INXS Suicide Blonde(1990)楽曲解説

1. 歌詞の概要

「Suicide Blonde(スーサイド・ブロンド)」は、オーストラリアのロックバンド**INXSインエクセス)**が1990年にリリースしたアルバム『X』のオープニング・トラックであり、同年のリード・シングルとして世界的にヒットしたナンバーである。この曲は、誘惑、自己破壊的美学、そして都市の夜に潜む危うい魅力を描いた作品で、INXSらしいセクシーかつダンサブルなサウンドと、文学的かつ刺激的な歌詞が見事に融合している。

タイトルの「Suicide Blonde」は、直訳すれば「自殺した金髪美女」となるが、実際には「自らの手で髪をブロンドに染めた女性」という意味のスラングでもある。これは見た目やイメージを作ることへの執着と、その裏にある不安定さや自己否定のニュアンスを含んでおり、まさに表層的な美しさと内面の揺らぎが交錯するキャラクター像が浮かび上がってくる。

この曲は、都市の夜に生きる“彼女”への観察と崇拝、そしてどこか冷めた視点が入り混じっており、INXS特有の官能性と危うさが強く滲み出た楽曲となっている。

2. 歌詞のバックグラウンド

「Suicide Blonde」は、フロントマンであるマイケル・ハッチェンスとギタリストのアンドリュー・ファリスによって書かれた楽曲で、インスピレーションの源となったのは、当時ハッチェンスが交際していたポップアイコンカイリー・ミノーグであると言われている。

1990年、彼女はカンヌ国際映画祭に登場する際、自ら髪を金に染めた。ハッチェンスはその様子を見て「スーサイド・ブロンドだな」と冗談交じりに言ったことが、この曲のタイトルの由来となった。ここで言う“自殺”とは実際の死を意味するものではなく、自分自身をリセットし、新しい外見とともに“再構築”する行為として捉えられている。

この楽曲は、INXSにとって前作『Kick』の大成功を経た後の重要なカムバック・シングルであり、全米チャートでTop10入り、オーストラリアでは1位を獲得するなど、バンドの90年代的成熟と進化を象徴する一曲となった。

3. 歌詞の抜粋と和訳

引用元:Genius Lyrics – INXS “Suicide Blonde”

You want to make her
Suicide Blonde
Love devastation

君は彼女を“スーサイド・ブロンド”にしたい
それは愛の破壊衝動さ

この冒頭は、相手(=彼女)を自分好みに作り変えようとする欲望と、それによってもたらされる破壊的な結果を示唆している。美しさと破滅の背中合わせな関係性が、わずか数行で表現されている。

She stripped to the beat
But her clothes stay on

彼女はリズムに合わせて脱ぐ
でも服は脱がないまま

この印象的なラインは、官能性と制御、見せかけと実体のズレを象徴している。観客を誘惑する仕草のなかに、冷静な自己管理と疎外感が存在しており、彼女は“消費される存在”でありながら、自身の力も持っている。

You were my plaything
You were my inspiration

君は僕のおもちゃだった
君は僕のインスピレーションだった

ここでは、“ミューズ”としての女性像と“所有物”としての視線が共存している。これは現代的に読み解くと、ジェンダー観への批評的視線にもつながる複雑な詩的構造だ。

4. 歌詞の考察

「Suicide Blonde」は、単なる恋愛ソングではない。むしろこの曲は、アイデンティティの構築と解体、欲望の政治、自己演出の危うさといった複雑なテーマを、ポップ・ロックの文法のなかでスタイリッシュに表現した楽曲である。

「スーサイド・ブロンド」は実在の女性像であると同時に、“他者からの視線に合わせて自己を変形する存在”のメタファーともいえる。その行為は主体的である一方、社会やメディアの美の規範に縛られた行為でもあり、そこに自己否定と創造のジレンマが見える。

また、“You want to make her suicide blonde”というフレーズにあるように、外見の変化は他者からの欲望によって促される。これは女性の身体やアイデンティティが、しばしば他者の欲望によって形作られる現代的状況を先取りしているかのような構造だ。

そして、マイケル・ハッチェンスのセクシーかつ不穏なヴォーカルは、この楽曲にさらなる層を与えている。彼自身もまた、メディアに消費され、アイコンとして“演じる”ことを強いられていた人物であり、この曲にはその自己投影すら感じられる。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • “Blue Monday” by New Order
    クールなビートと孤独な欲望が交差する、80年代後半の都市的エレクトロ・クラシック。

  • Enjoy the Silence” by Depeche Mode
    言葉を捨てて向き合う愛と痛み。静謐なダークロマンスの金字塔。

  • “Justify My Love” by Madonna
    視線、支配、快楽をめぐる、挑発的かつ実験的な官能ポップ。

  • “Kiss” by Prince
    最小限の構成で最大限のセクシーさを引き出すファンクの極北。

  • “I Wanna Be Adored” by The Stone Roses
    アイデンティティと崇拝の構造を見つめた、サイケデリックな自己像の探求。

6. 美の表象と崩壊の狭間──“自己演出”がもたらす解放と苦悩

「Suicide Blonde」は、INXSの中でも特に視覚性の強い曲であり、“彼女”がどのように見えるか、どのように振る舞うかという外面的描写が前面に出ている。しかし、その裏には自己像を演じることの苦悩と、消費されることの危うさが繊細に隠されている。

この曲はただのファッション・アイコンやナイトライフの描写にとどまらず、社会の中で女性がどう“見られ”、どう“装う”のかという構造への疑問を投げかけるものでもある。

INXSの中でも最もクールで攻撃的、そして考察的なこの曲は、30年以上経った今もなお、私たちが“見られる自分”と“本当の自分”のあいだで揺れる存在であることを思い出させてくれる。

「Suicide Blonde」は、誘惑と表象の舞台で演じるすべての“顔”に向けた、INXSからの鋭く美しいラブレターである。

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