Liar by Argent(1970)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

「Liar」は、アージェント(Argent)のセルフタイトルのデビューアルバム『Argent』(1970年)に収録された楽曲であり、ロッド・アージェントと共にゾンビーズを離れたクリス・ホワイトが作詞作曲を担当した作品である。この曲は当初、アルバムの一曲として目立たずに収録されていたが、翌1971年にアメリカのバンドスリー・ドッグ・ナイト(Three Dog Night)がカバーしたことで爆発的にヒットし、Billboard Hot 100で7位を記録。以後、「Liar」はアージェントの原曲よりもスリー・ドッグ・ナイト版の方が有名となった。

しかし、オリジナルであるアージェントのバージョンは、より内省的かつ哀切なトーンを持ち、切迫した感情と鋭いメッセージ性が渦巻く傑作である。歌詞の主題は、「嘘」によって崩れた関係と、その傷に立ち向かう姿を描いたもの。ストレートな表現と繰り返しによって、“嘘”という行為が持つ破壊力と、その裏にある人間の脆さや誤解を浮かび上がらせていく。

2. 歌詞のバックグラウンド

アージェントは、ゾンビーズ解散後に結成されたプログレッシブ・ロック志向の新ユニットであり、その音楽性はジャズやクラシックの要素も取り入れた複雑なものだった。しかし「Liar」は、そうした前衛的なアプローチよりも、シンプルで情熱的なソングライティングの力を感じさせる楽曲となっている。

作詞作曲を担当したクリス・ホワイトは、ゾンビーズ時代から寓話的で繊細なリリックに定評があり、この「Liar」でも、恋愛関係の崩壊を象徴的かつ直接的に描いている。「お前は嘘つきだ(You’re a liar)」という強い断言が何度も繰り返されることで、感情の起伏というよりも、ある種の“悟り”や“突き放し”すら感じさせる冷静な怒りがにじみ出ている。

また、ロッド・アージェントのエレクトリックピアノと叙情的なメロディラインが、怒りと悲しみの二重構造を効果的に演出しており、演奏と歌詞が緊密に結びついた完成度の高い作品となっている。

3. 歌詞の抜粋と和訳

以下に、核心的なフレーズを抜粋して和訳を紹介する。

You told me you loved me
君は僕を愛してると言った

So I don’t understand
だから理解できないんだ

Why promises are snapped in two
なぜ約束が簡単に踏みにじられるのか

And words were made to bend
そして言葉は簡単に曲げられるためにあるのか

You’re a liar
君は嘘つきだ

You’re a liar
嘘で塗り固められた存在だ

引用元:Genius Lyrics

4. 歌詞の考察

「Liar」という一語には、ただ裏切られたという事実だけではなく、“信じていた時間すべてが否定される”という深い虚無感が込められている。冒頭から語られる“信頼”と“誓い”がいとも簡単に崩れ去る様は、恋愛という最も個人的な関係性における真実と虚構の曖昧さを突きつける。

「Why promises are snapped in two(なぜ約束は簡単に壊れるのか)」というラインは、理屈では説明できない現実の冷たさを象徴している。また、「words were made to bend(言葉は曲げられるためにある)」という皮肉な表現は、言葉の不確かさ、そしてそれを操る人間の欺瞞性を浮かび上がらせる。

この楽曲の魅力は、感情を爆発させるのではなく、ある種の理性的な口調で“怒り”を突きつけている点にある。それがかえって、より重く、より切実に響く。繰り返される「You’re a liar」というフレーズは、呪文のように静かに、しかし確実に心の奥へ突き刺さってくる。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Easy to Be Hard by Three Dog Night
     同じく恋愛における冷淡さと矛盾を描いたバラードで、感情のこじれを繊細に描く点で共通している。

  • Love Reign O’er Me by The Who
     愛に翻弄される人間の苦悩と怒りを、壮大なスケールで描いた作品。感情の激しさと芸術性が「Liar」に響き合う。
  • Tell Me Why by Neil Young
     恋人への問いかけを通じて、自分の感情と向き合う姿を描く内省的なフォーク・ロック。静かな怒りが共通項。

  • Behind Blue Eyes by The Who
     感情を抑え込む語り手の視点から描かれる孤独と怒り。語りのトーンが「Liar」の冷静さと重なる。

6. “嘘”という武器――恋愛と自己防衛の断絶線

「Liar」は、恋愛における嘘と誠実の境界を問う、鋭くも静かな楽曲である。そこには、感情の爆発や激情よりも、“すべてを悟った者”が放つ最後の言葉のような諦念と怒りが込められている。それがこの楽曲を、単なる失恋ソングではなく、心理劇のような深みある作品に押し上げているのだ。

また、スリー・ドッグ・ナイトによるカバーでは、よりドラマティックでソウルフルな解釈が施されているが、アージェントの原曲には、痛みを内に秘めたリアリズムと陰影があり、静かな怒りの表現としての完成度が際立っている。


「Liar」は、“信じていた言葉が裏切られた瞬間”の絶望を、静かに、だが鋭く切り取った名曲である。
その怒りは炎のように燃え上がるのではなく、冷たい刃のように心を切り裂く。
だからこそ、この曲は時代を超えてもなお、私たちの痛みに寄り添い続けるのである。

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