1. 歌詞の概要
「I Want to Live」は、Spacehogが1995年に発表したデビューアルバム『Resident Alien』の中盤に収録された楽曲であり、そのタイトルが示すように「生きたい」という極めてシンプルかつ切実な欲求をテーマとしたロック・バラードです。語り手は、生きることに対する強い欲望を持ちながらも、それと同時に苦しみ、葛藤し、現実に失望している様子を吐露しています。
この曲が語る「生きたい」という叫びは、単なる“生命の賛歌”ではありません。それは、自分自身の存在価値への疑念、孤独、空虚さに苛まれた末にたどり着いた、極めて人間的で切実な感情の発露なのです。美しくも不安定なメロディと、渦巻くようなギターとシンセの音像が、その精神的な揺らぎを的確に補完しています。
2. 歌詞のバックグラウンド
Spacehogの『Resident Alien』は、グラムロックの影響を受けた壮大でスタイリッシュなサウンドと、90年代的な虚無感やアイデンティティの危機を抱えた歌詞とのバランスが秀逸なアルバムです。「I Want to Live」は、その中でも特に内省的な楽曲のひとつであり、“生きる”という行為に対する思索が中心に据えられています。
バンドのフロントマン、Royston Langdonは、Spacehogの楽曲にしばしば存在の意味や社会との乖離、心の浮遊感といったテーマを取り込んでおり、この曲もまた彼自身の精神的な問いかけが色濃く反映されているとされています。明るく派手なイメージが強いグラムロックというジャンルにおいて、このような内向的で誠実な楽曲を提示したことは、Spacehogの独自性を象徴するものでした。
3. 歌詞の抜粋と和訳
I want to live
僕は生きていたいDon’t want to die
死にたくなんてないFeel like I’m losing my mind
自分の心を失ってしまいそうなんだYou can’t make me
君には、僕を変えられないよI want to love
愛したい、心からI want to feel
何かを感じたいんだSomething real
本物の何かをThat’s mine
僕自身のものを
歌詞全文はこちらで確認できます:
Genius Lyrics – I Want to Live
4. 歌詞の考察
「I Want to Live」は、非常にストレートな言葉で構成されながらも、その裏にある感情は複雑で多層的です。主人公は、“生きたい”と叫ぶ一方で、自分の心が崩れていくような不安を抱えており、さらに“自分のもの”と呼べる感情や関係、アイデンティティを求めています。
「You can’t make me」というラインに見られるように、他者からの圧力や期待に屈することなく、自分の意思で“生きる”ことを選びたいという欲求が、この曲の根底に流れています。これは、90年代という時代の中で、多くの若者が感じていた「社会への疎外感」や「自己の確立」というテーマと密接にリンクしています。
また、「real(本物)」という言葉の選び方にも注目すべきです。それは、現代における“虚構的な人間関係”や“形式的な愛”に対するアンチテーゼであり、語り手が欲しているのは、表面的な肯定ではなく、“本当に触れられる感情”なのです。つまりこの曲は、“生きたい”という欲求をきっかけに、「なぜ自分は生きるのか」「何のために愛するのか」といった根本的な問いに迫っているのです。
引用した歌詞の出典:
© Genius Lyrics
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Street Spirit (Fade Out) by Radiohead
生の儚さと心の喪失を描いた名バラード。無力さと希望の同居が「I Want to Live」と共鳴。 - Fake Plastic Trees by Radiohead
現代的な空虚さと、そこから脱したいという思いを繊細に表現したロックバラード。 - Disarm by The Smashing Pumpkins
幼少期のトラウマと向き合う曲。内面の闘いが中心にあり、感情の重みが共通する。 - Let Down by Radiohead
日常の中に感じる感情の浮遊感を描いた楽曲。自我と社会の間で揺れる心が共鳴する。
6. “生きること”は願いであり、闘いである
「I Want to Live」は、単なる生命賛歌でも、反抗の歌でもありません。それは、心の奥底にある「それでも生きたい」という、ほとんど祈りにも近い感情を吐き出した楽曲です。喜び、悲しみ、迷い、不安──それらをすべて含んだうえで、「生きることを選ぶ」という姿勢は、極めて誠実で、力強いものです。
この曲は、現実に疲れたとき、心が何かを求めているとき、あるいは「本当に自分の人生を生きているのか」と問いかけたくなる瞬間に、そっと寄り添ってくれる存在です。
“生きる”とは、何かを感じ続けること。
“愛する”とは、その感情を誰かと分かち合うこと。
Spacehogは、この曲でそう教えてくれているのかもしれません。
だからこそ、「I Want to Live」は今もなお、多くの人の胸を打つのです。
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