発売日: 2009年11月2日(ライヴ収録:1992年8月30日)
ジャンル: グランジ、オルタナティヴ・ロック、パンク・ロック、ライヴ・アルバム
祝祭か、それとも終焉か——1992年レディング、Nirvanaの“伝説”が音となった一夜
『Live at Reading』は、Nirvanaが1992年8月にイギリスのReading Festivalで行った歴史的なヘッドライナー公演を完全収録したライヴ・アルバムであり、バンドの頂点と崩壊寸前の境界線が交錯する、圧巻の“記録された伝説”である。
この公演は、Kurt Cobainを巡る健康不安、バンドの内部不和、ゴシップ過熱、そして音楽的プレッシャーといった様々な要素が渦巻く中で開催された。
しかし、蓋を開けてみれば、Cobainが車椅子に乗って登場するパフォーマンス(メディアの誇張に対する皮肉)から始まり、最後まで一切手を抜かない圧巻の演奏で観客を圧倒する、“Nirvanaの神話性”を象徴する夜となった。
2009年に正式音源化されるまで“伝説”として語り継がれてきたこのライヴは、単なるファン・アイテムではなく、“1990年代ロックの生々しさと臨界点”を封じ込めたドキュメント作品である。
全曲レビュー(抜粋)
1. Breed
序盤から全開のテンション。Cobainのシャウトが客席を突き抜け、Nirvanaの爆発力を即座に印象づける。
2. Drain You
混沌の中でも緻密に構成された演奏。ギターのフィードバックとリズム隊のアンサンブルが絶妙。
3. Aneurysm
不安定なメロディと怒りの爆発が共存。「Love you so much, it makes me sick」のシャウトが刺さる。
4. School
“No recess!”の叫びとともにステージが荒れる。Cobainのパンク的ルーツが全面に出た爆走チューン。
5. Sliver
軽やかな曲調に込められた幼年期の不安。客席とのコール&レスポンスが印象的なライヴ・テイク。
6. In Bloom
スタジオ版よりもややテンポが速く、ギターがラフに響くぶん感情の粗さが浮き彫りになる。
7. Come as You Are
会場全体がユニゾンするような名曲。リヴァーブの深い音響が“異世界のバラード”感を醸し出す。
8. Lithium
静と動のダイナミクスが最高の形で表現された一曲。“Yeah yeah yeah!”のシャウトが炸裂し、会場の一体感がピークに。
9. About a Girl
『Bleach』時代の佳曲が、成熟したバンドの演奏で再定義されるような感覚。
10. Smells Like Teen Spirit
この夜最大の爆発点。サビのたびに観客が熱狂の坩堝と化し、Cobainもギターを破壊する寸前のテンションで弾き倒す。
11. All Apologies(未発表曲として披露)
『In Utero』発表前にプレイされた初期形態。スタジオ版よりラフで、それゆえにより感情に直結する響き。
12. Dumb
同じく未発表段階の演奏。感情を抑えた歌い方が逆に痛みを際立たせる、静かなる焦燥。
13. Territorial Pissings
ラストに近づくにつれてテンションは最高潮。音楽というより“叫び”の塊。
14. The Money Will Roll Right In(Fang カバー)
ユーモアと毒が混在するパンク・カバー。Cobainの笑い声すら痛々しいほどの疲労と狂気がにじむ。
15. D-7(Wipers カバー)
どこか無機質で冷たいサウンド。Nirvanaのポストパンク的側面を示す隠れたハイライト。
16. Blew
この日の締めにふさわしい轟音ナンバー。最初期から演奏されていたこの曲が、最後に原点回帰として響く。
総評
『Live at Reading』は、Nirvanaというバンドが世界の頂点に立ちながら、同時にその地盤が崩れ落ちる音すら響かせていた——そんな矛盾の真ん中にあったことを証明する記録である。
ここにはスタジオでは聴けない、汗、歪み、怒声、そしてどこか“もうすぐ終わる”という予感のようなものが共存している。
Kurt Cobainが完全に“ステージの人”であると同時に、“ここにはもういたくない”と叫んでいるようにも聞こえる。
それでも、この一夜は音楽史に刻まれた“永遠の一瞬”なのだ。
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From the Muddy Banks of the Wishkah / Nirvana
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Fun House / The Stooges
グランジの原型ともいえる、破壊と快楽の“音の咆哮”。Cobainも愛した初期衝動の塊。
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