アルバムレビュー:In the Pines by The Triffids

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※本記事は生成AIを活用して作成されています。

cover

発売日: 1986年8月
ジャンル: オルタナティブ・カントリー、ローファイ、フォークロック、オーストラリアン・ルーツロック


『In the Pines』は、The Triffidsが1986年に発表したサード・アルバムであり、
その前作『Born Sandy Devotional』が都市的で構築的な詩情に彩られた作品だったのに対し、
本作は土地と身体に根ざした“生の音”と“風景の記憶”を封じ込めたルーツ回帰の作品である。
舞台は西オーストラリアのパースから300km南東、ジャラの木が生い茂るジンジンの農場スタジオ
録音は完全に自主制作で、低予算、ローファイ、1週間で録音という、まるで“野外録音日誌”のような背景を持つ。

本作の音像は、自然音が紛れ込んだようなアコースティックと、温かくくすんだ空気感に包まれており、
同時期に登場したThe Smithsの『Hatful of Hollow』や、Violent Femmesのファーストに通じる**“感情のラフミックス”**とも言える。
結果としてこれは、The Triffidsというバンドの“風景との同化”を最も濃密に捉えたアルバムとなっている。


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全曲レビュー

1. Suntrapper
アルバムの幕開けは、のどかでやさしいアコースティック・ナンバー。
“太陽を捕まえる者”という表現は、大地と人の関係性を詩的に伝える。
ジル・バーツのコーラスが牧歌的で、季節の匂いすら感じさせる。

2. In the Pines
タイトル曲にして、アメリカーナの伝承曲を想起させるフォークバラード。
亡霊的なコード進行と繰り返される旋律が、深い森の奥行きと孤独を響かせる。

3. Kathy Knows
ややポップ寄りのミッドテンポ・トラック。
明るさの裏に傷ついた感情が潜んでおり、リリックには仄かなユーモアと悔恨が交錯する。

4. 25 to 5
静かな夜明け前の孤独を描くミニマルなピアノ曲。
時計の針のように淡々と進むビートと、断片的なリリックが夜の終わりを美しく描写。

5. Only One Life
“人生は一度きり”というメッセージを、あえて投げやりな口調で歌う。
皮肉と達観が共存する、マッカンビーらしいバラッド。

6. Do You Want Me Near You?
恋人との距離感をテーマにしたラヴソング。
ギターとフィドルがシンプルに絡み合い、切実なヴォーカルが胸に迫る。

7. Trick of the Light
後年のコンピレーションにも収録される人気曲。
リズム感があり、曲調もどこかカントリー・ロック調で軽快だが、
“すべてが蜃気楼のように消えていく”という感覚が根底にある。

8. Once a Day
バンジョーとハーモニカが絡む本格的なカントリー・ナンバー。
繰り返される日常と、そのなかでの感情の揺れを淡々と綴る。

9. She’s Sure the Girl I Love
他愛ないラブソングにも思えるが、裏には諦めや距離感が見え隠れする。
言葉を信じきれない男のモノローグ。

10. Jerdacuttup Man
オーストラリアの地名“ジェルダカトゥップ”を冠した奇妙なアップテンポ曲。
土着的リズムとプリミティブなヴォーカルが、バンドのオルタナ・カントリー色を強調する。

11. Wish to See No More
終盤に配置された静かなフォーク調のトラック。
“これ以上見たくない”という言葉には、痛みと優しさの両方が込められている。

12. One Soul Less on Your Fiery List
最後を飾るこの曲は、静かで深く、魂の重さをじわじわと語るようなバラード。
“灼熱の名簿に、もうひとつ魂が減った”という表現が、死と救済を同時に匂わせる。


総評

『In the Pines』は、**大地に根を張った歌と録音の“原風景アルバム”**であり、
The Triffidsの持つリリシズム、地理的想像力、そして集団創作のあたたかさが凝縮された作品である。
『Born Sandy Devotional』や『Calenture』のような“完成された名作”ではないが、
このアルバムには“生きた音楽の匂い”がある

1週間という短期間で録音され、自然のなかで息をするように鳴らされた音たちは、
どれも過剰に飾ることなく、むしろ削ぎ落とすことで“場所と感情”を直結させている
リスナーはそれぞれの楽曲から風の音、葉擦れ、虫の声、夕暮れの光といった情景を感じ取ることができるだろう。


おすすめアルバム

  • The Waterboys / Fisherman’s Blues
     ケルト音楽とルーツロックの融合が共鳴するスピリチュアルな作品。
  • Giant Sand / Ballad of a Thin Line Man
     アメリカーナと実験性が交差する乾いた音の世界。
  • Calexico / Feast of Wire
     風土とフォークロアを織り込んだエレガントなオルタナ・カントリー。
  • Willard Grant Conspiracy / Mojave
     荒野の空気と文学性を併せ持つポスト・アメリカーナの逸品。
  • Lambchop / How I Quit Smoking
     ローファイとアダルト・フォークが調和した内省的傑作。

特筆すべき事項

  • 録音は、デヴィッド・マッカンビーの兄グラハムが所有していたジンジンの農場で行われた
     スタジオではなく納屋を改造して作られた即席空間で、自然音や環境音もそのまま録音に残されている
  • 本作は初回版とリイシュー版で収録曲や曲順が異なる。後の再発ではボーナストラックも追加されており、
     さまざまな“形”の『In the Pines』が存在する点もこの作品のユニークさを物語っている。
  • 『In the Pines』というタイトルは、アメリカ南部のフォークソング「In the Pines(Where Did You Sleep Last Night)」へのオマージュとも解釈でき、
     The Triffidsのルーツ指向とノスタルジアへの接続点でもある。

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