
発売日: 1983年7月25日
ジャンル: スラッシュメタル、ヘヴィメタル
鋼鉄の疾走、スラッシュメタルの夜明け
1983年、アメリカ西海岸の地下シーンから突如現れたMetallicaは、デビュー・アルバムKill ‘Em Allによって、ヘヴィメタルの世界に新たな衝撃を与えた。
この作品は後に「スラッシュメタル四天王」と称される彼らの、全ての原点である。
従来のブリティッシュ・メタル(NWOBHM)やパンクの影響を独自に昇華し、圧倒的なスピード、リフの重厚感、攻撃的なボーカルで構成されたサウンドは、まさに新ジャンルの誕生を告げるものだった。
タイトルが象徴するように、妥協や商業性を完全に拒絶した姿勢は、当時の音楽産業への痛烈なカウンターでもあった。
プロデューサーにはポール・カーステンを起用し、まだ荒削りながらも切迫感とエネルギーに満ちた音像を刻み込んでいる。
このアルバムがなければ、後のスラッシュメタルは存在しなかったと言っても過言ではない。
全曲レビュー
1. Hit the Lights
バンドの初期デモから進化した1曲目。
ギターの暴走とともに「We’ll never stop, we’ll never quit / ’Cause we’re Metallica!」という宣言的な姿勢が炸裂する。
2. The Four Horsemen
デイヴ・ムステインの影響が残る複雑な構成の楽曲。
終末を象徴する「四騎士」のメタファーが、不吉なリフと共に駆け抜ける。
3. Motorbreath
短くシンプルな構成ながら、パンク的なスピリットとスピードが際立つナンバー。
「人生は短い、だから高速で生きろ」という若さの衝動が刻まれている。
4. Jump in the Fire
サバス的なグルーヴを持つヘヴィなトラック。
当初はエロティックな内容だったが、地獄の誘惑を描くような歌詞に変化。
5. (Anesthesia) – Pulling Teeth
クリフ・バートンによるベースソロ曲。
ディストーションとワウを駆使し、クラシックのような構成美を持つ異色のインストゥルメンタル。
6. Whiplash
モッシュピットの狂気をそのまま音にしたような、最速級のスラッシュナンバー。
ライブ・カルチャーへの愛と暴力的な熱狂を描く。
7. Phantom Lord
ファンタジー的要素を取り入れた歌詞と、スピード感のある構成が特徴。
中盤のブレイクダウンがライブでは観客の叫びを誘う。
8. No Remorse
戦争と殺戮をテーマに、道徳のない破壊の快感を描いた歌詞。
複数のテンポチェンジを経て、スラッシュの緊張感が極限に達する構成。
9. Seek & Destroy
ライブ定番曲として名高い、ミッドテンポでリフが印象的な一曲。
暴力と破壊への欲求をシンプルに表現しながらも、観客との一体感を生み出す力を持つ。
10. Metal Militia
メタル信仰をテーマにした締めくくり。
スピード、激情、そして自負に満ちたアンセム的ナンバー。
総評
Kill ‘Em Allは、単なるデビュー作という枠を越えて、ジャンルそのものを定義した歴史的作品である。
そのサウンドは荒削りでありながらも、革新性と熱量に満ちており、後のスラッシュメタル、デスメタル、メタルコアといったサブジャンルへの影響は計り知れない。
本作を特徴づけるのは、「速さ」と「攻撃性」、そして「DIY精神」である。
大手レーベルのサポートがなくとも、情熱と技術があればここまでの作品が作れるという事実を、多くの若きバンドたちに示した。
その後のMetallicaは、より複雑で洗練された音楽性を手にしていくが、彼らの核にある純粋な怒りと情熱は、このアルバムにすべて詰まっている。
メタルを愛するすべての人にとって、これは原点であり、今もなお燃え続ける火種なのだ。
おすすめアルバム
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Bonded by Blood by Exodus
——同時期のベイエリア・スラッシュの傑作。Kill ‘Em Allの兄弟的存在。 -
Show No Mercy by Slayer
——より攻撃的で悪魔的な美学を打ち出した初期スラッシュの重要作。 -
Killing Is My Business… and Business Is Good! by Megadeth
——元メタリカのデイヴ・ムステインが放ったカウンター。技巧と毒気が炸裂する。 -
Ride the Lightning by Metallica
——Kill ‘Em Allの進化形として、スラッシュにメロディと構成美を加えた次作。 -
Fistful of Metal by Anthrax
——NYからのスラッシュ初期代表作。アグレッシブさとキャッチーさが共存。
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