. 感情の混線が生む“ラブソング” ― Avril Lavigne、永遠のポップパンク・ヒロイン
「Love It When You Hate Me」は、恋愛の矛盾・不安定・狂気――すべてを“キャッチーに笑い飛ばす”ことの美学を体現している。
それは、ただの恋愛ソングではない。
自己嫌悪と愛情、怒りと依存、強がりと素直さが同居した現代的なリアリズムに溢れたポップパンクなのだ。
「Love It When You Hate Me」は、
“めちゃくちゃなのに、やめられない”
そんな恋愛の真実を、Avrilらしい毒と光で描いた、2020年代のアンセムである。
嫌われてもいい。
でも、やっぱりあなたがいないとつまらない――
そんな誰かの本音に、この曲はとことん寄り添っている。
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