
発売日:2007年9月18日
ジャンル:Experimental Rock / Psychedelic Folk / Freak Folk
概要
Love Is Simpleは、Akron/Familyが2007年に発表したスタジオアルバムである。Seth Olinsky、Miles Seaton、Dana Janssen、Ryan Vanderhoofの4人で制作された最後のアルバムで、プロデュースにはAndrew Weissが参加した。ニューヨークを拠点に活動してきた彼らは、フォークを出発点としながら、サイケデリックロック、ドローン、即興、ノイズ、ゴスペル的な合唱までを一つの曲へ持ち込むバンドであり、本作ではその雑食性が特に大きなスケールで展開されている。
タイトルは「愛は単純だ」と極めて直接的だが、音楽はむしろ複雑である。アコースティックギターと数人の声だけで始まった演奏が、突然歪んだギターや激しいドラムへ膨張し、さらに民族音楽を思わせる打楽器や長い反復へ移っていく。一般的なヴァースとサビを繰り返すより、一つの素材が演奏の中で姿を変えていく構成が多く、スタジオ録音でありながら共同演奏の偶発性を強く残している。
一方、複雑なアレンジの中心に置かれる言葉は意図的なほど簡潔だ。愛、共同体、自然、死、生きていることへの驚きといった大きな題材を、理屈で説明するより短いフレーズの反復や全員の合唱によって身体的に伝える。この「単純な考えを複雑で騒々しい演奏によって確かめる」という逆説がアルバム全体を貫いている。2000年代のフリークフォーク周辺から登場しながら、そこからロックバンドとして大きく外へ広がったAkron/Familyの転換点である。
全曲レビュー
1. 「Love, Love, Love (Everyone)」
タイトルに同じ単語を三度並べたところから、本作の単純さへの意志が始まる。細かな意味を持つ歌詞を積み上げるより、「love」という言葉を複数の声で繰り返し、個人的な告白を集団的な呼びかけへ変えていく。演奏もフォーク的な親密さだけに留まらず、声と楽器が徐々に重なって共同体的な高揚を作る。洗練されたメッセージではないからこそ、アルバムが言葉の意味以上に「一緒に声を出す行為」を重視していることが伝わる導入曲だ。
2. 「Ed Is a Portal」
静かなフォークソングとして始まったと思えば、リズム、ノイズ、反復する声が次々に入り込み、曲の形が大きく変わっていく。特にドラムは単なる拍の維持ではなく、場面を切り替える装置として働き、演奏を穏やかな歌からサイケデリックな集団演奏へ押し出す。タイトルの「portal=入口」という言葉通り、一つの曲の中で別々の音楽空間を通過するような構成だ。本作が普通のフォークロックでは終わらないことを早い段階で決定づけている。
3. 「Don’t Be Afraid, You’re Already Dead」
死という重い言葉を扱いながら、音楽には意外なほど温かさがある。「恐れるな、もう死んでいる」という逆説的な題名は、絶望というより死への恐怖から自由になるための言葉として読むことができる。複数の声が同じ旋律を共有することで、一人が聴き手を説得する歌ではなく、集団で同じ事実を受け入れようとする歌へ変わる。宗教的な賛歌を思わせる響きもあるが、特定の教義を説明せず、生と死を簡潔な反復の中で考えさせる。
4. 「Lake Song/New Ceremonial Music for Moms」
前半の穏やかな歌から、次第に儀式的な反復へ移っていく長い曲である。ギターや声による素朴な旋律に打楽器が加わると、個人的なフォークソングだった音楽が複数人の身体を使う集団演奏へ変化する。「ceremonial music」という題名に似合い、後半では目的地へ進むより同じパターンを続けること自体が重要になる。Akron/Familyが曲を完成された物として提示するより、演奏によって状態が変化していく過程を聞かせるバンドであることがよく分かる。
5. 「There’s So Many Colors」
色彩の多さを歌う題名に対応するように、楽器の音色や声の重なりを次々に変えていく。アコースティックな響きの近くへ電子的な音や歪みを置いても、一方を異物として処理せず、すべてを同じ演奏の中へ受け入れる。歌詞も世界を一つの見方へ整理するより、多様なものが同時に存在することへの驚きを表しているように聞こえる。本作の肯定的な世界観を、抽象的な思想ではなく実際の音色の多さによって表現した曲だ。
6. 「Crickets」
短いインタールードで、まとまったポップソングというよりアルバムの空間を切り替える役割を担う。題名が示す虫の声を思わせる細かな響きによって、人間の歌と自然環境の音の境界を曖昧にする。前曲までの情報量が多い演奏から音を引くため、耳が一度外の環境へ開かれるような感覚がある。こうした小さな音の場面を長い曲の間に挟むことで、本作は激しい集団演奏だけではない呼吸を作っている。
7. 「Phenomena」
反復するリズムを足場にしながら、演奏が徐々に熱を帯びていく。タイトルが「現象」を意味するように、特定の物語を追うというより、音が発生して変化していくこと自体へ注意を向けさせる曲だ。ギター、ドラム、声がそれぞれ独立して動きながら、一定の地点で一つの大きな塊になるため、整然としたアレンジと即興の境界が見えにくい。Akron/Familyのライブ的なエネルギーがスタジオ録音にも強く残された場面である。
8. 「Pony’s O.G.」
荒いギターと強いリズムが前へ出て、フォーク中心だったアルバムのイメージをさらに崩す。音は整えて並べられるというより互いに押し合い、ドラムがその混乱を強引に前へ運ぶため、ガレージロックやノイズロックに近い身体性がある。それでも複数人の声を使うことで、単独のフロントマンが支配するハードロックにはならない。静かな歌も轟音も同じ共同演奏の延長として扱う、本作のジャンルに対する自由さがよく現れている。
9. 「Of All the Things」
ここでは音の密度を下げ、旋律と言葉へ意識を戻す。題名の「数あるものの中で」という言い回しには、世界の無数の可能性から何か一つを選び取るような親密さがあり、大きな宇宙観を扱ってきた本作の中で視点が少し狭まる。声の重なりも巨大な合唱というより、互いの旋律を支える穏やかなハーモニーとして機能する。激しい曲の後にこうした簡素な歌を置くことで、アルバムの振幅がより大きく感じられる。
10. 「Love, Love, Love (Reprise)」
冒頭の主題が短い形で戻り、「愛」という最も単純な言葉をアルバム後半でもう一度確認する。最初から新しい結論を付け加えるのではなく、さまざまな演奏を通過した後で同じ言葉へ戻ることに意味がある。反復によってテーマを説明するというより、聴き手の記憶を呼び戻す役割が大きい。複雑に広がってきた作品を一度出発点へ戻し、終盤の長い展開へ向けた区切りを作っている。
11. 「Tropicalia」
題名はブラジルのトロピカリアを連想させるが、特定のスタイルを忠実に再現する曲ではない。細かな打楽器、揺れるリズム、サイケデリックな音色を自由に混ぜ、異なる音楽の語彙が同時に存在する状態を楽しんでいる。演奏は整った異国趣味へ収まらず、途中で密度や重心を変えるため、聞き慣れたジャンル名を付けた瞬間に別の方向へ逃げていく。Akron/Familyの雑食性を象徴するような一曲である。
12. 「Old People」
年齢や時間の経過という身近な題材を通して、本作で繰り返される生と死への視線をより日常的な場所へ戻す。大げさな悲劇として老いを扱うより、人間が時間の中で変化することを観察するような歌い方で、声にも素朴な温かさがある。アレンジも派手な音響実験を控え、言葉と旋律が自然に前へ出る。死を抽象的に扱った「Don’t Be Afraid, You’re Already Dead」と対照的に、時間の有限性を生活の側から見せる曲だ。
13. 「The Rider (Dolphin Song)」
長い尺を使い、アルバム終盤の大きな山場を作る。一定のパターンを反復しながらギター、打楽器、声を少しずつ積み上げるため、明確なサビがなくても演奏の圧力が段階的に増していく。歌と即興演奏の境界も次第に崩れ、個々のパートより集団が作る巨大なリズムそのものが主役になる。Akron/Familyのライブでの開放的な演奏を思わせる、サイケデリックロックとしての本作を代表する長編だ。
14. 「Love and Space」
最後はアルバムの二つの大きな言葉、「愛」と「空間」を並べる。ここまでの騒々しい集団演奏をそのまま巨大なクライマックスへするのではなく、音と音の間に余白を戻し、作品を静かに遠ざけていく。個人的な愛情から共同体、生と死、自然まで広がった視点が、最後には非常に大きな空間の中へ置き直されるように聞こえる。答えを言葉で説明するのではなく、響きが消えていく時間そのものを残してアルバムを閉じる。
総評
Love Is Simpleの面白さは、タイトルの単純さと音楽の複雑さが最後まで解消されないことにある。愛、生、死、自然といった題材に対して、Akron/Familyは難しい言葉で理論を作ろうとはしない。短い言葉を何度も歌い、メンバー全員の声を重ね、同じリズムを長時間反復する。思想を説明するのではなく、演奏する身体を通して確かめようとしているような音楽である。
そのため、本作では個人より集団が重要になる。誰か一人の歌声が前面へ出ても、やがて別の声が加わり、ハーモニーや掛け声へ変化する。楽器についても同様で、ギターソロが単独で頂点を作るより、ドラムや打楽器の反復へ複数の音が参加して全体を膨張させる場面が多い。ゴスペル、フォークの合唱、ロックバンドの即興という異なる方法が、「一緒に演奏する」という一点でつながっている。
一方、この方法はアルバムを意図的に散漫にもしている。短いフォークソングと長いサイケデリックな展開、環境音に近い小品、荒いロックが並び、統一された音色や一定のテンポを期待すると落ち着かない。しかし、その不安定さによって「どんな音も共同演奏へ参加できる」という本作の考え方が実際の構成にも反映される。ジャンルの混合を装飾ではなく、作品の基本原理にしているのである。
2000年代半ばのAkron/Familyはフリークフォーク周辺の文脈で語られたが、Love Is Simpleでは「奇妙なフォーク」という説明だけでは明らかに足りない。静かなアコースティック音楽から轟音、ドローン、民族的な打楽器、集団合唱までを行き来し、フォークにあった共同体的な歌の感覚を大規模な実験ロックへ拡張している。4人編成最後の作品という点でも一つの区切りであり、初期の親密さと後の大胆なサイケデリアが最も奔放に同居したアルバムである。
おすすめアルバム
Akron/Family by Akron/Family
2005年のデビュー作。小さな音、アコースティックギター、多重ボーカルを中心とする親密な作品で、Love Is Simpleの巨大な集団演奏へ発展する以前の実験性を確認できる。
Set ‘Em Wild, Set ‘Em Free by Akron/Family
2009年作で、3人編成となったバンドがサイケデリックロック、アフロビート的なリズム、フォークをさらに大胆に接続する。Love Is Simpleで拡大した音楽語彙の次の段階にあたる。
Sung Tongs by Animal Collective
アコースティックな反復、奇妙な声の重なり、日常と自然を結ぶ歌によって、フォークを実験音楽へ開いた2004年作。より電子的な方向へ進む以前のAnimal Collectiveと本作には多くの接点がある。
Rejoicing in the Hands by Devendra Banhart
小さな声とアコースティックギターを中心に、古いフォークと2000年代の個人的な感覚を結びつけた作品。Akron/Familyほど轟音へ向かわないため、同時期のフリークフォークが持っていた別の方向性を比較できる。
Lift Your Skinny Fists Like Antennas to Heaven by Godspeed You!
静かな反復を長い時間をかけて巨大な音へ成長させる構成に、本作の長編曲と共通する感覚がある。歌の共同体性を重視するAkron/Familyとは異なるが、小さな素材から圧倒的な集団演奏を作る方法を別の角度から味わえる。

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