アルバムレビュー:Kronos Quartet Performs Philip Glass by Kronos Quartet / Philip Glass

※本記事は生成AIを活用して作成されています。


発売日:1995年

ジャンル:現代音楽、ミニマル・ミュージック、弦楽四重奏、室内楽、ポスト・ミニマリズム

※本作は Philip Glass名義の自作自演アルバムではなく、Kronos QuartetがPhilip Glassの弦楽四重奏作品を演奏したアルバムである。作曲はPhilip Glass、演奏はKronos Quartetが担っているため、作品の性格としては「Philip Glass作品集」であり、同時にKronos Quartetの重要な録音作品でもある。

概要

Kronos Quartet Performs Philip Glass は、アメリカの弦楽四重奏団 Kronos Quartet が、ミニマル・ミュージックを代表する作曲家 Philip Glass の弦楽四重奏作品を演奏したアルバムである。1995年にリリースされた本作は、Glassの弦楽四重奏曲第2番から第5番までを中心に収録しており、彼の作曲語法が弦楽四重奏という伝統的な室内楽編成の中でどのように機能するかを示す重要な録音である。

Philip Glassは、Steve Reich、Terry Riley、La Monte Youngらと並び、1960年代以降のアメリカン・ミニマリズムを形成した中心的人物である。彼の音楽は、短い音型の反復、微細な変化、持続するリズム、明快な和声、そして時間感覚の拡張を特徴とする。初期には、伝統的なクラシック音楽の劇的展開や複雑な和声進行から距離を取り、同じパターンが少しずつ変化していくプロセスそのものを音楽の中心に置いた。

一方で、Glassの音楽は1980年代以降、オペラ、映画音楽、交響曲、協奏曲、室内楽などへ領域を広げ、初期ミニマリズムの厳格なプロセスから、より旋律的で感情的なポスト・ミニマルな作風へと変化していった。Kronos Quartet Performs Philip Glass に収録された弦楽四重奏曲群は、まさにその変化を理解するうえで重要である。ここでは反復は単なる機械的な運動ではなく、記憶、感情、都市的な不安、映画的な時間、追悼、抒情を支える構造として働いている。

Kronos Quartetは、1970年代末以降、弦楽四重奏のレパートリーを大胆に拡張してきた団体である。彼らは古典派・ロマン派の伝統的作品に留まらず、現代音楽、ミニマリズム、民族音楽、ロック、ジャズ、映画音楽、実験音楽、社会的テーマを持つ作品までを積極的に演奏してきた。Glassの音楽は、その活動理念と非常に相性がよい。反復を正確に刻む技術、音色の微妙な変化を作る感覚、長い時間の中で緊張を保つ集中力が求められるため、Kronos Quartetの精密かつ表現力豊かな演奏が大きな意味を持つ。

本作の意義は、Philip Glassの音楽を大規模なオペラや映画音楽の文脈ではなく、弦楽四重奏という比較的コンパクトな形式で聴かせる点にある。Glassの音楽は、シンセサイザーや管楽器を含むアンサンブル、オペラ作品、映画音楽の印象が強いが、弦楽四重奏ではその作曲の骨格がより裸の形で現れる。反復する音型、和声の移ろい、声部間の重なり、リズムの推進力が、4つの弦楽器の関係として明確に聴こえる。

また、弦楽四重奏という形式は、西洋音楽史において非常に重い伝統を背負っている。Haydn、Mozart、Beethoven、Schubert、Bartók、Shostakovichといった作曲家たちは、弦楽四重奏を高度な構成力と内面的表現の場として用いてきた。Glassはその伝統に対して、古典的な主題展開や対位法の複雑さではなく、反復と時間の変化という別の論理を持ち込んだ。本作は、その意味で、20世紀後半以降の弦楽四重奏がどのように更新されたかを示すアルバムでもある。

日本のリスナーにとって本作は、Philip Glass入門としても、Kronos Quartet入門としても非常に有効である。Glassの音楽を映画音楽やオペラから知ったリスナーには、より純粋な室内楽作品としての魅力を示す。一方、クラシックの弦楽四重奏に馴染みがあるリスナーには、反復と簡潔な和声がいかに深い緊張と感情を生むかを体験できる作品である。

全曲レビュー

1. String Quartet No. 2 “Company”: I

弦楽四重奏曲第2番 “Company” は、Samuel Beckettの同名作品のために書かれた音楽をもとにしている。第1楽章は、アルバム冒頭にふさわしく、Glassの室内楽的な美学を端的に示す。短い音型が反復され、わずかな変化を伴いながら、静かに緊張を生み出す。

音楽的には、弦楽器の透明な響きが重要である。Glassの反復は、単に同じことを繰り返すだけではない。和声が少しずつ移り、声部の重なり方が変化することで、聴き手の時間感覚が変わっていく。Kronos Quartetは、この微細な変化を硬くならず、自然な呼吸を持つ音楽として演奏している。

“Company” という題名が示すように、この作品には孤独と同行の感覚がある。Beckett的な世界では、人間は孤独でありながら、声や記憶、影のような存在とともにいる。第1楽章の静かな反復は、そのような内面的な独白を思わせる。音楽は劇的な出来事を描くのではなく、孤独な意識の周囲をゆっくり回り続ける。

2. String Quartet No. 2 “Company”: II

第2楽章は、第1楽章よりもやや動きが増し、Glassらしいリズムの推進力が明確になる。弦楽器は短い音型を刻み、各声部が重なりながら、ひとつの機械のように動いていく。しかし、その機械性は冷たいものではなく、身体的な脈動を伴っている。

Kronos Quartetの演奏では、リズムの正確さと音色の柔らかさが両立している。Glassの音楽は、演奏が硬すぎると単調に聴こえ、感情を加えすぎると構造が崩れる。その中間を保つことが重要であり、Kronos Quartetはこの作品の均衡を的確に捉えている。

この楽章では、反復が緊張を作る仕組みがよく分かる。同じ音型が続くことで、聴き手は小さな変化に敏感になる。わずかな和音の変化、アクセントの位置、音量の揺れが大きな意味を持つようになる。これはGlassの音楽を聴くうえで重要な感覚であり、本作全体にも共通する特徴である。

3. String Quartet No. 2 “Company”: III

第3楽章では、音楽は再び内省的な方向へ向かう。前楽章の推進力に対し、ここでは静けさと抒情が前面に出る。Glassの音楽における美しさは、複雑な旋律ではなく、簡潔な音型が繰り返される中で少しずつ感情を帯びていく点にある。

弦楽四重奏という編成では、各楽器の線が非常に露出する。Kronos Quartetは音の入り方、消え方、持続のさせ方を丁寧に扱い、Glassの旋律を過度に甘くせず、透明な悲しみとして表現している。ここには、Beckett的な乾いた孤独と、Glassの持つ静かな抒情性が交差している。

歌詞のない音楽でありながら、この楽章には語りのような感覚がある。音楽が何かを説明するわけではないが、反復の中で記憶が浮かび上がる。過去の断片、消えかけた声、近くにいるようで遠い存在。そうしたイメージが、弦楽器の簡潔な動きから生まれる。

4. String Quartet No. 2 “Company”: IV

第4楽章は、“Company” の締めくくりとして、作品全体の反復と孤独の感覚をまとめる。音楽は大きなクライマックスへ向かうというより、これまで続いてきた時間を静かに閉じる。Glassの音楽では、終わりはしばしば劇的な解決ではなく、反復が止まる瞬間として現れる。

この楽章でも、Kronos Quartetのアンサンブルは非常に精密である。特に、各声部が同じリズムを共有しながら、わずかに異なる音色を持つことで、音楽に立体感が生まれる。反復の中に含まれる微妙な陰影が、作品の内面的な深さを支えている。

“Company” 全体は、Glassの弦楽四重奏作品の中でも比較的短く、凝縮された作品である。しかし、その短さの中に、孤独、記憶、同伴、反復、時間といったGlassの重要な主題が詰まっている。アルバム冒頭にこの作品が置かれることで、本作は派手な技巧ではなく、時間と感情の細かな変化を聴くアルバムであることを示している。

5. String Quartet No. 3 “Mishima”: 1957: Award Montage

弦楽四重奏曲第3番 “Mishima” は、Paul Schrader監督の映画 Mishima: A Life in Four Chapters のために作曲された音楽をもとにしている。三島由紀夫の生涯と作品世界を扱った映画のための音楽であり、Glassの映画音楽の中でも特に重要な位置を占める。

「1957: Award Montage」は、映画的な断片性と弦楽四重奏の緊密さが結びついた楽章である。タイトルが示すように、過去の出来事や受賞、名声のイメージをモンタージュ的に扱っている。音楽は短いフレーズの反復によって進み、映像の切り替わりを思わせる推進力を持つ。

Kronos Quartetの演奏では、Glassのリズムが明確に刻まれ、都市的で冷たい緊張感が生まれる。三島由紀夫という主題に直接的な日本風の旋律を当てるのではなく、Glassは反復と和声の変化によって、人物の内面、社会的上昇、自己演出の感覚を描いている。この距離感が作品の強さである。

6. String Quartet No. 3 “Mishima”: November 25: Ichigaya

「November 25: Ichigaya」は、三島由紀夫の最期の日、1970年11月25日の市ヶ谷駐屯地での出来事を想起させる楽章である。タイトルの持つ歴史的重みは非常に大きく、音楽にも緊迫した空気が漂う。

音楽的には、反復する音型が切迫感を生む。Glassのリズムは、ここでは瞑想的というより、運命が迫るような圧力として機能する。弦楽四重奏の鋭いアタック、同じパターンの執拗な反復が、避けられない出来事へ向かう時間を表現している。

この楽章で重要なのは、Glassが事件を直接的な描写音楽として扱っていない点である。暴力や政治的主張を音で再現するのではなく、内面の緊張、儀式性、自己完結的な美意識を抽象的に表現している。Kronos Quartetの硬質な演奏は、その冷たい緊張を際立たせている。

7. String Quartet No. 3 “Mishima”: Grandmother and Kimitake

「Grandmother and Kimitake」は、三島由紀夫の幼少期、本名である平岡公威と祖母との関係を想起させる楽章である。前楽章の緊張に比べると、ここではより内面的で、記憶の中へ沈み込むような雰囲気がある。

音楽的には、穏やかな旋律と反復が中心である。Glassの旋律は簡潔だが、弦楽器で演奏されることで、どこか懐かしさと不安を同時に帯びる。幼少期の記憶は、単純な幸福としてではなく、後の人格形成に影を落とすものとして響く。

Kronos Quartetは、音量を抑えながら、線の美しさを丁寧に出している。この楽章では、Glassの音楽が持つ映画的な力がよく分かる。短い反復の中に、過去の情景、家族関係、孤独、記憶の閉じた空間が浮かび上がる。日本的な題材でありながら、音楽は異国趣味に傾かず、普遍的な記憶の音楽として成立している。

8. String Quartet No. 3 “Mishima”: 1962: Body Building

「1962: Body Building」は、三島由紀夫が肉体改造へ向かっていった時期を示す楽章である。文学者としての言葉の世界から、肉体、行動、演技、自己形成へと関心が移る過程が、音楽的にも動的に表現されている。

この楽章は、リズムの反復が非常に重要である。弦楽器の刻みは、筋肉の運動、トレーニングの反復、身体を作り変える行為を思わせる。Glassのミニマルな手法は、ここで身体的な訓練のイメージとよく結びつく。同じ動作を繰り返すことで変化を生むという点で、ミニマリズムとボディビルディングには奇妙な共通点がある。

Kronos Quartetの演奏は、機械的な反復に陥らず、緊張と推進力を保っている。音楽は冷静でありながら、内側には強迫的なエネルギーがある。三島の肉体への志向を、英雄的に美化するのではなく、構造的な反復として描いている点が興味深い。

9. String Quartet No. 3 “Mishima”: Blood Oath

「Blood Oath」は、血の誓いという強いイメージを持つ楽章である。三島由紀夫の作品世界や思想に含まれる忠誠、自己犠牲、美学化された死、儀式性といった要素が、タイトルだけでも強く想起される。

音楽的には、緊迫した反復と鋭い弦の響きが中心となる。ここでのGlassの音楽は、感情を大きく爆発させるのではなく、抑制された緊張を積み上げる。誓いという行為は、一瞬の感情ではなく、反復される意志、自己暗示、儀式によって成立するものとして描かれている。

Kronos Quartetの演奏は、冷静な精度を保ちながらも、音に張り詰めた力を与えている。各楽器の線が絡み合い、逃げ場のない構造を作る。この楽章は、“Mishima” 全体の中でも特に精神的な圧力が強い部分であり、Glassの音楽が歴史的・文学的主題を抽象的に扱う力を示している。

10. String Quartet No. 3 “Mishima”: Mishima / Closing

「Mishima / Closing」は、弦楽四重奏曲第3番の締めくくりであり、映画全体の終結にも対応する楽章である。ここでは、これまでの緊張、記憶、身体性、儀式性がひとつの終点へ向かう。

音楽は、Glassらしい反復を保ちながらも、強い終末感を帯びている。劇的な和声解決よりも、同じ音型が運命のように回り続けることで、避けられない結末が浮かび上がる。終わりは突然訪れるのではなく、最初からその方向へ進んでいたように感じられる。

Kronos Quartetは、この楽章を過度に感傷的にせず、冷たい美しさを保って演奏している。三島由紀夫という題材には、政治的・文化的に複雑な解釈が伴うが、Glassの音楽はそれを単純に説明しない。むしろ、人物の内面にある反復する衝動、美と死の結びつき、自己演出の構造を音楽化している。“Mishima” は、本作の中でも特に映画音楽と室内楽の境界を超えた重要作品である。

11. String Quartet No. 4 “Buczak”: I

弦楽四重奏曲第4番 “Buczak” は、画家 Brian Buczakへの追悼作品として書かれた。Glassの弦楽四重奏作品の中でも、特に哀悼と抒情性が強く表れた作品である。第1楽章は、静かでありながら深い感情を湛えた開始部となっている。

音楽的には、反復される音型の中に悲しみが沈み込んでいる。Glassの音楽では、悲しみは直接的な嘆きとしてではなく、同じ時間が繰り返される中で少しずつ深まっていく感覚として現れる。Kronos Quartetの演奏は、その抑制された悲しみを丁寧に表現している。

追悼作品であるにもかかわらず、音楽は過度に劇的ではない。むしろ、失われた人物の存在が、静かな反復の中で思い出される。記憶は直線的に語られるものではなく、同じ場面が何度も心に戻ってくるものだ。この楽章は、その記憶の性質をよく捉えている。

12. String Quartet No. 4 “Buczak”: II

第2楽章では、音楽にやや動きが増すが、根底にある哀悼の感覚は保たれている。弦楽器の反復は、心拍や歩行のようにも聴こえ、悲しみの中でも時間が進み続けることを示している。

Glassの追悼音楽は、感情を大きく吐露するよりも、時間の持続の中で喪失を受け止める傾向がある。この楽章でも、音楽は泣き叫ぶのではなく、淡々と進む。しかし、その淡々とした進行こそが、深い悲しみを感じさせる。悲しみは止まった時間ではなく、続いていく時間の中にある。

Kronos Quartetは、各声部のバランスを精密に保ちながら、音楽に人間的な温度を与えている。Glassの音楽は冷たいと言われることもあるが、この演奏では反復の中に柔らかな情感が宿っている。第2楽章は、“Buczak” の中でも、喪失と前進の感覚が交差する部分である。

13. String Quartet No. 4 “Buczak”: III

第3楽章は、“Buczak” の締めくくりとして、作品全体の追悼性をさらに深める。音楽は過剰な解決を避け、余韻を残す形で進む。Glassの反復は、ここで記憶の持続として機能している。

弦楽四重奏の響きは非常に透明で、各楽器の線が静かに重なり合う。Kronos Quartetは、音を厚く塗り重ねるのではなく、むしろ余白を大切にしている。その余白に、失われた人物の不在が感じられる。

この楽章の重要性は、悲しみを美化しすぎない点にある。音楽は美しいが、安易な慰めには向かわない。喪失は残り続ける。それでも音楽は続く。この姿勢は、Glassの追悼作品に共通するものであり、“Buczak” を単なる哀歌ではなく、記憶の形式として成立させている。

14. String Quartet No. 5: I

弦楽四重奏曲第5番は、本作の中でも最も完成度の高いGlassの弦楽四重奏作品のひとつであり、アルバム後半の大きな柱である。第1楽章は、明確な反復パターンと推進力を持ち、Glassの成熟した室内楽語法を示している。

音楽的には、各声部が緻密に組み合わされ、反復の中に豊かな動きが生まれる。初期ミニマリズムのような厳格なプロセス音楽ではなく、より旋律的で感情の幅が広い。弦楽四重奏という形式に対するGlassの理解が深まり、反復、和声、対話が自然に統合されている。

Kronos Quartetの演奏は、推進力と透明感のバランスが優れている。リズムは明確だが、硬くならず、音楽は流れるように進む。第5番の冒頭として、Glassの弦楽四重奏が単なるミニマリズムの応用ではなく、独自の室内楽として成熟していることを示す楽章である。

15. String Quartet No. 5: II

第2楽章は、第1楽章に比べて抒情性が強い。Glassの旋律的な側面が前面に出ており、反復は感情を支える基盤として機能する。短い音型が繰り返される中で、和声の変化が静かなドラマを作る。

この楽章では、Kronos Quartetの音色の美しさが特に重要である。Glassの旋律は単純に見えるが、その単純さゆえに演奏の表情が大きく影響する。音が平板になると音楽は力を失うが、Kronos Quartetは各フレーズに微妙なニュアンスを与え、曲に深みを持たせている。

感情的には、静かな憂いと祈りのような感覚がある。Glassの音楽における抒情は、ロマン派的な感情の爆発ではなく、同じ場所に立ち続けることで生まれる内面的な揺れである。この楽章は、その抒情性をよく示している。

16. String Quartet No. 5: III

第3楽章では、再びリズムの推進力が強まる。弦楽器が刻む音型は、Glassらしい運動性を持ち、聴き手を前へ引っ張る。第5番全体の中でも、構造的な緊張が高い部分である。

音楽的には、各声部の重なりが複雑で、単純な反復に留まらない。微細な変化が積み重なり、音楽は徐々に表情を変えていく。Kronos Quartetは、この変化を明瞭に示しながら、全体の流れを途切れさせない。

この楽章は、Glassのミニマリズムが持つ都市的な感覚をよく表している。機械的なリズム、移動する光、反復する風景、少しずつ変わる視界。こうしたイメージが、弦楽四重奏の抽象的な響きの中に浮かび上がる。現代都市の時間感覚を室内楽に移したような楽章である。

17. String Quartet No. 5: IV

第4楽章は、より内省的な性格を持つ。前楽章の推進力に対し、ここでは音楽が一度立ち止まり、深い感情の層へ入っていく。Glassの成熟期の作品に見られる、静けさの中の強い表現力がよく表れている。

Kronos Quartetの演奏では、音の持続と消え方が非常に丁寧に扱われている。反復されるフレーズが、単なる構造ではなく、記憶や呼吸のように聴こえる。弦楽四重奏の各声部が互いに寄り添うように動き、音楽に親密さを与えている。

この楽章の魅力は、聴き手に明確な物語を押しつけない点にある。悲しみ、沈黙、思索、祈り、回想など、複数の感情が入り混じる。Glassの音楽は、言葉を持たないからこそ、聴き手の内面に広がる余地を残している。

18. String Quartet No. 5: V

第5楽章は、弦楽四重奏曲第5番を締めくくる楽章であり、本作全体の終曲としても機能する。音楽は再び明確な反復と推進力を取り戻し、アルバムを力強く閉じる。

ここでは、Glassの作曲語法が非常にバランスよく示されている。反復、旋律、リズム、和声、構成が一体となり、弦楽四重奏としての完成度が高い。音楽は複雑すぎず、しかし単純でもない。聴き手は反復の快感に身を委ねながら、その中にある細かな変化を追うことができる。

Kronos Quartetの演奏は、最後まで集中力を失わない。各声部の精度、リズムの明快さ、音色の統一感が、作品に強い説得力を与えている。終曲としてのこの楽章は、Glassの弦楽四重奏作品が、現代音楽でありながら広い聴衆に届く力を持っていることを示している。

総評

Kronos Quartet Performs Philip Glass は、Philip Glassの弦楽四重奏作品を理解するうえで非常に重要なアルバムである。Glassの音楽というと、オペラ Einstein on the Beach、映画音楽、シンセサイザーを含むアンサンブル作品を思い浮かべるリスナーも多いが、本作では彼の作曲の本質が弦楽四重奏という凝縮された形式の中で示されている。

本作の中心にあるのは、反復と時間である。Glassの音楽では、短い音型が繰り返される。しかし、その反復は停滞ではない。わずかな和声の変化、声部の入れ替わり、リズムの揺れ、音色の違いによって、時間の感じ方が変わる。聴き手は、劇的な展開を追うのではなく、同じものが少しずつ違って見えてくる過程を体験する。これは、従来のクラシック音楽とは異なる聴取のあり方を求めるものである。

Kronos Quartetの演奏は、このGlassの音楽を非常に高い水準で実現している。ミニマル・ミュージックは正確さが不可欠だが、単に正確であればよいわけではない。反復する音型に生命を与え、音の微妙な表情を作り、長い時間の中で緊張を保つ必要がある。Kronos Quartetはその点で理想的な演奏団体であり、Glassの作品を冷たい機械音楽ではなく、人間的な室内楽として響かせている。

収録作品の幅も重要である。“Company” ではBeckett的な孤独と静かな反復が示され、“Mishima” では映画音楽と弦楽四重奏が結びつき、三島由紀夫の生涯と美学が抽象的に音楽化される。“Buczak” では追悼と記憶が反復の中に刻まれ、第5番ではGlassの成熟した弦楽四重奏語法が総合的に提示される。つまり本作は、単なる作品集ではなく、Glassの室内楽における表現の広がりを示す構成になっている。

特に日本のリスナーにとって、“Mishima” の存在は大きい。三島由紀夫という日本文学・戦後文化史において複雑な意味を持つ人物が、アメリカの作曲家Glassによって、さらにKronos Quartetの演奏によって抽象化されている。ここには、直接的な和風表現や表面的な異国趣味はほとんどない。むしろ、反復、儀式性、自己形成、死への接近といった構造的な要素が音楽化されている。そのため、“Mishima” は日本的主題を扱いながら、普遍的な心理劇として聴くことができる。

また、本作は弦楽四重奏という形式の現代的可能性を示している。古典的な弦楽四重奏では、主題の展開、対位法、和声の緊張と解決が重視されることが多い。しかしGlassは、反復と変化を中心に据えることで、弦楽四重奏を新しい時間感覚の器に変えた。Kronos Quartetはその変化を、現代音楽の文脈だけでなく、幅広いリスナーに伝わる形で演奏している。

本作は、現代音楽に苦手意識があるリスナーにも比較的聴きやすい。Glassの音楽は、調性感が比較的明確で、リズムも分かりやすい部分が多い。しかし、聴きやすいからといって浅いわけではない。むしろ、単純に聴こえる音型の中に、時間、記憶、喪失、緊張、映画的情景が折り重なっている。繰り返し聴くほど、最初は同じに感じられた反復の中に、多くの差異があることに気づく。

総合的に見て、Kronos Quartet Performs Philip Glass は、Philip Glassの代表的な室内楽録音であり、Kronos Quartetの現代音楽演奏家としての力量を示す名盤である。ミニマル・ミュージックの基本的な魅力を知る入口であると同時に、弦楽四重奏という伝統形式が20世紀後半にどのように更新されたかを理解するための重要な作品である。

おすすめアルバム

1. Philip Glass – Glassworks(1982年)

Philip Glassの音楽を広く聴きやすい形で提示した代表作である。ミニマルな反復、明快な和声、柔らかな旋律がバランスよく含まれており、Glass入門として非常に適している。本作の弦楽四重奏作品よりも編成は多彩で、Glassのポップ寄りの側面も理解できる。

2. Philip Glass – Mishima: A Life in Four Chapters(1985年)

本作に収録された弦楽四重奏曲第3番 “Mishima” の原点となる映画音楽である。弦楽四重奏版だけではなく、映画全体の音楽として聴くことで、Glassが三島由紀夫の生涯と作品世界をどのように音楽化したかがより立体的に理解できる。

3. Kronos Quartet – Different Trains(1989年)

Steve Reichの代表作 “Different Trains” を収録したKronos Quartetの重要録音である。ミニマル・ミュージックと弦楽四重奏、録音音声、歴史的記憶が結びついた作品であり、Glass作品集と並べて聴くことで、アメリカン・ミニマリズムの多様性が見えてくる。

4. Kronos Quartet – Pieces of Africa(1992年)

Kronos Quartetがアフリカに関係する作曲家の作品を演奏したアルバムである。反復、リズム、循環する時間感覚という点で、Glassのミニマリズムとも深く関連する。Kronos Quartetが弦楽四重奏を世界音楽的な表現媒体へ広げた重要作である。

5. Terry Riley / Kronos Quartet – Cadenza on the Night Plain(1985年)

Kronos QuartetとTerry Rileyの協働を示す重要作である。RileyはGlassと同じくミニマル・ミュージックの重要人物だが、より即興的、旋律的、サイケデリックな感覚を持つ。Glassの構造的な反復と比較することで、ミニマリズム内部の違いを理解しやすくなる。

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