1. 歌詞の概要
「Ironbound」は、アメリカのスラッシュ・メタル・バンド、Overkillが2010年にリリースした15作目のスタジオ・アルバム『Ironbound』のタイトル・トラックであり、彼らの“再覚醒”を象徴する決定的な楽曲です。バンドの地元ニュージャージー州ニューアークの“アイアンバウンド地区”をモチーフとしながらも、単なる地名の描写ではなく、鋼のように屈しない意志と自分自身のルーツに立ち返る魂の叫びが込められたパワフルなスラッシュ・アンセムです。
歌詞は、何度叩きのめされようとも決して倒れない精神性、年月を重ねても衰えない自己の信念、そして「誰にも媚びず、自分の流儀で進む」というOverkillらしい不屈のアティチュードを高らかに宣言しています。「I am Ironbound(俺はアイアンバウンドだ)」というフレーズは、そのまま“鋼鉄の意志に貫かれた者”という意味であり、これはバンドの姿そのものを表現した自己賛歌とも言える内容です。
2. 歌詞のバックグラウンド
2000年代後半、Overkillはシーンの第一線からはやや距離を置いていた時期もありましたが、2010年の『Ironbound』リリースによって完全復活を遂げました。タイトル曲「Ironbound」は、文字通りバンドのカムバックを象徴するだけでなく、彼らが30年近く築き上げてきた“真のスラッシュ・メタル”への忠誠を明確に示す作品です。
この曲の舞台となる“アイアンバウンド”地区は、ニューアーク市内でも歴史的に労働者階級や移民たちが集まって暮らすエリアであり、鉄道や工場が立ち並ぶ“鋼の街”としても知られています。Overkillの出自でもあるこの場所は、バンドのアイデンティティの核であり、現代社会の華やかさとは一線を画す“泥と汗と鉄”の象徴とも言えます。
Bobby “Blitz” Ellsworth(Vo)とD.D. Verni(Ba)は、曲作りの過程でこのアイアンバウンド地区の精神性――「頑固で、曲げず、しぶとく、生き延びること」――をメタファーとして使用し、自分たちの音楽人生そのものを投影しました。それは単なる地元愛を超えた、“音楽と信念の拠点”への帰還宣言だったのです。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、「Ironbound」の印象的なフレーズと日本語訳を紹介します。引用元はMusixmatchです。
“Branded, the mark of shame”
「焼き印を押された、恥の烙印を持つ者」
“Crawling out of the sewer pipe / With a hunger for revenge”
「下水道の管から這い出てくる/復讐への飢えを抱えて」
“Ironbound, determined”
「アイアンバウンド、決して折れない」
“Hard as steel, never break, never bend”
「鋼のように硬く、決して壊れず、屈しない」
“I’m ironbound, just like you”
「俺はアイアンバウンド、お前と同じようにな」
これらのフレーズに共通するのは、“サバイバルと誇り”です。社会から見下されようと、汚れた道を歩こうと、心の中には決して折れない鋼のような芯がある――それがIronboundであり、それがOverkillの魂なのです。
4. 歌詞の考察
「Ironbound」は、Overkillが自らの歴史、ルーツ、そしてスラッシュ・メタルというジャンルに対する忠誠心を徹底的に打ち出した楽曲です。その歌詞には、怒りでも悲しみでもない、“確信”が宿っています。長年の音楽活動の中で、時代や流行に合わせず、自らの信念を貫いてきたことへの自負が、歌詞の随所に現れています。
たとえば、「Crawling out of the sewer pipe(下水道から這い出る)」という表現は、かつてOverkillが“アンダーグラウンド”シーンから這い上がってきた歴史を象徴しており、同時に社会的に見下される立場にいる者たち全員に対する連帯の言葉にもなっています。
また、「I’m ironbound, just like you」という最後の一節では、リスナーに対しても“お前も同じだろ?”と語りかけることで、Overkillの音楽に共鳴する人々が皆、“鋼の意志”を持つ戦友であることを示しています。これは単なる自画自賛ではなく、“生きづらい世界に抗う者たちへのエール”でもあるのです。
つまり、「Ironbound」とは、地名でありながら、同時に“生き方”を表す言葉でもあります。誰にでもある自分だけの“アイアンバウンド”に帰れ。そこに自分の芯がある。Overkillはそう訴えているのです。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- “Among the Living” by Anthrax
社会から逸脱した者たちへの共感と怒りを描いたスラッシュ・クラシック。 - “Hollow Ground” by Overkill
同アルバム収録。魂と信念の境界線を描く、内省的で重厚な名曲。 - “By the Sword” by Motorhead
死をも恐れず信念を貫く、魂の鋼鉄賛歌。Overkillとの精神的親和性が高い。 - “Battery” by Metallica
暴力と内的エネルギーを解放するイントロダクション的スラッシュ・アンセム。 - “Bonded by Blood” by Exodus
スラッシュ・メタルという“血縁”を高らかに謳い上げるタイトル曲。
6. スラッシュ・メタルの帰還――鉄で築かれた不屈の魂
「Ironbound」は、Overkillにとって“原点回帰”であると同時に、“進化した復活”の証でもあります。30年以上にわたるキャリアを経て、彼らはこの曲で「俺たちはまだここにいる」「誰にも媚びず、誇りを持って生きている」と堂々と宣言しました。
そのサウンドは、スラッシュの原則に忠実でありながら、現代的な鋭さと深みを持ち、歌詞は個人と社会、過去と現在、敗北と誇りの全てを織り込んだ“戦いの詩”です。
「Ironbound」は、過去の誇りと未来への信念を鋼鉄のリフに込めた、Overkillの魂の宣言。メタルとは何か? それは、“誰にも折られない意志”である――そう、この曲が教えてくれる。
コメント